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皆さんもご承知のように、近年の顧客はWebなどを利用して自ら主体的に情報を集めるようになっており、コロナ禍によるリモートワークの普及も相まって、営業担当者が顧客と接する機会/場面が減少しつつあります。
Gartner社の調査によると、B2Bの購買担当者が購買活動に充てている時間のうち、営業担当者とのやり取りはたったの17%。Webでの調査(27%)、Web以外での調査(18%)、社内関係者との合意形成(22%)よりも少なくなっているというのです。
このような購買のDIY化に対応するべく、「顧客中心営業」というコンセプトがここ数年で広まりつつあります。これを一言で言うならば、購買の主体は顧客であり、営業はそれをコンサルティング的に支援するスタンスで関わるべきだというもの。
しかし、どのような手順で実現すればよいのか、という具体的な手順はこれまで示されていませんでした。そのため、「顧客中心営業がこれからのキーワードだと思うけど、具体的に何をどうすればいいかが分からない」という相談をいただくことも多々あります。
そんな中、顧客中心営業を実現するための手引きとなる調査レポートがようやく発表されましたので、ご紹介します。顧客中心営業に興味をお持ちの方や、デジタル化が進んでいる現在の営業にお悩みの方は、ぜひお読みください。
顧客中心営業に進化するための4ステップ
今回ご紹介するのは、営業DXに取り組むニューオーリンズの新興コンサルティング企業、Converse Digital社の最新記事「What Is A Salesperson’s Role In A B2B DIY Buying World?」(DIY購買の世界におけるB2B営業担当者の役割とは?)です。早速、顧客中心営業へ進化するための4ステップを見てみましょう。
1. 営業部門とマーケティング部門の溝をなくし、顧客データやプロセス、コンテンツ、システム、レポート(帳票)などを一元化する
2. 営業部門とマーケティング部門が一体となり、顧客の購買プロセスに沿ってコンテンツを作成・設定・活用する
3. 営業担当者を顧客の学習を支援する「教育担当者」としてトレーニングし直す
4. マーケティングのKPIを従来の「リード数」から「コンバージョン率」へと設定し直す
4ステップの中で何度も出てくる「営業とマーケの統合・一体化」
4ステップの中で、営業部門とマーケティング部門の統合・一体化が何度も出てきていますね。4番目のマーケティングKPIの話も、マーケティング単体での指標を追いかけるのではなく、営業側の指標である受注化率を意識しようというものですから、KPI指標の連携・統合と捉えるのが良いようです。
営業とマーケティングの統合が求められている背景を理解していただくために、この2つの部門が分離するようになった経緯を改めておさらいします。
営業とマーケを統合・一体化して、部分最適/蛸壺から抜け出す
Webマーケティングや電話による見込客の発掘が普及したことから、B2Bの世界でも2010年以降、営業とマーケティングが機能面だけでなく組織としても分離されるようになってきました。2019年に発売された「ザ・モデル」を読んで組織体制の見直しに取り組んだという方もいらっしゃることでしょう。
しかし、営業とマーケティングが分離したことで、それぞれの専門性が高まるというメリットはありつつも、部分最適化や蛸壺化が進むというデメリットも明らかになってきたのです。そのため、最近では営業部門とマーケティング部門を統合管理する「RevOps」という概念が広がりつつあります。先ほどの4ステップの中で繰り返し現れている「営業部門とマーケティング部門の統合・一体化」は、このような流れを汲んだものであることは間違いないでしょう。
また、他にも「営業担当者の役割は、顧客の学習を支援する教育担当者だ」「顧客の購買プロセスに沿ってコンテンツを作成・設定・活用する」など、これまで「顧客中心営業」の特徴として語られることが多かった複数の要素を、うまく整理統合した4ステップになっていると思います。
