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「周りから期待されなくなるのはつらいこと」というのは、どうやら一般常識ではなくなりつつあるようです。私が社会人になった就職氷河期真っ只中の2000年頃は、自分で価値を提供できるようにならなければならない、会社や上司から期待される人材にならないといけない、というのは一般的な考え方だったように思います。

しかし、2014年のマイナビのフレッシャーズ調査で「上司から期待されたくない」と回答した若手社員の割合は34.7%。2018年にINOUZ Timesが実施したアンケートで「会社に期待されたいですか?」という質問に「NO」と回答した社会人の割合が49%と、「期待されない方が楽」「期待されて仕事が増えるのは嫌だ」という人の割合が増えています。もちろん期待されてバリバリ仕事をしたいという方も多いのでしょうが、会社や上司から過度な期待を受けずにマイペースで働きたいという人もかなりの割合でいる。これも価値観の多様化というものでしょう。

そんな中、「営業担当者が顧客から期待されなくなっている」という衝撃的な最新の調査レポートをご紹介します。期待されることを望まない若者にとってそれは歓迎すべきことなのか、これからどうすべきなのかなど一緒に見ていきましょう。

海外調査レポート「顧客から期待されなくなっている営業」

今回ご紹介するのは、ロサンゼルスに本拠地を置く世界的なコンサルティング企業、コーン・フェリー社の最新調査レポート「The 2021 Buyer Preferences Study: Reconnecting with buyers」です。同社は企業の組織戦略立案を専門とするコンサルティング企業ですが、B2B営業、特に購買担当者の声を解像度高く具体的に整理してくれているレポートには定評があり、例年多くのB2B営業関連の記事やブログで引用されています。

コロナ禍によって全世界の顧客の購買活動が大きく変化して2年目となった2021年。このレポートによると、B2B顧客の購買担当者は営業担当者に対してこれまで以上に期待しなくなっているというのです。少し長いのですが、この危機について強く警鐘を鳴らしている序文の一部を抜粋してご紹介します。

顧客はこれまで以上に速く変化し続けており、営業組織はそれに追いつけないばかりか、その差は前回調査(2018年)の時よりもさらに開いています。2018年も現在も、顧客は営業に自分たちのビジネスを理解してもらいたいと思っていますし、ビジネスについてのインサイト(洞察)を提供してほしいと思い続けています。(中略)問題は、営業担当者が顧客にその価値を伝えられていないことにあります。

ビジネス上の課題に直面したときに、営業担当者を頼りになる情報源だと認識している購買担当者がさらに少なくなっています。2018年と2021年のいずれにおいても、購買担当者が参考にしている情報源のうち、営業担当者は業界誌やウェブ検索よりも低い最下位にランク付けされています。

また、営業担当者が自分の期待に応えてくれる、または期待以上のものを提供してくれると考える購買担当者は、2018年に比べて少なくなっており、さらに悪いことに「営業担当者との会話には価値が全くない」と答えた人が、価値があると答えた人の6倍もいます。

ここで大事なのは、顧客が営業担当者に何も望んでいないというわけではない、ということ。自分たちのことを理解してほしいし、価値ある洞察を提供してほしいと思っているのですが、それに応えられていないために優先順位が下がってしまっているということです。

購買プロセスになかなか参加させもらえない現在の営業

顧客が営業に期待しなくなっているという問題は、情報源としての優先順位だけでなく、購買担当者が営業担当者に声を掛けるタイミングにも影響を与えているようです。

購買プロセスの早い段階から関与できれば、購入されるソリューションの中身や規模(金額)に影響を及ぼすことができます。このため、顧客が課題を分析したり、ソリューションを調査したりしている段階から関与するのが望ましいのですが、この段階から営業担当者を関与させたという回答は43%しかなく、2018年(56%)から大幅に減少しています。

購買プロセスの後半になっても、顧客は営業を参加させることに消極的です。購買担当者の5人に1人(20%)は、ソリューションの評価や疑問点の解決を自分で済ませていますし、取引条件を交渉する段階になって初めて営業担当者を関与させる、という購買担当者も20%に増えています(2018年は10%)。

