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前回のトライツブログ「データを見て『ピンとこない』人は要注意!データ分析は営業マネージャーの必須スキル」では、「営業マネージャーのデータ分析スキルが、営業マネジメントの満足度を左右する」、つまり、営業マネージャーがデータ分析スキルを持っているかどうかで業績目標達成度が左右される、という調査レポートをご紹介しました。営業分野でもデータ分析が大事だと言われて久しいですが、それを実証する興味深いレポートだったように思います。
今回は、実際の営業マネージャーという仕事に本当にデータ分析スキルが求められているのか、米国の営業マネージャー職の求人情報をもとに確かめてみます。海外の営業マネージャーがどのような仕事をしていて、そのためにどのようなスキルを求められているのか、覗いてみましょう。
営業マネージャーの13の仕事とは
米国の平均的な営業マネージャーの仕事について、分かりやすくまとまっているのが米国Indeed社の「20 Sales Manager Skills」。これは、世界最大の求人検索サイトであるIndeed社に蓄積されている営業マネージャーの求人情報の中から、共通する要素をピックアップして平均的な営業マネージャー像としてまとめたものです。
まずは、営業マネージャーの13の仕事から見ていきましょう。
1. 売上目標とノルマの設定
2. 営業計画の作成
3. チームメンバーのマネジメントと指導
4. 担当の割り振り
5. 顧客からのクレームを解決する
6. 予算の作成と支出の承認
7. 社内の営業関連データと社外の各種調査データを分析し、最も効果的な営業戦略を決定する
8. 顧客の嗜好と販売実績をモニターし、焦点を絞った営業計画を策定する
9. 売上を予測し、売上拡大の可能性と収益性を評価する
10. 値引きなど特別な価格対応の判断
11. 営業チームへの研修設計
12. 業績を向上させる方法をアドバイス
13. 新しいメンバーの募集、採用、研修実施
7番目と9番目にしっかりデータ分析に関連する仕事が入ってるのが分かります。また、11番目と13番目に研修や採用といった単語が並んでいますが、海外では中途採用や研修も営業マネージャーの仕事に含まれるのが一般的です。日本の営業マネージャーと比較すると、この分だけ業務の範囲が広くなっていますね。
営業マネージャーに求められる20のスキル
続けて、この13の仕事をこなすのに必要な20のスキルについて見ていきましょう。単語だけではわかりにくいものについては、括弧内に補足説明を追加しています。
1. 採用と雇用維持
2. メンバーのパフォーマンス管理
3. アクティブリスニング(傾聴)
4. コーチング
5. 数学的スキル(財務や営業に関連する数字の理解力)
6. リーダーシップ
7. メンバーとのコミュニケーション
8. 顧客との関係性の維持・向上
9. SNSを活用した営業・マーケティング
10. 回復力(挫折や困難を学習やトレーニングの機会ととらえて業務改善する力)
11. 営業計画の作成・実行・見直し
12. データ分析
13. メンバーに仕事を任せる力
14. メンバーのモチベーション向上
15. スケジュール管理
16. 社内他部署やパートナー企業とのコラボレーション
17. 問題解決力
18. 論理的な思考力
19. 自分の業務を整理してまとめるスキル
20. クロージング力
12番目に「データ分析」スキルそのものが出ています。また、「数学的スキル」(5番目)や「論理的な思考力」(18番目)とあるように、データをもとにロジカルに考える力が求められていることが分かります。その一方で、「傾聴」や「コーチング」「モチベーションの向上」などのコミュニケーションに関わるスキルも多く、営業マネージャーという仕事の難しさや奥深さがよく分かるリストになっています。
データをもとに営業計画・営業戦略を改善するのが営業マネージャーの仕事
では、具体的に「データ分析」で求められるスキルがどのようなものなのか、解説部分を読んでみましょう。
営業マネージャーには、売上データや財務諸表から傾向を読み取る分析スキルが必要です。このスキルによって、データの妥当性を判断し、意味のある結論を出すことが可能になります。データ分析の結果をもとに、営業計画や営業戦略を改善します。
全ての業種で当てはまるように書いてあるので、やや抽象的ではありますが、営業計画・営業戦略の改善のためのデータ分析だということが分かりますね。ちなみに、個別企業の営業マネージャーの求人情報を見ていると、「SFAおよびBIツールを使ったデータ分析」「中程度の統計解析スキル」などがキーワードとしてよく出てきます。
日本でも営業マネージャーにデータ分析スキルを求める企業が出てきている
これまで見てきたように、平均的な営業マネージャー像としてデータ分析に関連する仕事やスキルが当然のように記載されており、米国では当たり前に求められるスキルになっていることがお分かりいただけたかと思います。
それでは、日本の営業マネージャーはどうなるのでしょうか。今後必要とされるのでのでしょうか。
すでに、日本でもDXやリスキリングの文脈で、データ分析研修がトレンドになっています。オンライン学習サービスのmanebi社が2022年1月に実施した国内企業のリスキリング実施状況調査では、データ分析が1番人気の科目となっています。また、データ分析・活用能力を営業組織全体で高めたことによって、高業績と高賃金の両方を実現しているキーエンスという実例も出てきています。日本の営業マネージャーの一部では、すでにデータ分析スキルが求められるようになっているのです。
グローバル標準化という大きなトレンドの中では、営業マネージャーの仕事・スキルの米国化は必至?
また、日本企業に勤める人たちの働き方自体も、ゆっくりとですが確実にグローバル標準化(米国化)しています。
メンバーシップ型ともいわれている日本型雇用から脱却するために、ジョブディスクリプション(職務定義書)を作成する企業が増えています。また、一部の企業では能力があれば新人でも高い初任給を提示するなど、雇用環境全体がグローバル標準化しています。
さらに、誰もが一太郎や桐ではなくMicrosoft Officeを使って資料を作り、TeamsやZoomでWeb会議を行い、Salesforceに商談結果を入力して、Tableauでレポートを確認しています。Webマーケティングをほぼすべての営業組織がすでに取り入れており、電話やメールで見込客をフォローするインサイドセールスや、既存顧客の維持や再購入を促すカスタマーサクセスを組織化している企業も増えてくるなど、B2B営業の仕事そのものもグローバル標準化しつつあります。
このことから、遠くない将来に、今回の13の仕事と20のスキルが日本の営業マネージャーにとっても当たり前のものになる、と考えることもできます。その頃には、「文系だから営業職」「数字に強くなくても成果を出していれば昇進できる」なんて言っていられないことでしょう。
今回のレポートの読み取り方は私たち次第
しかし、日本の多くの企業では、まだデータ分析スキルが営業マネージャーに必須のスキルとされていないのも現実。結局のところ、今回ご紹介したレポートをどう読み取るかは、読み手である私たち一人ひとりにかかっているのです。
将来の避けられない変化の兆しだと察して、スキル体得に向けて早く動き出せるチャンスだと思うのか。それとも、「面倒くさいデータ分析が求められない日本企業に勤めていてよかった」「学び直さなくてもマネージャーの地位は当面の間安泰だ」と思うのか。
皆さんは今回のレポートを読んで、どう思われましたか?
参考:「20 Sales Manager Skills」(Indeed, originated December 8, 2020 and updated July 28, 2022)