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いよいよ東京オリンピックが始まりました。柔道や水泳など多くの種目で朗報が続いています。前半戦で私が個人的に注目していたのが、八村塁選手や渡邊雄太選手というNBAプレーヤーを擁した男子バスケットボールです。直前の国際強化試合では格上のフランス相手に勝利を飾るなど、オリンピックでの歴史的勝利と悲願の予選突破を期待していたのですが、惜しくも敗れてしまいました。初戦のスペイン戦などは善戦していたので、3年後に期待したいと思います。

スポーツには「スタッツ」と呼ばれる記録がつきものです。NBAなどではチームや個人の得点だけでなく、アシスト数やリバウンド数、フリースロー成功率や3ポイントシュートの成功率など、様々な観点から選手やチームのパフォーマンスを計測しています。2021年2~3月頃に八村選手が1試合で2桁得点と2桁のリバウンドを成功させてダブルダブルを複数回記録しましたが、これなどもバスケットボール特有のスタッツですね。

スポーツで言うところのスタッツを営業に置き換えると、いわゆるKPIや業績指標などと呼ばれるものになります。皆さんの組織ではどんなスタッツを使っているでしょうか。受注額、目標達成率だけですべてを評価していないでしょうか。アシストやリバウンドなどのように、受注額や売上以外の優れたプレーについてもデータを取っていますか。シュート成功率などのように、営業活動のクオリティに関するデータはあるでしょうか。

今回のトライツブログでは、B2B営業およびマーケティングで使用するスタッツ、指標の全体像をご紹介します。皆さんの営業組織の実態を知るために、また改善していくためにどのような指標が使えそうか、一緒に見ていきましょう。

B2B営業・マーケティング指標①デジタルマーケティング

具体的な話に入る前に、そもそも皆さんは「KPI」についてどのような印象をお持ちでしょうか。KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、日本語では「重要業績評価指標」。 目標を達成する上で、その達成度合を計測・監視するための定量的な指標のことです。

ただ、営業に以前からある「ノルマ」という言葉がそのままKPIと置き換えて使われていることも少なくありません。従って、KPIとは上から課せられるもので、管理されるものというあまりポジティブではない印象を持つ人も多いのではないかと思います。

しかし、海外の情報を集めていると、MAやSFAの普及で改めてKPIという言葉をよく見かけるようになっています。デジタルツールを使って営業やマーケティングの生産性を向上していこうとすると、進捗を測るための指標であるKPIの重要性が高まるようです。

そんな中、今回ご紹介するのは中小企業向けSFA/CRMツールで有名なBenchmarkONE社のWeb記事「Sales and Marketing Performance Metrics and Why You Should Track Them」(営業・マーケティングのパフォーマンス指標とそれを追跡すべき理由)。この記事の中で、B2B営業・マーケティングで使用する指標が網羅的に紹介されていますので、箇条書き形式で簡潔にご紹介していきます。

まずは、多くの見込客が皆さんについて知ることになる最初の接点、デジタルマーケティング関連の指標からです。

クリックスルー率 = クリック数 / 広告インプレッション数

ランディングページのコンバージョン率
= リード獲得数 / 訪問トラフィック数

有望リード率
= 有望リード数 / 総リード獲得数

オーソドックスなB2B営業をしていると見慣れない用語が多数ありますので、用語と併せて解説していきます。

「クリックスルー率」の中に出てくる広告インプレッション数とは、Webページに広告が表示されている人の数。その中で実際に広告をクリックして、自社のWebページに来てくれる人の割合がクリックスルー率です。

この時、多くのWebサイトでは広告や検索の結果として表示されるWebページを特定のページに設定しています。この特定のページをランディングページと呼びます。このランディングページの中でさまざまな興味付けを行い、メールマガジン用にメールアドレスを登録させたり、ホワイトペーパーのダウンロードに絡めて氏名とメールアドレスなどを記入させたりしてリード(見込客)を獲得するのですが、その割合をランディングページのコンバージョン率と呼びます。

ここで獲得したリードのうち、所属している企業の業種や規模、個人の役職などを見て有望と判断され、営業担当者に割り振られるリードの割合が有望リード率です。デジタルマーケティングに取り組んでいるが有望なリードが増えないという場合は、これら3つの指標に分解することで、Web広告やランディングページなどのどこに問題があるのかを特定することが可能になります。

B2B営業・マーケティング指標②営業活動

続けて、有望な見込客/リードが受注に至るまでの営業活動に関する指標です。

フィット率 = 提案実施数 / 商談数

成約率
= 受注数 / 提案実施数

勝率(コンバージョン率)
= 受注数 / 商談数 = フィット率 × 成約率

有望な見込客を対象にして商談を実施する際に、商談が提案に至る割合をフィット率、提案に至った商談のうち受注したものを成約率と呼びます。また、フィット率と成約率を掛け合わせたものが、商談の受注割合、つまり勝率(コンバージョン率)となります。これらの指標は皆さんおなじみでしょう。また、営業プロセスがもっと長く複雑な場合は、営業プロセス別の移行率を見ることが有効です。問い合わせからデモに至る割合、デモから見積依頼に至る割合、見積依頼から購入に至る割合というように、移行しているリードが少ない=減衰が多いプロセスをチェックするのも、営業活動の効率化のためには欠かせません。

