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顧客に自社の商品やサービスを買ってもらうために、また自社の商品・サービスを活用して、DXなどの企業変革や課題解決に取り組んでもらったり、新商品の開発や生産ラインの更改に取り組んでもらったりするためには、相手を動かす能力、いわゆる「影響力」が必要です。
このブログをお読みの方の中にも、デール・カーネギーの「人を動かす」や、ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」などの、影響力についての本を読んだことがある方もいらっしゃるかもしれません。
今回のトライツブログは、営業における影響力の発揮の仕方に関する最新の記事をご紹介します。顧客を動かす力をもっと高めたい方、そのような力を部下やメンバーに身につけさせたいという方は、ぜひお読みください。
人との関わり方で影響力の発揮の仕方を学ぶ「人を動かす」
記事をご紹介する前に、今までに「影響力を高めるための方法」として、どのような切り口で考えられてきたのか、代表的な書籍の内容を簡単におさらいしておきましょう。
影響力に関する書籍として、1936年から読み継がれている古典がカーネギーの「人を動かす」。影響力を発揮して相手を動かすための手法が紹介されています。その例を挙げると、「相手に関心を寄せる」「心からほめる」「聞き手に回る」などの人との関わり方に焦点を当てた実践的なノウハウ。一言にまとめるなら、相手に興味を持って、こちらから親しみを示して友好的な雰囲気を作ることで相手を動かそうというもので、処世訓的なスタンスから影響力の高め方が紹介されています。
影響力を与える行動を心理学的に解明する「影響力の武器」
これに対し、社会心理学の観点から学究的にアプローチしているのが、チャルディーニの「影響力の武器」。1984年に初版発行していますので、こちらも長年読み継がれている名著です。
この中では、相手からの好意を受けたらそれを返したくなる「返報性の法則」や、自分が一度こうだと決めたらそれを継続しようとする「コミットメントと一貫性の法則」、少ないものや今自分が手にしているものにより価値を感じる「希少性の法則」など、営業や交渉の場面でよく使われる心理的な法則が紹介されています。
影響力の源泉となる資質を心理学的に分解する「情報発信者の武器」
そして、このチャルディーニ氏がCEOを務める英国のInfluence at Work社によって最近著されたのが、2022年3月発売の「情報発信者の武器」。これは人よりも影響力のある情報発信者(メッセンジャー)の要素を、またまた社会心理学の研究結果をもとに抽出しています。
「影響力の武器」では相手を動かす「行動」に焦点を当てていたのに対し、この「情報発信者の武器」ではその人の立場(社会経済的地位、支配力)や能力(有能さ、カリスマ性)、人となり(魅力、温かみ、弱み)といった「資質」に焦点を当てているのが大きな特徴です。つまり、人によって可能な、または適した影響力の発揮の仕方は異なる、ということなのです。
相手のコミュニケーションスタイルを知り、それに合わせる「影響力の7つの秘密」
このように、影響力とその源泉となるものについて、「人を動かす」では処世訓、「影響力の武器」では心理学的に実証された行動、「情報発信者の武器」では人の資質と、様々な観点から分析されて著作として刊行されています。それだけ影響力というものが、1つの切り口だけではうまく整理することができない、奥深いものだということなのでしょう。
そのような中にあって別の角度から影響力について分析し、企業にコンサルティングや研修を提供しているのがエレーナ・ズーカー氏。ズーカー氏は影響力を、ビジネスの現場で活用しやすいように6つのコミュニケーションスタイルに類型化しています。氏の代表作である「The Seven Secrets of Influence」(影響力の7つの秘密:未邦訳)から抜粋して紹介します。
①理論型:論理/理由/証拠を大事にする、構造的で詳細なコミュニケーション
②実用主義型:報酬や権威を利用する、交渉家、目的や周囲からの期待や従わなかったときの結果を盾に議論する
③守旧型:他者の意見の矛盾や問題点を指摘する、現状維持、立場にこだわる
④触媒型:柔軟で指摘を受け容れる、積極的に傾聴する、開けっ広げなコミュニケーション
⑤戦略型:相手のニーズやゴールに合わせたコミュニケーション、細かく合意形成する、反論に応じる
⑥理想型:感情を大事にする、ビジョンやミッションを共有する、イメージや例示を利用する、未来志向
コミュニケーションを取る相手がどのスタイルなのかを理解した上で、自分をそれに合わせて伝えるのが影響力を発揮するために重要だというのが、ズーカー氏の考え方。これまでに紹介した書籍とは異なる切り口ですが、6つのスタイルとそれへの対応方法をイメージしやすく、多くの企業に研修などで取り入れられているのも理解できます。
影響力を高いレベルで発揮するために重要なのは?
