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1on1のコーチングに働き方改革、デジタル活用にD&I(ダイバーシティ&インクルーション)と、管理職に求められる役割は以前と比べて大幅に変化しています。そのため、管理職になったものの今の時代に合ったロールモデルが社内にいない、むしろ反面教師として真似しないように気を付ける必要がある「逆ロールモデル」の方が多い、などの話を耳にします。

忙しく働く自分のマネージャーを見て、「自分はマネージャーになりたくない」と考える若手も多く、マネージャー/リーダーとしてどうあるべきか、お悩みの方も多いのではないでしょうか。

ここ何年か、営業現場においても「生産性向上」「効率化」が求められてきたように思いますが、実際のところは米国と比較してデジタル化は明らかに遅れていますし、日々アナログな管理業務に忙殺されるマネージャーは少なくないでしょう。

そこで、今回のトライツブログでは2022年9月に米国で開催されたB2B営業専門のカンファレンス「OUTBOUND 2022」の「高効率な営業リーダーの5つの特徴」という講演内容をベースに、これからの営業マネージャーのロールモデルを考えてみたいと思います。デジタル化の進んだ米国での高効率なマネージャー像とはいったいどのようなものなのでしょうか。

特徴①「自己に意識を向け、常に成長しよう」

講演者はオラクルやマイクロソフト、IBMなどで営業組織を率いてきた経験をベースに、自ら営業コンサルティング&研修会社を創業・経営しているキース・ラブナー氏。そして講演のタイトルは「The 5 Traits of Highly Effective Sales Leaders」(高効率な営業リーダーの5つの特徴)。「高効率」という言葉がいったいどういう意味なのか気になると思いますが、今の時点では「ムダなく高い成果を上げられる」という意味として、いったん受け止めておいてください。

それでは、5つの特徴をそれぞれ見ていきましょう。1つ目の特徴は、営業リーダー自らが成長することです。

1.自己に意識を向け、常に成長しよう

メンバーや同僚からフィードバックを求めよう

自分がメンバーに対してどのようにふるまっているかに意識しよう

自説にこだわらず、代替案をメンバーに求めてちゃんと耳を傾けよう

労働時間の上限を決めよう(週72時間以上の労働は、55時間労働よりも効率が悪くなるというデータがある)

自分に寛容になり、それを他者へと広げよう

ここでの「成長」はリスキリングなどの学習ではなく、自らの対人関係での振る舞いを振り返って自省することで、内面的な成長に重きを置いています。また、がむしゃらに働くなどして自分を追い詰めるのではなく、労働時間の上限を決めるなど自分に対しても寛容に接するようにしよう、とあるのも今の時代を反映しているように思います。

特徴②&③「コーチングや業務を通じて、メンバーを育てよう」

2つ目と3つ目の特徴は、メンバーを成長させることに関するもの。2つまとめて見ていきましょう。

2.メンバーを育てよう

一人ひとりの個人的な目標を明確にしよう

チームのうち、ハイパフォーマーでもローパフォーマーでもなく、ミドルパフォーマーの育成に焦点を当てよう

自分がメンバーに期待していることが本当に適切か、チェックしよう

メンバーの実績ではなく強みと弱みに集中しよう

業績ではなく行動に対してコーチングしよう

3.戦略的に業務を設計しよう

あえて難しいプロジェクトに割り振り、協力させるように促そう

あえて失敗させてそこから学ばせよう(重要な商談/プロジェクトを除く)

2つ目はメンバー個々人の育成/コーチングについての心得で、3つ目は仕事の設計の仕方についての心得です。

2つ目の中にある「ハイパフォーマーでもローパフォーマーでもなく、ミドルパフォーマーの育成に焦点を当てよう」は耳が痛いという方も多いのではないでしょうか。問題を抱えている方やなかなか成果を上げられないローパフォーマーの方に時間をかけてしまい、大多数を占めるミドルパフォーマーの方に十分に関わり切れないといったことが起こりがち。そうではなく、大多数のミドルパフォーマーの成長に多くの時間を割くべきだというのが、ラブナー氏の主張です。

また、新しく着任したリーダーの中には、メンバーに対してついつい高いハードルを課してしまう方も見受けられます。自分が設定した目標をメンバーがなかなか達成できないときは、「自分がメンバーに期待していることが本当に適切か」妥当なものなのかを、客観的にチェックすることも大事だと思います。

