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突然ですが、皆さんは「思想」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
思想とは、単純に「心に思い浮かべること・考えること」と言った意味の他に、「人生や社会についての一つのまとまった考え・見解」という意味があります。
学校で習った、老荘思想や啓蒙思想などの他にも、〇〇イズム、〇〇主義というものも思想の一つです。主に社会的、哲学的な見解を指すことが多いのですが、営業の世界にもそれぞれの企業が持つ「思想」が深く関係しています。
そこで、今回のトライツブログでは、ある企業の営業企画マネージャーとの出会いで感じた「営業に関する思想」の重要性について考えていきたいと思います。
ある営業企画部長との出会いと違和感
先日、「セールスイネーブルメントの考え方を導入したいので相談に乗って欲しい」というお問い合わせを受け、ある企業の営業企画部長と面談する機会がありました。セールスイネーブルメントとは、営業活動全体を通じて施策を設計・管理し、営業活動を最適化しようという考え方で、その企業でも、デジタルテクノロジーを取り入れつつ、営業施策全体を設計していきたい、と考えていました。
その打合せの中で出てきたのが、「現在行っている営業研修は営業にも評判が良いので継続しつつ、並行してトライツには営業人材育成ロードマップづくりと営業研修を任せたい」というお話です。そこで現在行っている営業研修の内容をお聞きしたのですが、その内容を聞くにつけ、何となくモヤモヤとした感覚が湧いてきました。
この面談自体は、トライツで今後のプランをまとめ、改めてお会いするという形で終わったのですが、私の中のモヤモヤは消えませんでした。虎ノ門のオフィスに帰る途中、駅の改札を出るところで「ああ、モヤモヤの原因はこれだったのか!」と思いついたのです。それは「営業に関する思想の違い」でした。
違和感の正体「営業に関する思想」とは何か
「営業に関する思想」と言われてもピンとこない方も多いのではないかと思います。そもそも、営業について書かれた書籍などにも触れられていないですし、確立した理論があるわけではありません。
しかし経験上、すべての企業には営業についての思想、一つのまとまった考えや見解があると考えています。もう少し簡単に言うと、その企業として「営業をどうとらえているか」ということであり、代表的な例を挙げると、以下の5つのような部分に表れてきます。
- 顧客はどのような存在と考えているか
- 営業はどのような存在と考えているか
- 顧客と営業はどのような関係を築くべきか
- 何を売るのが営業の役割なのか
- 営業リソースをどの範囲まで広げて考えているか
先ほどの営業企画部長との面談に話を戻すと、「現在行われている営業研修」は、顧客への働きかけ方や切り返し方を中心とした、営業が顧客をリードする方法を教えるものでした。言い方を変えると「どのように顧客をコントロールするか」というスキルを身につける研修です。
その研修を提供する会社は「顧客はコントロールできる存在である」と考えているのに対し、トライツは「顧客はコントロールすることができない」と考えており、そこに思想の違いが表れているのです。
営業に関する思想は「混ぜるな危険」
一つ断っておかないといけないのは、営業に関する思想そのものには良し悪しはありません。「顧客はコントロールできる」と捉えても、「コントロールできない」と捉えても、文字通り思想の違いなのでそれに沿って営業を組み立てれば良い話です。しかし、違う思想を混ぜて営業研修やロードマップなどの営業施策を行うと、それぞれにやり方が違うので現場を混乱させてしまう。そこに問題があるのです。
例えば、「顧客の課題を聞く」という営業プロセスで考えてみましょう。まず「顧客はコントロールできる」という思想にもとづいて聞く場合、こちらが聞きたいことに絞って聞き、聞きながら相手の考えを誘導するように持っていくようにします。
一方で「顧客はコントロールできない」という思想のもとに聞く場合はなるべく顧客の考えを遮らず、自由に話をしてもらうことを選ぶでしょう。