そして、このズーカー氏がB2B営業・マーケティングの専門サイトSales & Marketing Managementに記事を最近投稿したのですが、それがB2B営業に携わる私たちにとっても参考になる内容なので簡単に紹介します。
記事「Secrets of Influence: The Extra Edge for Sales」(影響力の秘密:営業担当者のための特別なヒント)では、上記の6類型について軽く触れるのみ。著書「影響力の7つの秘密」の最後の方で、影響力をより高いレベルで発揮するための手法として紹介している「傾聴と相手の理解」が、この記事の主題となっているのです。
記事の後段では、ズーカー氏が体験した実例をもとに「傾聴と相手の理解」がいかに影響力の発揮のために重要なのかを解説しています。ある多国籍企業から届いた分厚い提案依頼書を受けて、45分間のプレゼンテーションの場に臨んだ時の話です。その企業の会議室の席に着いたら、用意していたプレゼンテーションを始める前に、冒頭の10分間で相手のことを理解することに努めたのです。
「4か月前に提案依頼書を作ってから、この人たちに何か変化が起きているのだろうか? 」
「この人たちが真に望んでいるのは何だろうか? 」
「真の決定者は誰で、誰が誰の意見を尊重しているのか? 」
「プログラムを決めるときに最も大事にしているのは何だろうか?」
冒頭の10分間でこれらについてコミュニケーションをとったことで、何を誰にプレゼンテーションしたらよいかが分かり、最適な提案をすることができて受注につながったとのこと。記事の最後がこの事例の総括になっています。
影響を与えようとする前に、耳を傾け、観察し、相手を理解するための時間と努力を注ぎましょう。営業を経験した人は何度も聞いたことがあるとは思いますが、これによって真のインフルエンサーになる可能性が高まり、望む結果を得られるという効果が実際にあるのです。
相手のことを知ろう、というのは名刺交換と同じくらい営業の基本的な話です。しかし、影響力について長年研究してきた専門家が、どんなパターンの人にも共通して当てはまる要素として改めてこのことの重要性を再発見したというのに、この話の面白さがあります。ダ・ヴィンチの言葉に「洗練を突き詰めるとシンプルになる」というものがありますが、影響力について突き詰めた結果、こちらの発信の仕方ではなく受け手についての理解度に問題が還元されたということなのでしょう。
相手を理解しそれに合わせるだけで誰もが人を動かす影響力を発揮できる!
影響力を発揮するためには、その相手のことを知らなければならない。この記事の内容を一言でまとめると至って当たり前の話です。しかし、営業同行などを行ってわかるのですが、多くの営業担当者はプレゼンの前に「自分の話を始めるきっかけを掴む」「プレゼンの場を和ませる」などを目的に会話をすることはあっても、前述のように「相手を理解する」ために時間を使いません。
この記事からわかるのは、人を動かす影響力を持つということは、相手にインパクトのある話をすることだと思いがちですが、実はその前段階、相手を理解するというところがとても重要だということ。プレゼンの準備段階で、記事で紹介された4つの質問のように「どんな質問をして相手を理解するか」を考えておくことの必要性を感じました。
「顧客に耳を傾け、観察し、理解するための時間と努力を注ぐ」ことが自分自身として常にできているか。自社の営業メンバーが顧客を理解できるように教育ができているか。この記事は私たちに、シンプルだが大事な基本をおろそかにしていないかを改めて問いかけているように思います。
参考:「Secrets of Influence: The Extra Edge for Sales」(Elaina Zuker, Sales & Marketing Management, August 18, 2022)