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「リードナーチャリング」(見込客の育成)という言葉が日本でも広く使われるようになってから10年ほど。出始めのころは一部の先進的な企業だけが取り組んでいましたが、今や多くのB2B企業が、自社のWebサイト/SNSページを訪問した見込客や展示会で名刺交換した見込客に対して、メールマガジンを送ったりWebコンテンツを紹介するなど、継続的にコミュニケーションを取りながら購買意欲を高める「リードナーチャリング」に取り組んでいます。

しかし、せっかくこのようにして育成されたはずの見込客なのに、営業担当者がフォローしても「今すぐ買いたい」という状態になっていない、ということがよくあります。そんな状態の見込客にいきなり売り込んでも商談にならず、次に会うことすら難しくなってしまいます。つまり、メールマガジンやWebコンテンツなどで育成された見込客から商談を発掘・受注するためには、営業担当者によって見込客をさらに育成する必要があるのです。

今回のトライツブログでは、そのような「営業によるリードナーチャリング」の方法について、トライツでの実践例を交えてご紹介したいと思います。「MAを使ってリードナーチャリングをしているがなかなか結果が出ない」「マーケティング部門から渡される見込客リストをフォローしてもムダが多い」という方はぜひお読みください。

マーケから渡される見込客への営業活動がうまくいかない理由

冒頭でもお伝えしましたが、現在のリードナーチャリングはメールマガジンやWebコンテンツなど、主にWeb上でのコミュニケーションを通じて行われるものになっています。その理由として、B2B企業の購買活動においてWebでの情報収集のウェイトが高まっていること、そして数多くの企業に様々な種類のメールマガジンを送信したり、各企業の自社のWebサイトの閲覧状況を把握したりできるMAツールが多くのB2B企業で使われるようになっている、ということが挙げられます。

しかし、そのようにWeb上でしっかりコミュニケーションが取れ、自社商品・サービスに対する興味や関心が高まっているはずなのに、実際に営業担当者がフォローしてもまだ具体的なニーズがなかったり、実際の購入はずいぶん先を予定している、ということがよくあります。そのような見込客に、今すぐ買うつもりがあるかのように売り込んでも空振りになりますし、相手によっては次に会えなくなってしまうこともあります。そうなると、その見込客を渡したマーケティング部門からすると「営業はせっかくの見込客をダメにする」となり、受け取った営業部門からすると「マーケから渡される見込客リストは質が低い」となる。結果として、見込客もマーケティング部門も営業部門も、みんながちょっとずつ不幸になってしまいます。

このようになってしまう理由は、見込客の「興味・関心がある」状態から、実際に「自社商品・サービスを購入する」状態に至るまでの間に、「具体的なテーマ(営業から見ると商談)の設定」「調査」「比較」「関係部署間での検討・調整」などのような様々なプロセスが存在していることにあります。

見込客を「興味・関心がある」から「購入する」まで推進サポートする『ミニ・プロジェクト』

例えば、見込客が最終製品のメーカーで、そこが今度発売する新製品で使われる素材を営業から購入するという場合、新製品のコンセプトを考え、それが市場で受け入れられるか調査し、実際に問題なく作れるか試作・評価する、といったプロセスを踏む必要があります。また、見込客が毎年実施しているキャンペーンの運営を営業に発注するという場合は、去年のキャンペーン実績について検証し、今年の目標や戦略に応じて方針や条件を見直す、というプロセスを各企業の営業担当者を集めるまでに実施しなければなりません。

このように、見込客がWeb上で育成されている状態から、実際に商品・サービスを購入する状態までの間には一連の業務/プロジェクトが進んでいます。トライツがクライアントの営業を支援する場合、この顧客内のプロジェクトを推進サポートし、最終的に自社商品・サービスの購入につなげる「ミニ・プロジェクト」を、営業によるリードナーチャリングの1つとして取り組むことが多くあります。

このミニ・プロジェクトがいったいどのようなものなのか、例をご紹介します。ただし、以下の例のようなことをすべての見込客に対して行うと、営業部門の工数がパンクしてしまいます。そのため、組織として優先順位の高い顧客に絞り込んで実施したものだということを念頭に置いて、お読みください。

トライツが支援した『ミニ・プロジェクト』の実践例とポイント

先ほどの、見込客が最終製品のメーカーで、そこが今度発売する新製品で使われる素材を営業から購入するという例では、商品コンセプトの設計や、マーケティング調査の進め方、使用する素材ごとの試作のポイントと評価項目・方法について、営業担当者が顧客と一緒に検討しながら進めるようにしました。それぞれの場面で、営業担当者と開発サポートメンバーが顧客の開発担当者と一緒になって議論して案をまとめ、それを顧客の関連部署に対して一緒に説明し、中身を作りこんでいったのです。

