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家庭や職場に当たり前に人工知能を搭載したロボットがいて、幸せそうにそれぞれ仕事や用事を分担している。
世の中にロボットやAIを題材にした映画のイントロでよくあるシーンの1つです。多くの場合、話が進むにつれてAIが自我を持つようになって人間に反旗を翻すという、ウィル・スミス主演の「アイ、ロボット」的な展開になっていきます。もう1つのよくあるイントロシーンは、AIが人類を支配している「マトリックス」パターンではないでしょうか。

「アイ、ロボット」のイントロのシーンのような、普段の生活の中にAIが違和感なく溶け込んでいて、AIが私たちのことをサポートしてくれている状態が、今では当たり前のものになりつつあります。AmazonなどでAIに勧められた商品を買い、NetflixでAIに勧められた配信の映画やドラマを観て、分からないことや知りたいことがあったらSiriやAlexaなどのAIに質問する、というのが特別なことではなくなってきています。

そして、AIの浸透はB2B営業の世界でも確実に進んでいます。今回のトライツブログでは、最新(2022年)の調査データをもとに、B2Bの購買/営業の世界におけるAIの浸透状況と、それによるB2B営業の仕事の変化についてご紹介します。AIは私たちの仕事にどのように浸透し始めているのか。そして、AIの浸透によって私たちの仕事はどう変わるのか、はたまた無くなってしまうのか。一緒に見ていきましょう。

海外調査レポート①B2B購買/営業へのAIの浸透状況

今回ご紹介するのは、AIを活用した特徴的なB2B営業向けのシステムを開発しているFundz社の記事「17 Best Sales Intelligence Software Tools for 2022」です。Fundz社のシステムの基本機能は、企業情報のデータベースを自動で更新してSFAなどのツールに連携するというオーソドックスなもの。この基本機能に、スタートアップ企業の資金調達情報をリアルタイムで接続することによって、調達直後で資金が潤沢なスタートアップ企業を狙い撃ちできる、というものです。「企業情報の自動更新システム」市場にZoomInfo社という巨人がいる中で、面白いニッチを見つけたものだと思います。

さて、そんなFundz社の記事は大きく3つに分かれています。冒頭ではB2B購買/営業市場におけるAIの浸透状況を色んなデータを使って紹介し、中盤ではAIを搭載したB2B営業向けの最新ツールを紹介、そして終盤では自社商品のPRをしている、という構成です。この冒頭部分のデータ紹介が面白いので、要約してお見せしたいと思います。

まずは、職場でのAIの浸透状況です。

SnapLogic社の調査によると、60%以上の労働者がAIによる生産性の向上を実感しています。
Oberlo社の調査によると、営業組織の25%が日常業務でAIを使用しています。

そして、AIはただ浸透しているだけでなく、受け入れられるようになっているというのです。続けて、B2C消費者とB2B顧客のAIの受容度を調査したSalesforce社のデータをご紹介します。

・AIを毎日利用している 33%(B2C消費者)、60%(B2B顧客)
・AIは信頼できる 56%(B2C消費者)、77%(B2B顧客)

私たち日本での体験からすると、AIの利用はB2Cの消費者としての方が多そうに思いますが、アメリカではB2B顧客の方がAIを頻繁に利用しているとのこと。B2CのAIが洗練されているために使っていることに気づいていないという可能性もありますが、それでもB2Bでの利用率が高いことがわかる意味のあるデータだと思います。

そして、AIをただ利用しているだけでなく、信頼できるものだと見なしていることにも注目です。映画のイントロシーンさながらに、AIが仕事の中でも頼りになる当たり前の存在になっている様子が、これらのデータからうかがえます。

海外調査レポート②AIが浸透した世界でのB2B営業の雇用

そして、Fundz社の記事では、AIの浸透に伴う営業職の雇用の変化についても紹介しています。Forrester社が「AIの登場によって100万人のB2B営業担当者の仕事が失われる」という予測を発表したのが2015年。それから7年が経った現在の最新のデータ/予測はどうなっているのでしょうか。