特徴④「倫理観と善良な市民としての意識をはぐくもう」

4つ目の特徴は、リーダーの人格に関するもの。

4.倫理観と善良な市民としての意識をはぐくもう

手に入れたいものがあれば、まず自ら与えよう

マイナスの出来事をプラスに変換しよう

メンバーにはそれぞれ前向きな意思があることを前提に関わろう

常に快活な雰囲気を醸し出そう

メンバーに対してゲーム(競争)を仕掛けない

たとえそれが困難で痛みを伴ったとしても、常に正しいことをしよう

「マイナスの出来事をプラスに変換しよう」などとありますので、一見するとポジティブシンキングの話だけのようにも見えますが、それだけではありません。リーダーとして倫理観を持ち、善良な市民としてメンバーに接することが必要なのです。

4つ目の特徴をもっとも端的に表現しているのが、最後の項目である「たとえそれが困難で痛みを伴ったとしても、常に正しいことをしよう」。ただ、端的過ぎてわかりにくい部分があるので、少し解説します。この中で言っている「正しいこと」とは、例えば人種などの差別やハラスメントに対して断固とした姿勢を取ること。チームの中で業績を牽引してはいるものの、他のメンバーに対して敬意をもって接しようとせずハラスメントなどを繰り返すメンバーがいるのであれば、リーダーは決然と処罰・解雇すべきだ、というのがこの文章で表していることです。

2019年にWeWorkの創業者の倫理観の欠如が問題となり、退陣を強いられたというニュースを覚えている方もいらっしゃることでしょう。リーダーの倫理観が重要視されるようになり、進んでいる企業ではESGや差別の撤廃など社会的なアクションにも積極的に取り組むようになってきているという、米国の現在の世相をよく表している項目だと思います。

特徴⑤「チーム横断の協力体制を築こう」

そして最後となる5つ目の特徴は、チームの連携/協力体制の構築です。

5.チーム横断の協力体制を築こう

リーダーは80%の時間を聞き、20%の時間だけ話そう(質問することに時間を使おう)

隠し事はせず、すべてをオープンに

他部署のリーダーをゲストに招こう

実際の講演では、先ほどの4つ目に熱が入ってしまい時間が押してしまったので、この項目が駆け足になってしまいました。フルバージョンで聞けなかったのは残念ですが、協力的な雰囲気をチームの中に醸成することが重要なことは、短い時間の中で繰り返し述べられていました。

数字に直結するヒントではなく、5つの特徴に焦点を当てたことが意味するものは?

以上が高効率なチームを作るために営業リーダーに求められる5つの特徴でした。皆さんが期待していたものだったでしょうか。「もっと数字に直結するヒントがほしかった」「忙しい毎日を上手にやり繰りするテクニックを知りたかった」という方には、物足りなかったのかもしれません。

とは言え、数字のプレッシャーや個々のメンバー管理に追われてリーダーもメンバーも疲弊しがち、というのは日本でもこの講演が行われた米国でも違いはありません。むしろ当時の2022年9月の米国は、2021年半ばから始まったアフターコロナの好景気に急ブレーキがかかり、より営業リーダーにとって数字の比重が重くなった時期でもあります。

そのような状況下でも、あえてこれまで紹介してきた5つの特徴の方に焦点を当てているということに、この講演の意味があるのだと思うのです。

厳しい環境下でも疲弊せず、持続的に高い成果を出し続けられる営業リーダーになろう

ラブナー氏が提唱する5つの特徴を完結にまとめると、「成長」と「人格」という2つのキーワードになります。メンバーやチームだけでなくリーダー自身も「成長」しようとし、倫理的で高潔/誠実な「人格」の持ち主であること。短期的にいかに数字を上げるか/上げさせるかではなく、「成長」と「人格」の2つにスポットライトが強く当たっていることから本講演のタイトルにある「高効率」の真の意味合いが見えてくるように思えるのです。

つまり、自己/メンバー/チームの「成長」を促しつつ、高い「人格」で誠実にメンバーと接し、それをメンバーにも求める。これによって、厳しい環境下であってもリーダー自身もメンバーも疲弊することなく、持続的に高い成果を出し続けられるようになる。これがラブナー氏の言う「高効率」であり、日米を問わず今の営業リーダーに求められていることだと思うのです。

自社の営業リーダー、日本でいうところの営業マネージャーは自ら学び、メンバーを育て、高い人格を持っているか。自己およびメンバーの成長を支援するスキルを持っているか。そのスキルを十分に発揮しているか。そもそも「成長」と「人格」が重要だということをどこまで認識できているか。今回ご紹介した内容を、営業マネージャーに必要な素質について改めて考え直すきっかけにしていただければと思います。

参考:「The 5 Traits of Highly Effective Sales Leaders」(Keith Lubner, Managing Partner/Co-Founder of Channel EQ, Founder/Managing Partner of Channel Consulting Corp., Chief Business Strategist of Sales Gravy Inc., 20 September 2022)