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日本でも高齢者向けのワクチン接種が各自治体で始まるなど、世界中でワクチンの接種が進んでおり、国によるスピードの違いはあれど世界経済は回復傾向にあります。2021年5月末にOECD(経済協力開発機構)が発表した2021年の実質経済成長率は、世界全体で5.8%の高水準。特に回復著しい米国では6.9%、中国では8.5%の経済成長が予測されています。

米国は新型コロナにより最大の人的被害を出してしまったのですが、バイデン大統領による超大型の経済政策と財政・金融支援の継続、経済活動再開に伴うペントアップ(繰越)需要の過熱などにより、前例のない規模の経済成長が起こるとのこと。そして、その影響はもちろんB2B市場にも及ぶそうです。

そこで、今回は急速に経済回復に向かっている米国のB2B営業の実態と、そこから見えてくるポストコロナ時代に必要な意識改革について、見ていきたいと思います。日本のB2B営業にも間もなく訪れるはずのポストコロナの世界がどのようなものなのか、一足先に覗いてみましょう。

海外調査レポート①期待される売上・利益の急回復

今回ご紹介する調査レポートは、最近発表された「Succeeding in 2021 and Beyond」。これは、Chief Executive Magazineという雑誌で有名な米国のCEO・CFO向けの情報サービス/コミュニティ運営企業のChief Executive Group社と、営業・マーケティング業務に特化した世界的なコンサルティング企業Alexander Group社が、米国在住のCEO/CFO250人以上の声を集めて分析・考察したものです。早速見ていきましょう。

回答者である米国のCEOのうち、73%が「収益が増加する」、65%が「利益が増加する」と回答しています。2020年4月時点と比較して、成長を見込んでいる企業の割合がそれぞれ1.89倍と2.03倍に増加しています。

この調査レポートは、2021年度へのポジティブな業績見込からスタートしています。米国での感染が拡大し始めた2020年の4月と比較すると、かなり多くの企業が売上・利益の回復を期待している様子がうかがえます。

海外調査レポート②継続・定着する営業のデジタル化

新型コロナの影響により、世界中でB2B営業の非対面化・デジタル化が進みました。この傾向が、ワクチン接種が広く生き渡った後にどう変化するかについて、米国の経営幹部は以下のように考えているようです。

・対面が減り、非対面が増える……59%
・今と変わらない……19%
・対面が増え、非対面が減る……22%。

なんと6割もの企業で、今よりもさらに対面でのやり取りが減り、非対面でのやり取りが増えると回答しているのです。このことから、営業活動のデジタル化は一過性のブームなどではなく、今後長期間継続するビジネストレンドだと考えている企業が多いことがわかります。昨年の7月に実施した調査では、75%の企業がパンデミック対応型の事業モデルに変革していると回答したものの、デジタル優先の営業モデルが今後の主流となると回答していた企業が8%しかなかったとのこと。そのころと比べると、1年近くでデジタル化に対する企業の意識が大きく高まったと言えるでしょう。

海外調査レポート③過小評価されるデジタル変革のインパクト

急激な経済回復が見えており、非対面の営業活動が定着しようとしているなど、環境に対応できている前向きなデータがある一方で、レポートでは調査の回答者である経営層に対し、この1年間で起きた変化を過小評価してはいけないと警鐘を鳴らしています。

回答者のおよそ半分の企業で、「顧客接点のデジタル化」に対する投資を増やそうと考えている一方で、このようなデジタル変革が自社の成長にとって重要な要素であると回答している企業は20%しかありません。
経営者の多くは、デジタル変革による顧客の購買活動の急速な変化を過小評価してしまっています。

今後、顧客接点のデジタル化が進み、非対面での営業活動が増えると考えてはいるものの、それが事業へのインパクトの大きい重要な要素であるという認識が足りない、ということについて厳しく追及しています。まとめの一文が、このレポートを通じて伝えたかったことを雄弁に述べていますので、最後にご紹介します。

