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今年も新語・流行語大賞が発表されるシーズンになりました。「AI」が新語・流行語大賞の候補になったのは3年前の2016年。当時大賞を受賞した「神ってる」という言葉は最近ではほとんど使われなくなり、トップテン入りした「アモーレ」や「PPAP」もすっかり懐かしい言葉になっていますが、「AI」は新語や流行語といった一過性の言葉では終わらず、普段から当たり前に使われる言葉となりました。

そんな2019年の年末に、AIに関する大きなイベントが東京で開催されたのをご存知でしょうか。AI開発のリーディング・カンパニーであるDataRobot社の「AI Experience 2019 Tokyo」です。AIが流行語となってから3年経ち、日本企業のAI活用はどのようになっているのか、そしてこれからどこへ向かうのか、一緒に考えてみましょう。

AI開発で急成長しているDataRobot社

イベントの内容をご紹介する前に、主催者であるDataRobot社について簡単にご説明します。

DataRobot社は、データサイエンス/機械学習のプロフェッショナルを中心にAIシステムの開発・導入を進めている、AIのリーディングカンパニー。設立は2012年と若いのですが、2017年には日本支社を設立し第1回の「AI Experience」を開催。2019年現在では全世界に1,000人の従業員を抱えるまでに成長しています。そして、1,000人の従業員の4割以上がデータサイエンティストです。

DataRobot社の創設メンバーは、Kaggle(カグル)というオンラインコミュニティの出身。Kaggleでは企業や大学などデータサイエンティストに分析してもらいたいデータを提供し、参加者が競ってモデルを開発して、最も優れたモデルを開発した人に賞金が提供されるというしくみになっています。DataRobot社には、このKaggleで鍛えられた生粋のデータサイエンティストがゴロゴロいるので、GoogleやAmazon、MicrosoftのようなAI開発に力を入れているプラットフォーマーの巨人たちとも対等に渡り合って、設立以来急成長を遂げています。

日本市場でも浸透が進む全自動型AI

イベント当日に会場に行き、参加者の多さにも驚きました(当日の速報値では4,000人を超えていたとのことです)が、それよりも衝撃を受けたのが日本市場への浸透度合です。戦略的な理由のためにDataRobotをAIエンジンとして採用していることを公言しているサービスは少ないのですが、有名どころではMarketoやKarteといったMAツールが、その核となるエンジン部分にDataRobotを導入していることを発表しています。また、銀行・カード・保険といった金融業界をはじめ、製薬などさまざまな業界でもDataRobotの成功事例が報告されていました。

ここで、DataRobot社が提供するAIエンジンについて簡単にご紹介します。同社のサービスは、売上の予測や顧客の優先順位付けといったビジネスの課題に対し、データをもとに分析モデルを作って答えを導き出すことから、運用を通じて分析モデルを最適化・チューニングすることまでを一気通貫して全自動で行います。つまり、データセットさえ用意しておけば、継続して自動的に最適な答えが手に入るようになるというのです。

例えば「この客に商品Aを売れる確率が高いので、前にコンタクトしたB課長にアポイントを取ってください」と、営業マネージャーではなくAIがアドバイスしてくれるようになる。顧客データと過去の商談データをAIに読み取らせるだけで、以前はデータサイエンティストに注文して数か月待たないと得られなかったようなデータを自動かつ短時間で手に入れるのも夢ではありません。

ここまでの話を読んで「おや?」と思った方もいるのではないでしょうか。新聞や雑誌ではAIやデータサイエンスに関わる人材育成の必要性が声高に言われており、並外れてスキルが高ければ新人でも年収1,000万円を用意する企業が増えているのに、その専門的なスキルを必要としている部分が自動化されようとしているのです。

専門家が使うAIから、一般的なビジネスマンがExcelのように使うAIへ

まさにそれこそが、今回のイベントのキーワードである「AIの民主化」「シチズンAI」だったのです。これまで、データサイエンティストの専売特許であり、統計解析や機械学習モデル、プログラミングなどの高度な知識が必要だとされてきた「モデルの生成・管理・チューニング」を自動化したことで、AIを一部の専門家(データサイエンティスト)だけのものから、一般的なビジネスマン(民衆、シチズン)でも使いこなせるものにした、というのが「AI Experience 2019 Tokyo」で一番伝えたかったことなのだと私は感じました。

そのため、DataRobotを導入している企業の講演内容も「どんなビジネス課題に取り組んでいるか」「社内でどのようにAI/データサイエンス人材を育成しているか」というものがメインで、統計解析や機械学習についての技術的な難しい話はゼロ。いかにAIがビジネスの現場で使われるようになっているかをアピールしていました。

DataRobot社以外にも「AIの民主化」をスローガンとしている会社があり、そこでは「AIをExcel並みにビジネスマンの誰もが使えるツールにする」ということを目標としています。今、私たちが当たり前にExcelを使っているのと同じように、将来は営業マネージャーや営業企画メンバーが当たり前にAIを使いこなしている、ということが現実になる可能性があるのです。

転換期を迎えつつあるAI

AIの民主化を宣言した「AI Experience 2019 Tokyo」に出席してみて感じたのは、今AIは2つの意味で大きな転換期を迎えようとしている、ということです。

転換期の1つ目の意味は「ブラックボックス化するAI」。今まではデータサイエンティストという職人が、予測・分析モデルに最適な変数を設計し、何百とある統計モデルの中から最適なモデルを選択し、それを丁寧にチューニングするという仕事をしていました。

しかし、これからはこの職人の仕事が自動化されていきます。モデルの判別力や基準量といった指標をもとに、アルゴリズムにのっとって機械的に最適な変数が絞り込まれ、最適なモデルが選択されるようになるため、「判別力は少し下がるが、ビジネス的な意味合いではこの変数を使う方が良い」「基準量では劣るが、データの性質上こちらのモデルを使う方が好ましい」といった職人ならではの細かい調整はできなくなるでしょう。

転換期の2つ目の意味は「コモディティ化するAI」です。これまでは素人には手が出せなかったAI/データサイエンスが、誰でも簡単にクラウドで利用できるようになります。ということは、今オフィスソフトやSFAを導入していることが成功の源泉とはならないのと同じように、AIを導入しているだけでは競争優位を得られない時代になる、ということです。オフィスソフトであろうとSFAであろうとAIであろうと、ただ単にデジタルツールを導入するだけでなく、それを活用してどのように価値を創造するかを考えなければならないのです。

B2B営業の将来にAIがどのような影響を与えるか、今後も要チェック!

「AI Experience 2019 Tokyo」をもとに、2019年末時点でのAIの広がりと今後の方向性について、簡単にご紹介してきました。この記事をお読みになって、AI/データサイエンスの日本市場における勢いと、今まさに大きな転換期を迎えようとしているダイナミズムを感じ取っていただけたのでしたら、嬉しく思います。

これからAIはB2B営業の世界にどのように浸透してくるのか。「AIの民主化」はB2B営業にも起こるのか。またB2B購買の方にも起きて「AIによる購買」が主流になるのか。そしてそのときにはどのような営業が必要になるのか。AIがこれからB2B営業の世界に与える影響の全貌は、まだ窺い知ることができませんが決して小さくはないことでしょう。
これからもトライツブログではB2B営業におけるAIの進化・浸透に注目し、継続してレポートしますのでご期待ください。

トライツコンサルティングでは、AIからSFA/MAなどのデジタルツール導入に先駆けた営業組織/営業活動の分析診断から、デジタルツール活用の企画・設計・運用をサポートしています。デジタルツールを使った営業生産性の向上や、営業の効率化にご興味がある方は、ぜひご相談ください。