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ここ数年で日本でも頻繁に見聞きするようになった言葉の1つに「SalesTech(セールステック)」があります。セールステックはSalesとTechnologyを組み合わせた造語で、営業活動を効率化する技術の総称です。そのため、皆さんが普段使っているSFA/CRMもセールステックですし、顧客とのリモート会議で使っているZoomやTeamsなどのWebコミュニケーションツールもセールステックに含まれます。

そのセールステックがコロナ禍以降、非常に注目されています。昨年の秋ごろから日本でもセールステックに関するWebページは増えていたのですが、コロナによりリモートワークが進んだ4月以降、一気に広がったように感じます。また、セールステックをテーマとした講演会も続々と開催されています。

そこで、今回のトライツブログでは現在注目されているセールステックと、その中でも特に注目度の高い2つのジャンルについてご紹介したいと思います。対面での営業活動が本格再開とはなっていない現在、テクノロジーを使って営業のやり方を見直したいとお考えの方はぜひお読みください。

海外調査記事①:セールステック活用で進む営業の合理化

2020年4~6月期のGDPが年率換算で51%減となった南アフリカを筆頭に、世界中で経済活動に急ブレーキがかかっていましたが、セールステック市場は着実に伸びているようです。Forrester社の最近の調査「Forrester Wabe:Sales Engagement Q3, 2020」から主だった数字をご紹介します。

B2B企業の41%で営業担当者の人数を減らし、10%は削減した人件費をセールステックに投資している。
B2B企業の1/3以上が、今後SalesTechで使用するライセンス数を増やすことを計画している。

これまでの営業活動が出来なくなったことから、上の数字のように営業人員をスリム化しながら必要な機能をテクノロジーに置き換え、営業活動を合理化しようとしている様子がうかがえます。

海外調査記事②:コロナ禍の2020年に注目されているセールステック

このようにいっそう注目されるようになったセールステックについて、面白い記事が発表されました。オランダに拠点を持つB2B営業コンサルティング会社YourSales社の「Sales Stack 2020:Sales Tools for Professional Sales」です。この記事の中では、セールステックを31の分類に分けて、それぞれの分類ごとに代表的なツールや新興企業ながら興味深いツールを紹介しています。

31の分類の中には、皆さんおなじみの「CRM/SFA」や「データ分析」「Web会議」などもありますし、SNSを使った「ソーシャルセリング」、営業研修をシステム的に実施できる「セールスラーニング」など、日本ではまだあまり見ない分類もあります。この2020年の31分類を、2019年にNicolas De Kouchkovsky氏が発表した「2019 SalesTech Landscape」と比較してみたところ、以下の2つのジャンルが新たに追加されていることが分かりました。

そのジャンルとは、「バイヤーイネーブルメント」と「ビデオ・セールス・エンゲージメント」です。

セールステックの注目株その1:バイヤーイネーブルメント

バイヤーイネーブルメントとは、顧客の購買活動を支援し、顧客がプレッシャーやストレスを感じずに良い意思決定をできるようにする、というもの。以前からこのトライツブログでも紹介していましたが、世界中でロックダウンや外出自粛のためにリモートワーク化が進み、B2Bの購買担当者がオンライン中心で購買活動を行うようになってから、さらに注目を集めています。

このバイヤーイネーブルメントのセールステックとして有名になりつつあるのが、Boxxstepです。一見すると普通のCRM/SFAツールなのですが、中身が根本的に違います。バイヤーイネーブルメントでは、顧客にはそれぞれ独自の購買プロセスがあり、営業は顧客がそのプロセスを進むのを後押しする役割だ、という大きな前提があります。そのため、Boxxstepでは「課題把握」「提案」「見積提出」などのような営業主体のプロセスで商談を管理しません。その代わりに、顧客ごとに購買プロセスを設定し、その進捗を管理するようになっています。

また、「隠れたキーマンを探せ!」(原題は「The Challenger Customer」)という本で定義している、顧客の中のキーマン分類法を採用しており、顧客内のキーマンの役割をその分類で整理・確認できるようになっています。また、顧客のキーマン情報を整理する際も、組織図のようなオフィシャルな関係性だけでなく、「AさんとBさんは同期」「BさんはCさんの大学の研究室の先輩」のようなプライベートな関係性でも整理できるようになっており、バイヤーイネーブルメントという考え方に非常にマッチしたツールとなっています。

