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大型の商談が立ち上がった。新商品開発を任された。会社として重要なプロジェクトに入ることになった。社会人として働いていると、ハードな仕事に取り組むタイミングが訪れます。そのようなときに、忙しさのために精神がすり減ってしまったり、やる気がなくなってしまう燃え尽き症候群にならないよう、自分自身や周りのメンバーをケアすることが大事です。 

今回は、パンデミックが直撃して大変な状況に陥った企業3社のリーダーが語る、メンバーを燃え尽き症候群から守る5つの処方箋をご紹介します。自分自身を守るための、またマネージャーの方にとってはメンバーを守るためのヒントですので、ぜひお読みください。 

パンデミックが直撃した観光/メディア/医療業界のHRトップ3人が集合 

今回ご紹介するのはUNLEASH AMERICAというカンファレンスで話されたトークセッション「Battling HR Burnout: Supporting and Nurturing Your HR Warriors」の抜粋。セッションのタイトルを直訳すると「HRの燃え尽き症候群と闘う: HRのヒーローを支え、育てよう」というもので、パンデミックの渦中で労働環境の変化に対応したり、大量の退職者を食い止めたり、人員補充のための採用に奔走したりと、大変な状況で奮闘してきた人事・育成部門のメンバーを燃え尽き症候群から守るためにマネージャーは何をすべきか、という内容でした。 

このトークセッションは3人の話者によるフリーディスカッションだったのですが、そのメンバー選びが秀逸です。 

1人目の話者は、MGMリゾート・インターナショナルのHR部門トップ。ラスベガスを代表するリゾートホテルのベラージオやミラージュ、ルクソールなどを運営しています。また、アジア地域での統合型リゾート開発にも積極的で、すでにMGMグランドマカオを運営していますし、大阪の夢洲にできる日本初の統合型リゾート開発の事業者にも選ばれています。 

MGMはロックダウンのたびに施設を閉ざすことになり、そのたびにやれる仕事がほぼすべてなくなってしまう、という苦労を経験したそうです。 

2人目の話者は、フィナンシャルタイムズという世界的なメディア企業のHR部門トップ。こちらの企業はMGMとは対照的に、パンデミックが起こっているさなかにクラスター感染の現場に出向いて取材し続けなければならない、という苦労があったそうです。 

そして3人目は、パンデミック発生から夜を日に継いでワクチン開発に取り組むことになった、アストラゼネカ社のHR部門トップ。 

こうやって見ると、大変さの中身は3社それぞれ異なっていますが、そこで働いていた社員には大変なストレスがかかっていたであろうことがよくわかります。そのため、苦難の数年間を乗り越えた仲間を讃えるような、暖かい雰囲気でセッションがスタートしました。 

メンバーを燃え尽き症候群から守るための5つの処方箋 

セッションの目玉がタイトルにもあった、メンバーを燃え尽き症候群から守るために何をすべきかというお話。先ほどの3人がそれぞれポイントとして挙げていたものを取りまとめたのが、以下の5つの処方箋です。 

  1. 大事なのは信頼。正直に、オープンに、そしてフランクにメンバーと話そう
  2. 非常事態では、やるべきことをとことんシンプルにして伝える
  3. 打ち手の中の駒ではなく、課題解決の大事な要素として貢献している実感を持たせよう
  4. HRメンバー自身にも学習やコーチング、キャリア開発の機会を与えよう
  5. 目の前で起きている変化や未来に耳を傾け、それを抱きしめよう(受け入れよう) 

特に参加者のうなずきが多かったのが2番目の「とことんシンプルに伝える」と、3番目の「課題解決に貢献している実感を持たせる」でした。 

緊急事態では、あちこちで問題が噴出したり、それが雪玉のようにすぐに大ごとになったりして、どこから手を付ければよいかがわからなくなってしまうことがあります。そんな時に打ち手に優先順位をつけて、チームに落ち着きを取り戻してくれるマネージャーがいると、確かに安心できますよね。 

また、3番目にあるように、目の前の仕事をこなすことに追われていると、自分の仕事や役割に価値を感じられなくなって燃え尽き症候群になってしまう、というのも納得できますよね。自分が会社や社会の課題解決にしっかり貢献できていると思えれば、忙しい毎日に意味を感じて充実して過ごすことができるとのこと。この「自分の意味を見出す」というのは、心理療法の一種であるロゴセラピーでも重要視されていますので、ハードワークせざるを得ないメンバーの心のケアに有効であるのは間違いないでしょう。 

この5つの処方箋ですが、HR部門だけでなく私たちのような営業部門にとっても有効な内容だと思います。大型の商談や重要なプロジェクト。また人手不足のために各メンバーの仕事量が増えている場合など、いざというときに自分自身や周りのメンバーの心身がすり減ってしまうのを防ぐために、参考にしてみてください。 

参加者も思わず涙ぐんだ、アストラゼネカのコメント 

このセッションの中で最も印象的だったのが、アストラゼネカの人が開始10分後くらいに発した、以下のコメントでした。 

「厳しい状況」というのは、生き残った人/組織だけにとって、そこから何かを得られる「経験」となる。私たちアストラゼネカは、パンデミックを通じて以前よりも強い組織になることができた。  

ファイザーやモデルナなどとのし烈なワクチン開発競争。試験の際に用量を間違えてしまったことで、血栓が発生するリスクが生じられてアメリカでの正式承認が遅れたり、その結果として英国や欧州以外での接種回数が伸び悩むなど、決して順風満帆ではなかったアストラゼネカ社。苦労した経験が頭によぎったのか、涙ながらに語られたこのコメントを聞いた多くの参加者もまた、もらい泣きをしていました。 

先ほどの5つの処方箋によって厳しく長かったパンデミックを乗り越え、よりたくましい組織になったという矜持が強く感じられた瞬間だったと思います。 

このセッションで、危機下におけるマネージャーの大事な役割を学ぶことができました。そしてさらに、観光/メディア/医療というパンデミックが直撃した3つの業界を代表する企業が、それぞれたくましく対応して乗り越えたストーリーを聞くことができ、良質のドキュメンタリー番組を見た後のような充実感と、パンデミックから回復しようとしている世界経済の力強さを感じられました。 

はたして自分は、パンデミックを通じて以前よりも強いビジネスパーソンになれたのか? 

このセッションが終わり、次のセッション会場に向かいながら考えていたのは、「自分はパンデミックを通じて以前よりも強いビジネスパーソンになれたのか」ということでした。リモートワークにも慣れ、クライアントの営業組織がマルチチャネル化へと踏み出すお手伝いができましたし、目の前の仕事が忙しいからと後回しにしていた、海外のカンファレンスにも自ら出向いて情報収集するようにもなりました。しかし、「これで強くなれた!」と言えるものはないなと感じたのです。 

今回参加したセッションで得られた最大の収穫は、パンデミックの3年間を振り返り、デジタル活用やAIなどさらに変化する将来に対応して、さらにスキルを高める必要があることをまざまざと教えてくれたことでした。そして、改めてもっと多くのことを広く、深く学んでいきたいと強く思いました。 

さて、今回をもちまして、今年4月に訪問したUNLEASH AMERICAというカンファレンスのレポートを最終回にします。次は今年9月に開催されるB2B営業に特化したカンファレンス「Sales 3.0」への参加を予定しています。9月下旬以降にそちらのレポートを開始する予定ですので、どうぞご期待ください。 

参考:「Battling HR Burnout: Supporting and Nurturing Your HR Warriors」(Gena Restivo of AstraZeneca, Kirsty Devine of Financial Times, Cecile Maino of MGM Resorts International, Unleash America 2023, April 27, 2023