B2B営業・マーケティング指標③全体評価

これまでの指標はマーケティング・営業の段階ごとの生産性を測るものでした。最後に、マーケティング・営業を全体的に見るための指標をまとめてご紹介します。

チャネル別収益

顧客獲得コスト
=(営業コスト+マーケティングコスト)/ 新規顧客数

マーケティングROI
=(マーケティングによる売上の増分 - マーケティング投資額)/ マーケティング投資額

顧客生涯価値
= 各顧客の累積売上額

チャネル別収益は、一定期間の間の売上全体を、展示会やWebページへの問合せなどのチャネルやキャンペーンごとに分解したものです。これを見ることで、継続/注力すべきものと、改善/撤退すべきものとが明らかになります。

顧客獲得コストやマーケティングROI、顧客生涯価値(CLV)については、概念は知っているけど実際に使ったことはないという方も多いのではないでしょうか。中でも顧客生涯価値は、顧客との関係性についての指標である「取引期間」と、アップセルやクロスセルの指標である「経年の平均取引額」を掛け合わせた、総合的な指標になっていますので、顧客との長期的な関係構築を目指している営業組織であれば今すぐに取り入れることをお勧めします。

人・組織別だけでなく「営業施策別」と言う切り口を加えてみる

ここまで、BenchmarkONE社の記事からB2B営業・マーケティング用の指標をまとめてご紹介しました。初めて見る指標、普段から使い慣れている指標、見聞きしたことはあるが使ったことのない指標などいろいろあったのではないでしょうか。売上高や目標達成率しか普段は使っていないという組織の方は、ぜひこの機会に今の営業活動をこれらの指標を使って計測してみていただければと思います。

そして、これらの指標に馴染みがあり使ったこともあるという方は、ひと手間を加えてさまざまな切り口で指標を見てみることをお勧めします。

セールスイネーブルメントという言葉が欧米を中心に使われるようになってきたのが2010年ごろ。このセールスイネーブルメントとは、教育研修や営業ツールなどといった営業に関連する施策単位で業績向上への影響度合を測定・評価しようというものです。先ほどご紹介したような指標を見る際には、このセールスイネーブルメント的な観点が役に立つのです。

例えば先ほどの「フィット率」や「成約率」「勝率」という指標は、組織によって名称は異なりますが、多くの営業組織で実際に使用されているものです。しかし、これらの指標を「担当者別」や「組織別」などの一般的な切り口だけでなく、「チャネル/キャンペーン別」「使用した営業ツール別」「同一担当者の研修受講前後」などで比較してみたことはあるでしょうか。これらの切り口で指標を見ることで、それぞれの営業施策がどれだけ業績向上に貢献できているのかを知ることができますし、同じ施策でも業績向上への貢献度合にばらつきが生じているのであれば、さらなる改善の余地があることがわかります。

営業活動の成果を各担当者の出来/不出来として評価するのではなく、各種営業施策の有効性を判断するものとして、セールスイネーブルメント的に指標を加工して計測・評価する。そこに業績向上のための大きなヒントが隠されているのです。

自分たちの営業活動を計測・評価するKPIを改めて見直そう

コロナ以前から多くの営業組織でSFA/CRMやMAの導入が進んでいました。そしてコロナによるリモートワークの浸透と各種マーケティング施策のWeb化をきっかけとして、それらが当たり前に使われるようになってきているように思われます。デジタルツールを使うことが当たり前になっている現在では、多くの営業組織でさまざまなKPIが日々測定され、ダッシュボード上で誰もが確認できるようになっています。

これまでよりも圧倒的に簡単にKPIを加工・確認できるという環境を活かして、自分たちの営業活動をいろいろな観点・切り口で見てみましょう。KPIは私たちの意思で選べる、自分たちの営業活動を見るためのセンサーデバイスです。赤外線センサーや温度センサーなど、同じ物体でもセンサーの種類によって見え方がまったく違うように、使うKPIによって見えてくる営業活動の実態・課題も異なります。自分たちの組織は営業活動の何を大事にしているのか、業績向上のためのポイントは何だと考えているのか、そのポイントと既存の施策はどう関係しているのか。これらのことを意識して、自分たちの現在の営業活動の実態を知り、さらにそれを良くするためのKPIを定期的に見直すことが欠かせないのです。

また、前述のように日本企業では「ノルマ ≒ KPI 」というような使われ方をしてきた面もあるので、具体的なKPIを何にするかを考えると同時に、KPIの価値や必要性、使い方について社内で再確認する必要性もあるように思います。

参考:「Sales and Marketing Performance Metrics and Why You Should Track Them」(Jonathan Herrick, BenchmarkONE Inc., July 14, 2021)