このように、顧客が中心となって購買プロセスを進めており、営業担当者をそこに参加させるタイミングもプロセスの後ろの方になってきているのです。

購買プロセスの早期に顧客から声を掛けてもらうために必要なスキル

その一方で、レポートでは購買プロセスの早い段階から営業担当者を参加させる3つのパターンを以下のように整理しています。

1.顧客が自社の強み/弱み、機会/脅威について、営業担当者を教育するため

2.顧客が自社が抱えるリスクについて、それを軽減/除去する方法を営業担当者に提案してもらうため

3.顧客が社内の関係者の中での合意形成について、営業担当者に支援してもらうため

つまり、「顧客のビジネス課題について学習・理解することができる」「顧客のリスクに対して対策をアドバイスできる」「顧客社内の関係者を取りまとめて変革を推進できる」という、優秀な経営コンサルタントのような価値を提供できないと購買プロセスの早い段階から顧客と関わることができないのです。このコンサルタント的な価値へのニーズは、以下の内容からも読み取れます。

購買の意思決定に役立つ営業担当者のスキルと、悪影響を及ぼすスキルを調査した結果、「情報を伝える」「説得する」といった従来のセールススキルではなく、「協働する」「共創する」といったEQをベースにしたスキルを活用して関わることに購買担当者は価値を感じていることが明らかになっています。

レポートが証明する「顧客中心営業」時代の到来

これまでに引用してきたコーン・フェリー社のレポートをシンプルにまとめると、現在のB2B購買担当者が考えていることを以下の3つに整理できます。
1.これまで以上に、顧客が自ら主体的に購買プロセスを進めている
2.購買プロセスを進める際に、情報源/相談相手としての営業担当者に対して期待しなくなってきている
3.自社のビジネスを理解して協働・共創してくれる営業担当者なら、購買プロセスの早期から関与させたいと思っている

このような顧客の購買活動の変化は、今のB2B営業に起きている大きな変化「顧客中心営業」「コンサルティング営業」とぴったりと符合しています。「顧客中心営業」とは、顧客自身がWebを活用して情報収集し、自ら組織を動かして購買プロセスを推進する。そして、営業担当者は顧客の購買活動を支援する役割を果たすということ。その役割を果たすために営業担当者に求められるのが「コンサルティング営業」。これは、顧客の組織の中に入り込んで各関係者のニーズや課題を深く理解し、個別に解決策を作成して最適な購買に向けてガイドし、購買後も顧客の目的達成のためにサポートするというものです。

今回ご紹介したレポートは、B2B営業がこれまでの営業担当者が主体となって進めていたものから顧客中心営業へと転換し、その中で顧客に価値を認めてもらうために営業担当者にコンサルティング的な関わりが求められるようになった、ということをB2B購買担当者のデータとして立証しているものだと思います。

顧客の期待に応えることに喜びを感じられるようになることから始めよう

プロ野球の巨人軍(ジャイアンツ)の終身名誉監督である長嶋茂雄さんの名言に、「スターというのはみんなの期待に応える存在。 でもスーパースターの条件はその期待を超えること」というものがあります。WebやSNSで調べれば様々な情報が簡単に手に入る今の時代、顧客の購買担当者にとって情報源/相談相手だけでは期待に応えることにならず、営業担当者という星の輝きは全体的に鈍りつつあるのでしょう。

しかし、それはあくまでも従来型のスタイルの営業担当者の話です。顧客のビジネスを理解して協働・共創するコンサルタントとして関わるのであれば、これまで顧客が抱いていた営業担当者への期待を超えられるようになるでしょう。

とは言っても、冒頭にご紹介した調査結果にあるように「期待されない方が楽」という若者が増えているのも事実。コンサルタントとして関わるためには勉強する必要もありますし、手間も時間もかかります。「営業として売上を上げるのは当たり前なんだから、顧客の期待に応えよう」「顧客が変わっているのだからそれに合わせて営業も変わろう」というだけでは難しいはずです。

今回のレポートを読み、これからの営業の方向性として「顧客中心営業」「コンサルティング営業」という考え方が間違っていないことを再確認したと同時に、「期待に応える」ことに価値や喜びを感じられるようになるところから、今後の営業人材育成やマネジメントを考えていかねばならないのだとも思いました。

参考:「The 2021 Buyer Preferences Study: Reconnecting with buyers」(Korn Ferry, October 19, 2021)

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