とはいえ、この4ステップだけではどんなコンテンツを作れば良いか、営業担当者は具体的にどのように顧客の学習を支援すれば良いかがまだ不明瞭です。記事では続けて、この答えとして「自己説得」というキーワードを提示しています。
これからのコンテンツ/営業担当者の基本スタンスは「自己説得」支援
「自己説得」とは、自社の課題が何か、その解決策として何が最適なのか、費用対効果から見て購入すべきなのか、といった疑問に対して、顧客が自分で答えを見つけ、自分自身を説得し、購入プロセスを前に進めて行くこと。自己説得した内容は他者に説得された内容よりも、現実化する可能性が高いと言われており、この自己説得が顧客中心営業のキーワードだというのです。続けて記事の後半を見てみましょう。
科学的に最も説得力がある販売方法は、「自己説得」です。しかし、従来の多くの営業組織ではこの手法を採用せず、効率的に売り込むトークスクリプトやメールのテンプレート、顧客からの反論を言い負かす応酬話法が重視されていました。
しかし、デジタル化が進んだ顧客中心営業の時代では、この自己説得を改めて理解し取り入れる企業が大きな成果を上げることでしょう。なぜなら、自ら学習して購買プロセスを進めていく顧客にとって、自分が正しい購買の意思決定を行っていると確信を持つためには、自己説得できるコンテンツの存在が不可欠なものだからです。
この「自己説得」を、コンテンツ作りや営業担当者による顧客とのコミュニケーションの基本スタンスとする。つまり、
・顧客が自分たちの課題を自ら明確化する
・課題に対する打ち手の候補を自ら調べ、比較評価し、最適なものを選定する
・導入に向けて準備する
・打ち手の活用を通じて課題を解決し、期待した成果を創出する
これらのプロセスを顧客が自ら歩む際に、各段階で発生するであろう疑問や懸念点を先回りしてカバーし、売り手の商品につながるような説得材料を提供することが、各コンテンツや営業担当者に求められるのです。
「自己説得」でないと顧客から選ばれない時代になった
ちなみに、この「自己説得」はB2B営業において、真新しいコンセプトではありません。一昔前の「営業マン」のイメージは、立て板に水の弁舌爽やかでとうとうとまくし立てる人、というものだったのではないでしょうか。その一方で、顧客が自ら課題を語るように水を向けたり、自社商品を選ぶ理由とそれによるメリットを顧客に話すように促したりすることで、購買のモチベーションを高めていた方も昔から少数ではありますがいらっしゃいました。
それから時が過ぎ、顧客が購買を自ら進めるようになり、営業担当者が顧客に直接関わる機会が減少している現在の営業では、従来の「営業による顧客の説得」が使えなくなっており、「顧客による自己説得」でなければ顧客から選ばれなくなっている、というのが実情でしょう。
この「自己説得」というキーワードを示してくれたことで、顧客中心営業に取り組む際に何が大事なのかが、よりはっきり見えるようになったように思います。
購買のDIY化/ブラックボックス化が進む今だから、顧客理解がいっそう重要に
「顧客が自らDIYで購買を進めてくれる」と聞くと、「Webのコンテンツが勝手に顧客対応してくれるからラクでいいや」と思われるかもしれません。しかし、これは裏を返すと、Web上にあるコンテンツが顧客の自己説得を支援するものになっていないと、受注やその手前の問合せもやってこなくなる、ということに他なりません。
顧客の自己説得を支援するコンテンツを提供し、自己説得を促すコミュニケーションができる営業担当者を育成するためには、顧客の購買プロセスとその各段階での顧客の懸念事項や意思決定のための必要条件を、深く理解している必要があるのです。
今回ご紹介した記事は、顧客中心営業への取り組み方をより明確にしてくれるだけでなく、DIY化が進み顧客の購買活動の実態がブラックボックス化しがちな現在こそ、顧客について詳しく知ることの重要性が以前よりもいっそう高まっていることにも気づかせてくれる記事なのだと思います。
参考:「What Is A Salesperson’s Role In A B2B DIY Buying World?」(Converse Digital, June 8, 2022)