この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。
異動や昇進による穴埋めや営業の育成を目的として顧客担当者を入れ替えるというのはよくあることだと思います。中には、定期的な顧客担当変更をルール化している企業もあります。
しかし、営業面から考えると一般的に「担当替え」はリスクとしてとらえられていることが多いようです。
「これまでに培った人間関係や顧客についての深い理解がきちんと引き継がれるだろうか?」
「顧客とのつながりが弱くなることで、売上が落ちてしまうのではないか?」
このような心配から、問題がない限りなるべく担当替えをしないようにと考え、結果として長期間担当が変わらないということは多いのですが、実はそれで失っているものもあるのです。
そこで、担当の長期化にひそむ問題と、それを打破し、売上拡大につなげる「攻め」の担当替えについて考えてみたいと思います。
担当の長期化にはデメリットがひそんでいる
長期的に顧客を担当することのメリットは、顧客の人間関係や社内事情などを深く理解していることによりスムーズな顧客対応ができるようになることでしょう。
「このテーマなら、あのキーマンに最初に話を通しておくとスムーズだ」
「そろそろ来年度の事業計画が始まる頃だから、情報収集を始めないと」
このように、顧客事情に精通していることで、営業活動の効率化が見込めるのですが、担当の長期化には大きなデメリットもひそんでいます。
デメリット1:顧客情報のブラックボックス化
担当が長期化するにつれて、その担当の顧客に関する情報量は増えていき、それが営業活動の効率化の源泉になります。
その反面、担当が長期にわたればわたるほど、経験的に得た情報や知識は言葉にして共有しづらいこともあって、その担当しか知らない情報が蓄積していきます。いわゆる「ブラックボックス化」です。
そして、徐々に、
「あの顧客のことは、担当の〇〇さんに聞かないと分からないよ」
「あの顧客に新商品の提案ができそうか、○○さんに意見を聞こう」
と、その担当を通してしか顧客の情報が入らなくなっていきます。
しかし、担当の目の届く範囲は限られていて、かつ固定化してくることが一般的なので、顧客の内部に新しい部門が新設されたり、キーマンが異動になるなど新しいビジネスチャンスが生まれていても、それを上手くキャッチできないという状況が生まれるのです。
デメリット2:過去の失敗体験から何でもブレーキ
また、長い間顧客対応をしていると、うまくいったことばかりではなく、思うように進まなかったこともたくさん出てきます。
「以前にあの部署に提案したけど、まったく前に進まなくて困った」
「あのキーマンに新商品提案したら嫌がられた。だから既存商品しか提案できない」
こういう過去の失敗体験が蓄積していくと、新しい提案をしようとしてもうまくいかない原因を思いついてしまい「あれはすでにやった」「これは難しい」と、担当が自らブレーキをかけるようになり、ビジネスが広がらなくなっていきます。
デメリット3:顧客と自社との関係性の硬直化
そして担当も人間なので向き不向きや好き嫌いによって、どうしても提案の領域や営業活動の進め方に偏りが生じてしまいます。
「素材に関する知識は豊富だけど、加工品の知識に自信がない」
「商品提案はできるけれど、顧客の課題はうまく聞き出せない」
このような苦手意識から来る顧客への情報提供の偏りが、顧客から見た時の自社の役割を決めてしまい、自社の役割を制限してしまうことにつながります。そして担当が長期化すればするほど、この自社の役割の制限は強いものになり、顧客と自社との関係性の硬直化が進行していくのです。
担当の長期化が売上拡大を阻んでいる
ご紹介した3つのデメリットにより、自社は顧客の本当の姿が分からなくなり、顧客は新しい情報や正しい情報が提供されないため、だんだんと自社に期待しなくなっていきます。
この状態が続くことによって、本当はどんどんビジネスチャンスが広がっているにも関わらず、それを捉えることができないまま、顧客とのビジネスが停滞してしまっているという、笑えない状況に・・・・
つまり、今の売上を維持するために担当を固定化して続けさせることが、新しい売上をつくりだすための阻害要因となってしまっているのです。
「攻め」の担当替えで売上拡大につなげよう!
