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2023年が始まりました。初詣でおみくじを引いた人も多いのではないでしょうか。そして、新聞や雑誌には今年の趨勢を予測する記事が多く掲載されていました。年始には誰もが一年間の運勢や趨勢を占ってみたくなるものでしょう。
そこでこのブログでは、2023年の世界のB2B営業のトレンドについて見ていきたいと思います。今年一年のビジネス運が吉と出るか凶と出るか、さっそく占ってみましょう。
意外と新鮮味のない記事が多かった「2023年のB2B営業予測」
このような企画を考えて年末から海外の記事を中心に色々と情報収集をしていたのですが、実はかなり難航しました。というのも、様々な雑誌や調査会社で「2023年のB2B営業予測」という記事が出されているものの、「2023年は顧客の経験にもっとフォーカスを当てる年」や「デジタルとリアルのハイブリッドがさらに定着するでしょう」といった、新鮮味のない表面的なものばかりだったからです。
面白くない記事ばかりが続いて、「もう今年はこの企画はあきらめて別のネタに変えようか」と思っていたところに見つけたのが、コグニズム社の記事「8 B2B Sales Trends Leaders Need to Stay Ahead of in 2023」(リーダーが先手を打つべき2023年の8つの営業トレンド)でした。
多くの記事が見て見ぬふりをしていた「来たるべき不況」
8つのトレンドの中には当たり前のことを書いている部分もありますが、他の記事との最大の違いは「これから不況がやってくる」という強い危機感がベースにあること。8つのトレンドのうち、6つが不況を乗り越えるためのアイデアなのです。
そして、この記事を読んで気づいたのが、他の記事ではこの「来るべき不況」という不快で不安になるテーマを見て見ぬふりをしているがゆえに、上っ面で面白味のない予測になっていたのだということです。大きな問題が見て見ぬふりをされている状況を、英語で「部屋の中の象(elephant in the room)」と言いますが、多くの記事では不況という巨象を一生懸命に無視しようとしていたのです。
これまでもアメリカの不況は日本にも影響を及ぼしてきた
とは言え、「不況はアメリカやヨーロッパの話で日本は関係ない」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、昔から「アメリカがくしゃみをすると日本は風邪をひく」と言われるくらいアメリカの景気は日本にも大きく影響しています。思い返せば2000年代初めのドットコムバブルの崩壊に2008年からのリーマンショックなど、アメリカ発の不況の余波がしっかりと日本経済に損害を与えてきました。
そう考えると、確実視されているこれからの欧米での不況の影響は今回も多少なりともあるはずです。そこで、日本にも来る可能性が高い不況に乗り越えるコツを、コグニズム社の記事から学んでいきましょう。ですので、8つのトレンドのうち不況とは関係のない、以下の一般的なトレンド2つはいったん対象外とします。
1. デジタル活用する購買担当者に対し、営業はハイブリッドのプロになることで適応しよう
2. 採用戦略を見直し、分析能力とデジタルに強い優れた営業担当者を採用しよう
不況期を乗り越える「よくある」3つのアイデア
まずは、残り6つのトレンドのうち、私たちにもなじみのある内容から見ていきます。ちなみに、紹介するトレンドの順番はもとの記事から入れ替え、解説部分も要点のみを抜粋しています。
3. 不況を乗り切る
予算の削減を余儀なくされる企業が出てくるでしょうし、営業は困難になります。しかし、不景気でもまだソリューションを必要としている企業はあります。自分たちのソリューションを必要としている顧客を探し、そこに集中しましょう。4. カスタマーサクセスを強化する
不況期には既存顧客の維持に注力するのが王道。そのためには積極的なカスタマーサクセスの実践が効果的です。5. テクノロジー/ツールを最適化・合理化する
ここ数年多くのB2B企業で様々な技術が導入されましたが、すべてが十分に活用されているわけではありません。不況期では量よりも質が重視されるようになるので、テクノロジー/ツールを見極めて最適化・合理化がなされるはずです。