また、見込客が毎年実施しているキャンペーンの運営を営業に発注するという例では、顧客からデータを預かって過去のキャンペーンの投資対効果や長期的なブランディングについて分析し、今年の目標や戦略に基づいてキャンペーンの基本方針案を顧客のマーケティング部門と一緒に議論して作り上げるということを行いました。これも営業部門だけでは難しかったので、社内の企画メンバーと営業マネージャーにも定期的に入ってもらいながら進めていきました。

そして、この2つの例の両方で共通して実施したのが、ミニ・プロジェクトの進行管理です。新製品の発売日やキャンペーンの結果報告日といったゴールまでの実施業務を顧客と一緒に洗い出し、それぞれの業務に関連する社内外の関係部署を整理して、1枚のプロジェクトカレンダーを作成しました。常にこのカレンダーをアップデートして、進捗サポートの役を買って出たことによって、どちらの営業担当者も見込客にとって欠かせない存在になったのです。

簡単にミニ・プロジェクトの例をご紹介しましたが、共通して言えるポイントが2つあります。1つは、これまで個別サービスとして実施していたノウハウや職人技にスポットライトを当てて、誰もが使えるようにカタチ(営業ツール)に落とし込むこと。商品コンセプトの考え方や、キャンペーンの投資対効果の分析方法など、今まで営業活動の中の雑用だと思われていた作業の中に含まれている、営業担当者のノウハウや技を抽出していきました。

そしてもう1つは、営業担当者にすべての作業を押し付けるのではなく、開発部門や企画部門など社内からサポートを受けて組織で取り組むことです。この2つのポイントを守ることで、ミニ・プロジェクトが営業担当者にとって無理なく続けられるものになるのです。

『ミニ・プロジェクト』の取り組みから得られる3つのメリット

色々なクライアントとこのミニ・プロジェクトに取り組んでみて、このリードナーチャリング手法には3つのメリットがあることが分かってきました。

1つめのメリットは、自社都合の強引な売り込みではない営業フォローを無理なく自然に行える、ということです。「見込客に情報を出して相手が社内のプロセスを進めるのを待つ」タイプの営業活動ですと、どうしても「営業フォロー=せっつく」という構造になってしまい、相手にとっても気分が良いものではありませんし、営業担当者の中には心苦しく感じる人もいるでしょう。これに対してミニ・プロジェクトでは、顧客のプロジェクトを一緒になって進めるという協力体制に基づいていますので、自然に無理なくフォローできるのです。

2つめのメリットは、顧客の内部の業務の進め方や関係部署の役割などを理解できるので、次の商談の芽を見つけやすくなりますし、それをより効率的にサポートできるようになります。単純に言うと顧客の購買プロセスについての「学習効果」が得られるということです。

そして3つめのメリットは、顧客の様々な関係者と頻繁に会えるようになるので、「別件だけど相談していいかな?」と声をかけてもらえる機会が大幅に増えることです。このメリットは意外と侮れないもので、本命だった商談のミニ・プロジェクトが顧客の方針の転換によって見送りとなったものの、それ以上の「別件受注」がもらえたという経験がよくあります。そして時には、本命のミニ・プロジェクトはテーマとして難しそうだけど、今まで会えなかった部署の人と会えるようになるので別件受注狙いでミニ・プロジェクトを進めることもあります。

ミニ・プロジェクトを通じて顧客の生態系と自社の存在役割を育てる

このブログの冒頭で、リードナーチャリングのことを「見込客の育成」と書きました。しかし、実際にミニ・プロジェクト形式で営業によるリードナーチャリングをしてみた結果、育成しているのは見込客ではなく新製品開発やキャンペーンの企画運営などの見込客のプロジェクトでした。そして、この活動を通じて、顧客が業務に取り組む際のネットワークや生態系(エコシステム)、特にその中での自社の存在役割や関係性というものが育成できたのです。

多くの情報はWeb上で無料で見られるようになっており、購買担当者にとっての営業部門の存在価値が改めて問われるようになっています。そのような状況において、見込客にとってなくてはならない存在になり、見込客のネットワーク/生態系の中に自分たちが入るようにする方法として、ミニ・プロジェクトは非常に有効な取組なのです。

トライツコンサルティングは、見込客や既存顧客へのミニ・プロジェクトの実践を通じた、取引拡大/顧客深耕を支援しています。「優先順位の高い見込客/既存顧客との取引を拡大したい」「見込客にとってかけがえのないパートナーとなりたい」とお考えの方はぜひご相談ください。