企業経営者の多くは、空前の好景気を目前にしており、これまでの守備的な営業(コスト削減と顧客維持)から、攻撃的な営業(新規顧客と新商品への投資)へと転換しようとしています。しかし、この転換を迅速に成し遂げて自社の成長を実現するためには、コロナウイルスによりもたらされた急激で、そしておそらく過小評価してしまっている顧客の変化に対応するという、大きな壁を乗り越えなければならないのです。

今後の回復期を私たちはどのように迎えるのか

日本国内のニュースだけを見ているとなかなか実感が湧きませんが、世界ではいくつかの国で日常の風景が戻りつつあり、それに伴って景気が急回復し始めています。日本でもワクチンの接種がこれからさらに進み、症状の重い患者が減って医療機関に余裕が生まれ、飲食やイベント・旅行などの制限が緩和されて景気も回復期へと向かっていくことでしょう。

ただし、一年前から言われていたように、私たちの生活や仕事のすべてがすっかり前の状態に戻るということはなさそうです。多くの企業では在宅とオフィスへの出社を組み合わせた勤務体系が継続・定着するでしょうし、営業活動も対面と非対面を効率的に組み合わせたハイブリッド型が継続・加速するはずです。

つまり、今回ご紹介したレポートで述べられていたような、景気の回復見込が明らかになり、営業のデジタル化が継続するポストコロナの世界というのは、私たち日本のB2B営業にとっての近未来の姿でもあるのです。その近未来を、私たちはどのように迎えるでしょうか。この一年間をなかったことにして、コロナ以前の姿に戻ろうとするのか。「周りがやっているからやる」という程度のスタンスで、あまり力を入れずにデジタル活用を継続するのか。営業のデジタル化を戦略上の要石だと位置づけて、さらに加速・強化していくのか。この分かれ道のどちらを進むのかで、その先の姿が大きく変わるのだと思います。

事例:コロナ禍に対応し営業スタイルを進化させる

私がお手伝いしている企業の中に、コロナ禍が直撃したところがあります。その業界全体の取扱高が大きく減少し、今まで訪問が主体だった営業担当者は、顧客の業績の悪化と訪問規制により大転換を強いられることになりました。しかし、一年かけてPDCAを回し続けたことにより、いろいろなことが見えてきました。

古い業界なのにもかかわらず、およそ9割の顧客が非対面での商談に応じてくれたので、営業活動が効率化し、マネージャーの悩みの種だった営業工数マネジメントという問題がほぼなくなりました。以前は多くの担当顧客に優先順位をつけて訪問先を絞り込んでいたのですが、非対面化が進んだのですべての担当顧客にこれまで以上の頻度でコンタクトできるようになりました。さらに、提案の頻度が上がったことで、受注までの期間も短くなったのです。

これらの変化を受けて、この企業は営業の基本スタイルを根本的に見直すことにしました。営業工数が貴重だった頃の「3か月サイクル」で「分析して絞り込んだ顧客を訪問する」営業から、多くの顧客への高頻度の営業活動をベースとした「1か月サイクル」で「担当顧客を網羅的にカバーする」営業に切り替えたのです。

また、組織全体でハードワークが習慣化していたのですが、営業現場の労働時間が一気に減少したので、新しい営業スタイルについての教育研修を手厚く行える余裕も生まれました。今では働き方改革を加速させ、標準労働時間の2割削減にも取り組み始めています。

これらの工夫もあって、昨年度の営業利益は通年で黒字を確保できましたし、今年度は昨年度以上の水準で進捗しています。営業のデジタル化に適応したことで営業そのものを進化させた事例だと言えるのではないでしょうか。

コロナ禍で学んだことを活かして景気回復に備えよう

今回ご紹介したレポートの中に「賢明なCEOは2020年に学んだことを活用し続けるだろう」という一文があります。コロナ禍に適応してきた1年間で私たちはデジタルツールの活用法だけでなく、効率的な営業活動の仕方など様々なことを学んできました。それらをもとに、営業活動のデジタル化を加速・強化させ、営業活動そのものを進化させる。それこそが、来る景気回復の時期に備えるということなのだと思います。

参考:「Succeeding in 2021 and Beyond」(Chief Executive Group & Alexander Group, 2021)