「ターゲットを見直そう」「既存顧客に注力しよう」「テクノロジーにかかるコストを抑えよう」という、不況対策として一般的なお話なので深掘りせずに先に進むことにしましょう。
不況期を乗り越える「斬新な」2つのアイデア
コグニズム社の記事の中で秀逸なのが、次の2つのトレンドです。
6. 営業担当者のパーソナルブランディングを見直す
一般的に多くの人がLinkedInなどのSNSに時間を使っているので、そこである程度のパーソナルブランドを構築することは理にかなっています。
しかし、これには限界があります。不況期にはより多くのかつ上位の人が購買の意思決定に関わるようになるため、パーソナルブランドの効果は低下します。さらに、意思決定権を握る顧客の意思決定者は若い世代と比べてSNSを見る時間が短いため、個人のブランドではなく会社全体のブランドが購買の決め手になります。
そのため、SNSでの存在感をゼロにする必要はありませんが、そこに時間を使いすぎないようにしましょう。空いた時間をもっと別のことに使うのです。7. 関係性を活かして営業する
経済が不安定になると、人々はリスクを冒したり未知の場所に飛び込んだりしなくなりますので、これまでの人間関係が効果を発揮します。既存のネットワークをこれまで以上に活用しましょう。
また、商談発掘のためのアプローチから、受注に向けた商談対応、受注後のカスタマーサクセスといった営業サイクル全体を一人の担当者がカバーすることも有効です。営業サイクルを分割している組織の場合は、各ステージを一人で見られるようにするためのスキルアップが必要になるでしょう。
6番目の「不況期はパーソナルブランドの効果が下がるのでSNSに割く時間を減らそう」というのは、欧米の記事ではまず目にすることがない斬新な主張だと思います。
そして7番目の「関係性を活かすために、営業サイクル全体を一人の担当者でカバーしよう」というのも、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスというようにステージごとに担当を分ける最近の流行とは真逆をいく、これまた斬新な主張です。
この2つのトレンドのどちらもただ既存の常識の逆張りをしているわけではなく、「不況期の顧客の変化に合わせてB2B営業の当たり前を見直そう」という、読み応えがあって納得できる内容ではないでしょうか。
不況期を乗り越える最大の特効薬は「努力」
そして、8つのトレンドの最後は、トレンドというよりも読者を鼓舞する熱いメッセージで締めくくられています。
8. 努力以外の特効薬はない
2023年は営業担当者にとって絶好のチャンスの年です。スキルアップしさえすれば成功できるからです。
顧客にとっての価値を軸にして見込客と会話する。見込客の購買を専門家として支援する。目標を達成するためにどんな行動をどれだけすればいいかを組み立てる。これらのことに注力するのです。
人生におけるあらゆることと同様に、結果は自ずとついてくるものです。ただ、努力をすればよいのです。
今回の記事を参考に今年一年の抱負を考えてみよう
今回ご紹介した記事の内容をギュッと圧縮すると、2023年は「デジタルを活用しながら、来たる不況に備える年」「そのために顧客の変化に適応するとともに、努力してスキルアップしよう」ということでした。残念ながら占いとしては大吉という訳ではないですが、努力をすることで乗り越えて成長するチャンスになるというのは、おみくじに書いてある文章とも相通じるものがありますね。
まだ今年一年の抱負を決めていないという人は、今回の記事を参考にして自分はどんなスキルを高めたいのか、そのためにどんな努力をしたいのかを考えてみてはいかがでしょう。
ちなみに、私の今年の抱負の1つはこのブログで皆さんの役に立つ情報を1年間通じて発信し続けることと、そのために昨年に引き続き海外のカンファレンスやイベントなど様々な情報源に自ら飛び込んでいくことです。2023年もこのトライツブログにご期待ください。
参考:「8 B2B Sales Trends Leaders Need to Stay Ahead of in 2023」(Kate Lismore, Cognism LTD., 14 December 2022)