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Amazonで「営業 言葉」というキーワードで書籍を検索すると、450件もの結果が返ってきます。これだけの本が出版されているということは、「これを言えば売れる」という魔法のようなフレーズを知りたがっている読み手と、「それを見つけたから広めたい」という書き手が、それだけ多くいるということの現れでしょう。
そのような「これを言えば売れる」営業のフレーズは、これまでトップ営業と言われる人たちが過去の経験から、その人の思考というフィルターを通して抽出してきたものでした。しかし、いよいよこの分野にも、データとAIが進出し始めているようです。
今回のトライツブログでは、B2B営業でのAIによる音声分析サービス会社が発表した、トップ営業が使う単語/フレーズについての調査結果をご紹介します。売れる営業トークのヒントを知りたい方も、営業でのAIの活用法を考えている方も、ぜひお読みください。
調査結果:トップ営業が頻繁に使う単語/フレーズ5グループ
今回ご紹介するのは、米国サンフランシスコに本拠地を置く、AIを使ったB2B営業トークの自動認識&分析サービス会社、Gong.ioの調査記事「Want To Be A Top Performer? These Words And Phrases Are Proven To Win Deals」(トップ営業になりたい?効果証明済みの単語/フレーズ集)。これはGong社のサービスを使っているユーザー企業のWeb会議、電話、Eメールの音声/文字データ500,000件をもとに、トップ営業が頻繁に使っている単語/フレーズを5グループ抽出した、というものです。早速見ていきましょう。
グループ①「あなた」、グループ②「想像してみてください」
1つめのグループは「あなた」です。
トップ営業は「あなた」「あなたの」「あなたのチーム」という言葉を、平均以下の営業よりも29%多く利用しています。
平均的な営業:「このワークフローを使うことで、ユーザーは時間を最大限に活用できます」
トップ営業 :「このワークフローを使うことで、あなたはこれまで以上に効率化を実現できます」(中略)
トップ営業のトークは、直接的に個人に訴えるもので、パンチ力があります。平均的な営業のトークは、間接的で一般的なものでしかなく、つまるところ、説得力がありません。
続けて、2つめのグループ「想像してみてください」を見てみましょう。
トップ営業は「想像してみてください」「つまり」「例えば」「なぜなら」という言葉を、平均以下の営業よりも31%多く利用しています。
「営業活動のパイプラインを完全に可視化することは重要です。なぜなら、それがなければ売上を予測することはゲームと変わりなくなってしまうからです」
「データとそれの分析機能をすぐに利用できます。つまり、データサイエンティストを雇う必要がないということです」
これらの言葉はすべて、相手が頭の中でイメージを描くのを助けるものです。つまり、より売り上げにつながるということです。
この「あなた」と「想像してみてください」の2つのグループは、相手をトークの中に巻き込むものだと言えるでしょう。「あなた」という言葉を使うことでトークの中に相手を巻き込み、「想像してみてください」「なぜなら」などの言葉で相手がトークの内容を自分の頭の中に思い浮かべるようになる。トップ営業による本の中でもよく出てくる内容ですので、納得の分析結果だと私は思います。
グループ③「問題」
3つめのグループは「問題」です。
トップ営業は「問題」「課題」「解決策」「機会」という言葉を、平均以下の営業よりも36%多く利用しています。
トップ営業は、問題を特定し、顧客の課題を明確化する会話を行います。そしてそれを解決策の提案につなげ、ネガティブな問題をポジティブな機会へと変換するのです。
3つめのグループは、まさに以前から言われている「課題解決型営業」そのものです。さすがに最近では、「課題解決型営業は手間がかかるだけで意味がない」という話を聞かなくなりましたが、ここでも課題解決型営業が有効であることが実証されたと言えるでしょう。
グループ④「最高評価」、グループ⑤「ご覧ください」
4つめのグループ「最高評価」と、5つめのグループ「ご覧ください」を続けて見ていきましょう。
顧客は自分たちが最高の意思決定をしていることを知りたがっており、社会的な証明という力が顧客を前進させます。