このように、営業に関する思想を混ぜて営業施策を組み立ててしまうと、顧客の話を聞くという当たり前の行為でさえアプローチが違い、現場を混乱させてしまうため「混ぜるな危険」なのです。特にセールスイネーブルメントという営業施策をトータルで考え直そうという場面ではもってのほかと言わざるを得ません。
ちなみに、思想そのものに良し悪しはないと述べましたが、先ほどの「顧客の課題を聞く」に関していえば、前者にはスピードと言うメリットがある反面、顧客が話したいことが話せず不愉快になってしまうかもしれないというデメリットがあります。また、後者には顧客の本音が聞けるというメリットがある一方で、スピードは犠牲にしてしまいます。
このように、いずれにもメリット、デメリットがあるので、一概にどちらが良いとは言えない、と言うことです。
自然と創られる「思想」にご注意を
ここまでお読みになって「自社には営業思想がない」と感じている方もいらっしゃると思いますが、どこの会社にもそれはあるものです。
ただ、営業に関する思想の怖いところは「思想がないのが思想」になるところです。その場合、個々の営業それぞれに自分なりの思想が宿ってしまいます。
これは先ほどの企業とは別の企業でのお話ですが、その企業には明文化された営業に関する思想を持ってはいませんでした。その企業がSFAを導入することになり、運用を始めたのですが、ある営業は営業活動をつぶさに入力し、ある営業は日報がわりに使い、またある営業は大事なことはメールでやり取りして、当たり障りのないことだけSFAに入力する、とバラバラな使い方になってしまいました。
こうなると、情報を一元化して営業をレベルアップさせようと導入したSFAは台無しなのですが、それぞれの営業は別に悪いことをしようとしているわけではなく、自分の思想にもとづいて活動をしているだけです。仮に「営業はつぶさに情報を共有する存在である」という統一された思想があればこの無駄は省けたことでしょう。
リモートワーク中心の今だからこそ思想が大事
昨年からの新型コロナウイルスの影響で、営業においてもリモートワーク中心の仕事のやり方が定着してきており、営業トップや営業マネージャーの方々からは「営業それぞれの仕事ぶりが見えないのでマネジメントしづらい」「営業活動がブラックボックス化していて何が成果につながるか予想しづらい」という声をお聞きします。
そのような中で、今回お話ししてきた「営業に関する思想」はより重要度を増していると感じています。
「営業に関する思想」が共有されていると自ずと営業活動に統一感が出てきます。顧客への接し方や商談のゴール設定、提案の内容など、ある一定の方向にベクトルが向かうからです。ある程度、営業個人の自律を促しながら営業活動を進める必要のあるリモート環境では、この営業活動の統一感に勝るマネジメントはないのです。
今から始める「思想」に合わせた営業施策改革
これまで「営業に関する思想」なんか考えたことがない、という企業も、一度思想を明文化してみてください。「思想がないのが思想」となっている企業でも、大勢を占める思想、というものがあるので、それを明文化してみるのです。
- 顧客はどのような存在と考えているか
- 営業はどのような存在と考えているか
- 顧客と営業はどのような関係を築くべきか
- 何を売るのが営業の役割なのか
- 営業リソースをどの範囲まで広げて考えているか
この5つに沿って明文化していくと、自社の思想が浮きぼりになってきます。
そして、まずは現在取り組んでいる営業施策は自社の思想に合致しているか確認し、必要に応じて組み替えていきます。それぞれの営業にしみ込んだ「思想」を変えるのは時間がかかるので、まずは施策から変えていきましょう。
具体的に言うと、「営業の役割は顧客の課題解決である」という思想の企業が、分厚い提案ツールを用意し、しゃべり一辺倒の営業研修を行い、訪問件数をカウントして営業を評価していたら思想に合致する方向には進んでいきません。思想に合った営業ツール、営業研修、人事評価のしくみなどに合わせていくべきなのです。そして、営業施策と言う外堀を埋めてから改めて社員の皆さんに思想を理解してもらうための働きかけを行うのが良いでしょう。
時間がかかる「思想」に関わるからこそ、今から始めるべきなのです。
営業の思想から考えて直してみたいという方は、ぜひトライツコンサルティングにご相談ください。