政府の労働統計局の予測分析では、いくつかの営業職の雇用が減少するものの、全体としては2018年から2028年までの間に5.2%の雇用増を予測しています。職種ごとの詳細は以下の通りです。
・小売営業 -2.3%
・レジ係 -3.8%
・訪問販売 -7.2%
・テレマーケティング -16.6%
・B2B営業担当(テクノロジー系) +3.7%
・B2B営業担当(それ以外) +1.7%
・セールスエンジニア +5.6%

キャッシュレス決済や店舗の省人化の影響を受けているレジ係や小売営業といったB2C営業や、デジタル化の浸透やMA等の自動化の影響を大きく受けている訪問販売/テレマーケティングにおいて、雇用数が減少することが予想されています。その一方でB2B営業、特にテクノロジー系やセールスエンジニアといった技術的な専門知識を持つ営業職の雇用数が、今後さらに増えると予想されています。このことについて、記事では以下のように解説しています。

これらのデータが示しているのは、生身の人間によるアプローチがB2B営業から消えてなくなるようなことはない、ということです。(中略)企業は生産性と効率性を求め、これからますますAIを頼りにするようになるでしょうが、その一方で今後しばらくの間は「人間による営業」への根強い需要が継続するものと考えられます。

つまり、見込客に定期的に電話/メールでコンタクトするテレマーケティングのような、機械的な仕事はAIに取って代わられるものの、顧客の感情を理解してそれに合わせて対応するような人間的な仕事は今後も人間の仕事として残るだろう、ということです。

「AIとの協業」に向けて組織/個人として備えるべきことは

ここまでのFundz社の記事から、近未来のB2B営業の世界は、人間とAIがそれぞれの強みを発揮しながら二人三脚で顧客(こちらも人間とAIがパートナーを組んでいるかもしれません)に対応し、チームとして顧客から信頼を得ているというものになりそうです。つまり、「デジタル化」「Web化」という現在起こっている大きな変化のすぐ先に「AIとの協業」という次の変化が見えつつあるのです。では、この「AIとの協業」という次の変化に向けて、私たちはどのように備えるべきなのでしょうか。

まず、当たり前の話ではありますが、AIが主に扱うのはデジタルデータなので営業活動のデジタル化/DXは不可欠です。デジタル化できていないとその先のAIとの協業にたどり着くことはできません。そのため、まず企業として営業のデジタル化に成功することが最低条件となります。

そして、個人としては、AIが苦手とする顧客の感情的な部分に対応することはもちろん、AIをビジネスパートナーとしてその強みを最大限に発揮するために、AIの考え方つまりデジタルな処理/ロジック/アルゴリズムといったものを理解する力と、論理的にAIへの指示を組み立てられる思考力が必要になります。

Fundz社の記事を読んで、「AIが浸透してもB2B営業の仕事はなくならないみたいだし、面倒な作業はAIに任せて自分は得意な顧客対応に専念できるみたいだ。ラッキー!」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、残念ながらそうではありません。成果を考えずにAIに丸投げするのではなく、上手に使いこなせるようになるためには、AIの良き上司/パートナーとして相手を理解し、相手が成果を出しやすいように仕事を渡してあげる必要があるからです。

例えば、SiriやAlexaに話すときは、指示の文章が長かったり、1文の中にいくつもの指示が組み合わさっていたり、情報が抜けていたりすると、上手く聞き取って動作してくれません。しかし、だからと言って「まだまだAIは使えない!」と腹を立てるのではなく、1文につき指示が1つになるように短く区切って話すという工夫を人間がすれば、指示したことを確実に実行してくれます。こういった工夫を、B2B営業の仕事でも行うことで、便利で信頼できるパートナーへとAIを育てられるようになるのです。

AIがビジネスでも話題になり始めたのは2015年ごろ。新語・流行語大賞にノミネートされたのも2016年でした。それから時間が経ち、私たちの日常にAIが浸透するにつれて、それは私たちから仕事を奪う可能性のある脅威から、頼りになるパートナーへと変わってきています。今回ご紹介した記事は、私たちとAIがパートナーとして二人三脚で営業活動に取り組む未来と、その未来を幸せなものにするために今の私たちに求められている、「営業DXの成功」「論理的な思考力」の重要性を教えてくれているのだと思います。

参考:「17 Best Sales Intelligence Software Tools for 2022」(Fundz,LLC., 2022)