そこで有効なのは「攻め」の担当替えです。普通に引き継ぎをして前任者と同じように営業活動をするという「普通」の担当替えではなく、担当替えをきっかけにしてこれまでの関係性を打ち破る新しいアプローチを仕掛けていき、売上拡大を実現しようという考え方です。
それを成功させる5つのポイントをご紹介します。
ポイント1:インパクトの高い顧客に狙いを定める
まず「攻め」の担当替えは、積極的に売上拡大を図るべき顧客に狙いを定めて行うことです。
具体的には、ポテンシャルがあるにもかかわらず実績が伸び悩んでいて、かつ担当が長期化している顧客がターゲットです。
その前提となるのが顧客分析です。顧客のポテンシャルや、取引状況の推移、顧客との関係性などの指標で顧客を評価できていなければ狙いを定めることはできません。「攻め」の担当替えを行う前には顧客分析を行うことをおすすめします。
ポイント2:変化を恐れないタイプの人材を投入する
「攻め」の担当替えの大きな目的は顧客との関係性を「変える」ことですから、それに相応しい人材を投入する必要があります。
営業担当者のパーソナリティとして、慎重で石橋を叩いてわたるタイプもいれば、行動力があり果敢にチャレンジしようとするタイプもいます。売上拡大のためには過去の体験にとらわれず、積極的に顧客に仕掛けていくことが必要です。うまくいくかどうかためらってしまうタイプではなく、多少のリスクを恐れずに、自ら工夫しながら顧客とコミュニケーションを取ることができる営業が向いているのです。
また、それらを感覚的に評価して判断するのではなく、営業担当者のスキルやコンピテンシーを客観的に評価する「営業育成ロードマップ」などのしくみが必要だと思います。「営業育成ロードマップ」は、単に現時点での営業担当者を評価するだけでなく、将来に向けてどうなってもらいたいかを共有し、育成や適切な配置などに活用できる人材育成ツールです。
ポイント3:担当替えに意図を持ち、顧客にも伝える
これまでできなかった売上拡大を成功させるためには、顧客の気持ちを動かす必要があります。そのためにはその顧客にどうなってもらいたいのか、どんなことに共同で取り組みたいのか、と言ったを明確な自社の「思い」を持ち、それを相手と共有することが有効です。
そして、そのことを顧客に積極的な働きかけていくことで、顧客の気持ちを動かしていくのです。
これをトライツコンサルティングでは「インスパイアプレゼン」と呼び、営業手法の中に組み込んでいます。
ポイント4:新たな営業手法の導入と同時に行う
担当替えと同時に、顧客との関係性を変え、自社が望むビジネスを構築するための新たな営業手法、例えばソリューション営業やコンサルティング営業の導入を行うことも有効です。
担当が入れ替わるタイミングだからこそ、これまでと違ったアプローチが受け入れられやすいため、絶好のチャンスと言えます。
ポイント5:新鮮なうちに関係性を変える・人脈を広げる
担当替えには鮮度があり、顧客が「担当が替わる」と知った瞬間から、そのインパクトは徐々に減少していきます。
多少のリスクを覚悟で担当替えを行うのですから、インパクトを充分活かせるうちに、関係性を変えたり、人脈を広げるためのアプローチを行うべきです。そのためには、担当替えとそれにともなうアプローチについて、綿密なアクションプランやスケジュールを立てて、用意周到に行う必要があります。
「段取り八分、仕上げ二分」と言われるように、この用意周到なプランづくりを我々の現場支援でもとても大事にしています。前任の担当と新たな担当、そのマネージャーらとともに納得のいくプランを立てておくことで、「攻め」の担当替えの効果を最大化させることができるのです。
「攻め」の担当替えを売上拡大の施策として取り入れよう!
一般的にはリスクだと見られることの多い担当替え。しかし、異動などの必要にかられて行う担当替えではなく、営業の「攻めの一手」として取り入れることができれば、固定化してしまった顧客との関係性を変え、売上拡大へとつなげることができます。
ただ、多くの企業ではこのチャンスを「それは各営業担当者が工夫するものである」とし、現場任せにしてきました。
しかしながら、先ほど述べたような、「顧客分析」「営業育成ロードマップ」「インスパイアプレゼン」「新たな営業手法やツール」「顧客攻略プラン」と言ったように「型化」ができていれば、それがガイドとなり、「攻めの担当替え」の成功確率を大幅に向上させることができるのです。
トライツコンサルティングでは、「担当替え」と言った一見普通に見える営業施策でも、営業の「攻め」の一手に変える取り組みをさまざまな企業と取り組んでいます。どうすればより結果の出せる営業がつくれるか、営業現場をどうすれば活性化できるのかなど、ご関心のある方はお気軽に下記よりお問い合わせください。