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「あなたの話にはストーリーがない」「この提案書のストーリーはどうなってるの?」と言ったフレーズを耳にしたことはないでしょうか。もしかしたら「言われたことがある」という方もいらっしゃるかもしれません。

2012年に「ストーリーとしての競争戦略‐優れた戦略の条件」(著:楠木健、出版:Hitotsubashi Business Review Books) というビジネス書がベストセラーになりました。この本には、「ストーリーになっているか」「ストーリーが見えるか」という視点から競争戦略の優劣を見ていこう、ということが書かれています。それまでもストーリーやストーリーテリングについて書かれた本はありましたが、この本で「ビジネスの世界でもストーリーが有効だ」と感じた方も多かったのではないでしょうか。

実際に、ビジネスの現場においてストーリーで話すことにはパワーがあります。起業家のサクセスストーリーに触れると「私もチャレンジしてみよう!」と鼓舞されます。我々トライツのセミナーでも営業改革の事例をストーリー仕立てで紹介すると「イメージが湧いた」という声をいただきます。

しかし、いざ営業の現場でストーリーを使おうと思っても、どう組み立てていいのか、どう話せばいいのか分からない、という方が多いのではないでしょうか。また、どうなっていれば「良い」ストーリーなのか判断もつきづらいところです。

そこで、今回は営業におけるストーリーやストーリーテリングの活用について書かれた本を紹介しながら、現場で役立つ「営業ストーリー」のつくり方、使い方について考えていきたいと思います。

ストーリーとは何か?すぐれたストーリーとはどんなものか?

今回ご紹介する本は、「ゼロからつくる営業ストーリー」(著:ポール・スミス、出版:TAC出版)です。この本はベストセラーと言うわけではないし、Amazonのレビューでも賛否両論で、みんなが大絶賛!と言うわけではないのですが、私が見るところ営業の現場で使える「ストーリーづくり」「ストーリーテリング」のノウハウが簡潔にまとめられているのでおすすめしたいと思います。

まずはストーリーとは何か、について。

著者はストーリーとそうでないものを区別する要素として、下記の6つを挙げています。

  • 時間を示すもの
  • 場所を示すもの
  • 主人公
  • 試練
  • 目標や望み
  • できごと

つまり、ストーリーとは「いつ、どこで起こったことなのかが明示されていて、何らかの目標や望みを持った主人公に試練が襲いかかり、それを乗り越えていくできごとを記したもの」と言うことです。これらを顧客とのコミュニケーションに組み込むことで、営業現場でストーリーが使えます。

また、すぐれたストーリーについて、このように書かれています。

みんなが好きな主人公、怖がられている悪者、それに両者の壮大な戦いだ。基本的に、すぐれたストーリーには必ずこれらの要素がある。だがビジネスでのストーリー、特にセールス・ストーリーは、“聴き手に知ってほしいこと、考えてほしいことなどを伝える”目的で語られるため、さらにもう一つの要素を加えたい。それは、“聴き手にとって価値があるもの、聴き手に影響を与えるもの”が含まれていることだ

すぐれたストーリーとは、聴き手が親近感を覚える主人公が登場し、大きな試練と戦って乗り越えるものであり、そこから聴き手が教訓を得て、考えや行動を変えるきっかけになるようなものである、と言うことです。これらがすぐれたストーリーづくりのポイントになります。

営業にとっても楽しい、現場で続けられる「ストーリーテリング」

ストーリーテリングの効果について、著者はこのように書いています。

ストーリーテリングには特別な効果がある。ストーリーテリングを使うと、相手の注目を引き、関係を築くことができる。相手の感情に働きかけ、あなたやあなたが取り扱う製品を記憶に残す。あなた自身を特別な存在にし、競争相手から一歩抜きん出させてくれる。一般的なプレゼンテーションとは異なり、バイヤーはあなたからストーリーを聞きたがる。またストーリーテリングは、バイヤーだけでなく、あなたにとっても楽しい

様々なストーリーテリングの効果が述べられていますが、私が着目したのは最後の「あなた(営業担当者)にとっても楽しい」という部分です。

営業にとって顧客の役に立つかどうか分からない、顧客が聞きたいと思っていない商品やサービスの説明をすることほどストレスを感じることはありません。顧客が「時間の無駄だなあ」「早く終わらないかなあ」と感じていることを敏感に感じ取りながら、冷や汗をかきながら会話を進めるのが辛く、自然と顧客から足が遠のき、営業活動が進まない、という話はよく聞きます。