セールステックの注目株その2:ビデオ・セールス・エンゲージメント

ビデオ・セールス・エンゲージメントとは、個別の顧客に対する営業活動の中で動画を活用し、顧客との商談や関係性を前進/向上させようというもの。端的に言うと、30~60秒程度の短い動画をEメールに簡単に添付できるようにして、差別化しよう、ということです。

そもそもなぜEメールで差別化しなければならないのでしょうか。それは、コロナ以降でEメールが大きく増えていることによります。多くのB2B顧客がリモートワークをするようになり、新しい見込客を発掘する手法としてセールス/マーケティング目的のEメールが激増しています。Hupspot社の調査によると、コロナ以前と比較してマーケティングメールは20%、セールスメールは50%も増えているとのこと。そのような中、少しでも顧客の注意をひいて開封率を高めよう、開封してくれた見込客にインパクトを与えようという目的で利用されるのが、ビデオ・セールス・エンゲージメントなのです。

「Sales Stack 2020」では7つのツールが紹介されていますが、その中でも有名なのがDriftLoomVidyardです。各社とも、スマホやPCなどの環境で簡単に動画を作成し、それをEメールに添付できるようになっています。また、SalesforceなどのSFAとも連携できるようになっているため、どの顧客にどんな動画をいつ送ったのかを追跡管理することも簡単にできます。

このように見てみると、時を同じくして注目されるようになった2つのジャンルですが、バイヤーイネーブルメントはオンライン化が進む顧客の変化に自社の営業戦略を適応させようという大きな考え方の転換を含んでいるのに対し、ビデオ・セールス・エンゲージメントはあくまでも既存の営業活動の枠組みの中で差別化しようというもので、これらには大きな違いがあることが分かります。

今求められている「一人ひとりがテクノロジーを使いこなせる営業組織への進化」

これらのことから言えることは何でしょうか。私なりに考えてみたことが2つあります。

1つは、コロナという環境変化によってセールステックの進化の方向性が変わってきている、ということです。前段で紹介したForrester社の調査の中には「53%のホワイトカラーの従業員が今後もリモートワークを継続することを予定している」というものがあります。つまり、現在の状況はしばらく続くと考えられているため、今回ご紹介したビデオ・セールス・エンゲージメントのようになかなか対面で会えない顧客に対して効果的にアプローチするものや、バイヤーイネーブルメントのようにオンラインで自主的に購買活動を行う顧客を支援するものに、今後も注目が集まると思われます。

そしてもう1つは、テクノロジーを使いこなす営業担当者が本当に求められるようになってきている、ということです。本日紹介したバイヤーイネーブルメントも、ビデオ・セールス・エンゲージメントも、本社の営業企画が導入・設定さえすればよいというものではありません。営業担当者一人ひとりが使いこなせるようにならないと意味がないのです。4割の会社で営業担当者を減らし、3割以上の会社でセールステックへの投資を増やそうとしている、というForrester社の調査結果にあるように、テクノロジーを使いこなせる営業担当者による機能的な営業組織というものが今後の主流となる可能性が大いにあるのです。

コロナ禍で加速・進化しているセールステック。そこで見えてきたのは営業一人ひとりがテクノロジーを使いこなせる営業組織への進化、という大きな潮流が生じているということでした。単にツールを導入するだけでなく、それを使いこなせるようにどう営業担当者を育成していくか。ぜひ皆さんの営業組織ならどうするかを考えてみていただければと思います。

トライツコンサルティングは、セールステックの選定と活用支援、教育を通じた営業DXへの取組を支援しています。「リモートで営業できるテクノロジーを導入・活用したい」「テクノロジーを使いこなせる営業組織を作りたい」とお考えの方はぜひご相談ください。

参考:
Forrester Wabe:Sales Engagement Q3, 2020」(Forrester Research, Inc., September 9, 2020)
Sales Stack 2020:Sales Tools for Professional Sales」(YourSales)