トップ営業はこのことを知っているので、「最高評価」「最も信頼されている」「最優秀賞」「最高のレビュー」などの社会的な証明を示す言葉を、平均以下の営業よりも42%多く利用しています。
感覚は理解を助けるものであり、営業担当者が複雑なものごとを説明するときに、感覚を活用するのは有効です。特にこの新型コロナウイルスによる動画の普及は、視覚や聴覚を刺激する情報を与えることがとりわけ重要であることを示しています。
トップ営業は感覚的な言葉、特に視覚と聴覚に関する言葉を、平均以下の営業よりも36%多く利用しています。
この2つのグループに共通して言えるのは、この分析データの中のトップ営業は、しっかりと現在のトレンドに対応したトークをしている、ということです。
米国ではB2B顧客がSNSやレビューサイトを見て、商品・サービスの評判を確かめるということが当たり前になっており、それに対応した営業活動「ソーシャルセリング」が営業戦略上不可欠なものになっています。SNSやレビューサイトでの自社商品・サービスの評判を把握して、それをトークの中に織り込んでいるのが4つめのグループ「最高評価」です。
また、以前のトライツブログ「コロナ禍で進化するSalesTech!今、求められる営業組織とは」でもご紹介しましたが、この新型コロナの影響により多くの人が在宅で勤務するようになってから、数十秒程度の動画を使ったメールやビデオチャットなどが注目されています。動画などのように視覚や聴覚に訴えかけるコンテンツを活用しているのが、5つめのグループ「ご覧ください」なのです。
このように、5つのグループの中身を見てみると、以前から営業トークとして多くの本で取り上げられていた、相手を巻き込む言葉(「あなた」「想像してみてください」)や、課題解決の言葉(「問題」)、そして最新のトレンドを活用していることが分かる言葉(「最高評価」「ご覧ください」)と、様々な要素の言葉が満遍なく含まれていることが分かります。この意味でも、非常に面白いデータだったのではないでしょうか。
AI音声認識&分析機能がこれから拡大の兆し
現在、私たちの周りでは多くのAIが使われています。AmazonやGoogleのスマートスピーカーなどはその発端だと言えるでしょう。このスマートスピーカーで使われている、音声認識&分析機能がB2B営業でも使われ始めています。日本でもコグニティやミーテルなどの、AIによる音声認識&分析ツールを使っている会社が増えてきています。
そのような中、今回ご紹介したGong社の調査結果は、B2B営業におけるAI活用の分かりやすい事例だと私は思います。海外のベンチャー企業やテクノロジーに関するニュースサイトなどを見ていると、Gong社はここ数年間で導入企業数でも資金調達額でも急伸しており、Salesforceに続くユニコーン企業として注目を集めています。
Gongのサービスはまだ日本語に対応していませんし、Gongのような大規模な分析データを公表している日本企業もまだありませんが、Web会議/電話/Eメールなどの音声/文章を自動で認識・集約し、売上につながるキーワードや話し方を分析するサービスは、日本でも今後広がってくることでしょう。
このようなサービスが浸透することで、私たちの仕事、特に営業人材の育成は大きく変わるものと思われます。これまで営業マネージャーからOJTで指導されていた、顧客との話し方や使うべきキーワードについては、個々の営業マネージャーの経験から「こうすれば?」と指導するだけでなく、「データで見るとこれが良いらしいから、やってみよう!」というものも加わるでしょう。これは、マネージャー自身が知らなかったことに気付くことにもつながります。そして、そのような状況では、AIによってアウトプットされたデータを読み解いてその背景や文脈を言語化して伝える能力が、営業マネージャーに求められるようになるはずです。
前回のブログ「あなたならどう適応する?B2B営業の未来予想2025」でご紹介した、B2B営業の未来「データ駆動型の営業」の一部はこのようになっているのかもしれません。
SFAやMAなどの技術によって、B2B営業の世界は大きく変わりました。そして、次にB2B営業を大きく変えるのはGongのようなAIによる音声認識&分析技術なのではないかと、私は思います。これからもこの技術、そしてGongなどのリーディング企業を定期的にウォッチして情報をお届けしますので、ぜひご期待ください。
参考:「Want To Be A Top Performer? These Words And Phrases Are Proven To Win Deals」(Gong.io, August 26, 2020)