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コロナ以降、セールスイネーブルメントへの注目度がさらに高まっています。
セールスイネーブルメントとは、営業活動全体を通じて施策を設計・管理し、営業活動を最適化しようというもの。2015年頃から米国を中心に話題になり始め、このトライツブログでも2017年から積極的に紹介しています。
そんなセールスイネーブルメントへの注目度がコロナ以降さらに高まっており、Googleトレンドで人気度を見ると2019年は50程度だったのが、欧米で感染が本格化した2020年6月以降は100付近まで急上昇しています。また、B2B営業関連の大規模イベントでも「Sales Enablement Summit」「Sales Enablement Soiree」など、セールスイネーブルメントの名を冠するものが5つ以上に増えています。
このように注目されているセールスイネーブルメントですが、その意味するものや使われ方が当初から随分と変わってきています。今回のトライツブログでは、ここ数年間でセールスイネーブルメントに起きた変化と、その本質について改めて考えてみたいと思います。セールスイネーブルメントという言葉に馴染みはなくても、営業活動の効率化・最適化をお考えの方にも参考にしていただける内容ですので、ぜひお読みください。
ブームの中で意味合いが変わったセールスイネーブルメント
変化の話に入る前に、改めてもともとの定義を確認しましょう。セールスイネーブルメントとは、営業活動を段階・プロセスごとに分解し、それぞれの段階・プロセスで使われるコンテンツやトークスクリプトなどの施策を設計・評価・改善して、全体の生産性を高めようという考え方です。
このように提唱されたセールスイネーブルメントでしたが、広く普及・浸透していくにつれて、個別具体的なツール/ソリューションへと分岐していきました。SFAシステムと接続して営業パイプラインを詳細に分析するものや、営業トレーニング&コーチングの運用管理と効果測定をするもの、興味付け資料やデモ動画に提案書などの各種コンテンツを集約・評価するもの、果ては単なる動画作成ソフトや営業向けに特化したスケジューラーまで、「猫も杓子もセールスイネーブルメント」という状態になっていました。
しかし、ここ数年でセールスイネーブルメントの拡大解釈という流れは落ち着きを見せ、現在では、「営業トレーニング&コーチングの運用管理・分析」と「コンテンツマネジメント」の2つに集約されつつあります。しかし、この分岐→集約という変化の中で、セールスイネーブルメントの意味合いも大きく変わってしまいました。もともとの定義の中にあった、営業活動で用いられる施策をトータルで設計・評価・改善するという大局的な観点が失われ、トレーニングやコンテンツなどの単一の施策に閉じたものになってしまったのです。
このようにセールスイネーブルメントの本来の意味が薄れ、単なるコンテンツマネジメントツールや育成管理ツールになりつつある状況を受けて、一部ではセールスイネーブルメントという言葉を使わない動きも出てきています。先日ご紹介した最新のB2Bセールステックのカオスマップでは、昨年までは有った「セールスイネーブルメント」項目が削除され、「コンテンツマネジメント」と「営業担当者育成」の2つに分解・再編されました。これなども、セールスイネーブルメントの本来の意味が薄れ、個別施策向けのソリューションへと矮小化したことを示す出来事だと思います。
セールスイネーブルメント最新記事①定義と対象
このように登場から数年の間で一気に普及・浸透し、その過程でもともとの意味や対象とするものが変質してしまっているセールスイネーブルメントに対し、一石を投じる面白い記事が最近投稿されています。それは、2015年にイギリスで創業して現在急成長中の見込客発掘ツール開発会社である、Sopro社の「How to create a sales enablement strategy」という記事です。セールスイネーブルメントの位置づけと、実施・成功するためのポイントが全体的かつ具体的に整理されていますので、一部を抜粋してご紹介します。
まずは定義・位置づけについて見てみましょう。複数の文章に散らばっている要素を1つにまとめると、「セールスイネーブルメントとは、より効果的かつ効率的に営業活動を行うために、あらゆる障壁を取り除く継続的なプロセス」だと表現されています。そのため、対象はコンテンツやトレーニングなどの個別の施策に閉じていません。