この「あなた(営業担当者)にとっても楽しい」を効果の一つとしているのは、著者が営業の心理を理解していることの証であると同時に、ストーリーテリングは現場で続けてもらいやすく、おすすめできる手法だと言うことです。

営業現場で役立つ「顧客の成功ストーリー」の組み立て方

ここまで、ストーリーとは何か、ストーリーの効果とは、というお話をしてきました。

ここからは営業現場で活用する場面の多い「顧客の成功ストーリー」の組み立て方について、本書を参考に、少しアレンジを加えた方法をお伝えしようと思います。ぜひ現場で活用してみてください。

まず、顧客の成功ストーリーとは「自社の商品・サービスを導入することで顧客が成功を実現するまでのストーリー」で、汎用的なものは、

  • Webサイト・会社案内
  • 商品・サービスカタログ
  • セミナー・ウェビナー
  • ブログなどの営業コンテンツ

などに活用でき、顧客ごとにカスタマイズすることで提案の際にも使うことができます。

その組み立ての手順は下記の通りです。

<顧客の成功ストーリーの組み立て手順>
①ストーリーを聞いた後で聴き手(顧客)にどう感じ・動いて もらいたいか目標を設定する
②顧客の成功ストーリー構成を整理する
③聞き手に語る順番に並び替えて物語にする

①は言わずもがな、ストーリーテリングの目標設定です。顧客にどうなってもらいたいかを具体的に設定します。

②のストーリー構成は、前に述べた

  • 時間を示すもの
  • 場所を示すもの
  • 主人公(顧客の成功ストーリーなので主人公は「顧客」)
  • 試練
  • 目標や望み
  • できごと

に主人公が使うアイテムとして「自社の商品・サービス」を組み込むことがポイントです。

③の語る順番は、下記をガイドに、面白くなるように並べ替えます。

  1. つかみ:顧客にストーリーへの興味を持たせるためのきっかけ
  2. 背景 :誰が主人公で、いまどんな状況か、目指す姿は何か
  3. 課題 :主人公が乗り越えるべき壁は何か
  4. 行動 :壁を乗り越えるために何をすればいいか
  5. ゴール:最後どうなったか(もちろんハッピーエンド)
  6. そして最後に、購買促進として、顧客はゴールに向かうために何をすればいいか(自社商品・サービスの導入)を伝えます。

以上が顧客の成功ストーリーの組み立て方です。

本書には「自己紹介」「良好な関係構築」「反論への対処」「取引成立に向けて」と言った様々なシーンで活用できる営業ストーリーの組み立て手順と具体例が掲載されていますので、ぜひ参考にしてください。

営業ストーリーを活用して、営業活動を楽しいものに

営業のコミュニケーションにストーリーやストーリーテリングが効果的というのは何も目新しいことではありません。しかし、本当にやろうとすると、やり方が分からなかったり、準備に時間がかかったりで、実際にきちんと活用したことがある方は少ないのではないでしょうか。

私が今回、営業ストーリーの活用をおすすめしたのは、その効果の高さもさることながら、やはり「営業も話していて楽しい」ということに尽きます。

営業は顧客の成功を支援できる、本来楽しい仕事であると思うのですが、顧客とのコミュニケーションがうまくいかず辛い思いをされている方も多くいます。

ぜひ、営業ストーリーの組み立て方を身につけ、同僚の前でウケるかどうか試してみてください。そして、「これはウケる!」と言う自信作を持って、顧客に語ってみてください。そうすることで、笑顔で顧客と向き合える回数が増え、営業活動が楽しいものになっていくに違いありません。

トライツコンサルティングでは、並走型のコンサルティングで、顧客とのコミュニケーション向上をサポートしています。自ら手を動かし、必要な経験を積み重ねていくプロセスのコーチ役としてサポートすることも可能です。ご興味のある方はいつでもお気軽にご相談ください。

参考:「ゼロからつくる営業ストーリー」(ポール・スミス、TAC出版、2019年3月22日)