セールスイネーブルメントには様々な方法があります。「営業トレーニング」に「見込客の評価と売上予測」や「コンテンツ戦略」。これらのうちのどれか1つに焦点を当てることもできますし、3つの要素を組み合わせることもできます。営業効率を向上させるものはすべて、セールスイネーブルメントの対象となります。
「営業効率を向上させるものはすべて、セールスイネーブルメントの対象」というのが、この記事の最大の特徴です。
セールスイネーブルメント最新記事②取組のポイント
記事の後段では、この本来の意味でのセールスイネーブルメントに取り組んで成功を収めるために必要な6つのポイントを、分かりやすく整理しています。続けて見ていきましょう。
顧客の購買プロセス上にコンテンツを配置する
(中略)自社のコンテンツが顧客購買プロセスのどこをカバーしていて、どこが欠けているのかを理解する必要があります。(後略)
ギャップを埋めるコンテンツを作成する
(中略)コンテンツは、意思決定や評価などの各段階にある見込客に対し、あなたのソリューションが最適であることを納得させるものでなければありません。(後略)
コンテンツを一元管理する
(中略)コンテンツを一か所に集約し、段階別や業界別などの基準で簡単に検索できるようにすることで、コンテンツの利用率、ひいては売上が向上します。
見込客情報を一元管理する
(中略)キャンペーン活動や過去のコンタクト履歴、連絡先などの情報を一か所に集めることで、営業担当者の時間を節約することができますし、この情報を活用することで見込客とのコンタクトの質が向上します。(後略)
育成・能力開発
これらのプロセスを構築するために要した時間とリソースを意味あるものにするために、営業組織にその必要性を理解させ、使い方を教える必要があります。(後略)
フィードバック・分析
セールスイネーブルメントが継続的なプロセスであることを忘れてはなりません。現場からのフィードバックの収集やデータの分析を通して、常に改善に努めましょう
営業全体での生産性向上という本来の意味合いに合致した、よく出来た6ポイントになっていると思います。セールスイネーブルメントだけでなく、現代のB2B営業全般に適応できているかについてのチェックリストとしても使える内容ですので、皆さんの営業組織に何が足りないのかを確認することから始めてもよいでしょう。
今回ご紹介したSopro社の記事は、セールスイネーブルメント本来の意味である「営業活動全体を通じて施策を設計・管理し、営業活動を最適化しよう」という観点に立ち戻り、さらにそれに取り組むための具体的なポイントを示してくれ、大変に役立つ内容だと思います。セールスイネーブルメントという言葉をご存じなかった方でも、営業活動の効率化に役立つ考え方ですので、参考にしていただければと思います。
「ソリューション化の罠」に気をつけてセールスイネーブルメント/DXに取り組もう
ここ数年で劇的に普及・浸透したセールスイネーブルメントは、コンテンツマネジメントやトレーニングなどの個別施策向けのソリューションとして矮小化してしまうという、言うなれば「ソリューション化の罠」に落ち込んでしまいました。システム開発などのソリューション提供側としては、流行にあやかりたいのでセールスイネーブルメントを自らの商品に安易に冠してしまう。他方で、買い手側は手っ取り早く成果が出るものが欲しいので、上手にパッケージされたソリューションが魅力的に映る。この両者の思惑が一致したことで、「単一施策向けにソリューション化されたセールスイネーブルメント」という自己矛盾をはらんだ不完全なツールが市場の主流になったのです。
とは言え、ソリューション化することが悪いという訳ではありません。機能が明確になる、使い勝手が洗練されるなど、新しいコンセプトが具体的なソリューションになることによるメリットはもちろんあります。大事なのは、ソリューション化のメリットを享受しつつも、セールスイネーブルメントの本来の意味や位置づけ、本質を忘れないでいることなのです。
現在、日本全体でDXが推進されており、営業DXという言葉もよく見聞きするようになっています。この機運に合わせてDX関連の様々なソリューションが市場に出ていますが、ややもすると個別のデジタルツールを導入することが目的となってしまう「ソリューション化の罠」に陥ってしまいかねません。ソリューションのメリットは享受しつつも、ビジネスを変革するというDXの本質を見失わずにい続けることの重要性を、ここ数年のセールスイネーブルメントの変遷と今回ご紹介した記事が教えてくれているのだと私は思います。
参考:「How to create a sales enablement strategy」(Kit Smith, Sopro, April 6, 2021)