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営業に限らず、マネージャーやリーダーをやっているとメンバーの行動や考えに対してフィードバックする場面というものが数多く出てきます。しかし、経験した方はよくご存じでしょうがこのフィードバックというのは難しく、失敗してしまうと「上の立場の人がダメ出しをするだけ」や「上からの意見の押し付け」になり、メンバーの仕事がゼロクリアされるだけになったり、ただ上司の考えをメンバーが資料にまとめるための単なる指示出しになってしまいます。

本来は、建設的な議論を引き出して、与える側と受ける側の両方に学びや気づきがもたらされるはずのフィードバックが、往々にして与える側と受ける側の両者にとって有意義な場になっていない、ということが多いのです。

そこで今回のトライツブログでは、「フィードバックを有意義な場にするためのポイント」について考えてみたいと思います。

フィードバックを「相手と一緒に考える場」にする

トライツコンサルティングでも、営業メンバー向けにフィードバックをする場面が頻繁にあります。重要な商談の進め方について話し合ったり、提案書を一緒に作成したり、はたまた営業で使えるスキル研修の課題のブラッシュアップなど、営業メンバーが考えたことや作ったものをさらに良くするためのフィードバックを毎日のようにしています。

このように色々な企業の営業メンバーに対するフィードバックをしていると、だんだんと「相手に受け入れてもらいやすいやり方」や「相手の成長や気付きを促すやり方」が分かってくるものです。そこで、私が気づいたことをポイント形式で紹介していきます。もちろん、唯一絶対の答えではありませんが、参考にしてもらえたらと思います。

私がフィードバックで大事にしているのは、「一緒に考える場にする」ということです。こちらの意見を押し付けるのではなく、ヒントや観点を提供しながら相手と一緒に考えて、より良いアイデアを生み出す場にする。そのために私が気を付けている4つのポイントを紹介していきたいのですが、その前に1つ大前提があります。

大前提:未来への投資として時間を作る

それは、「未来への投資だと思って無理をしてでも時間を作る」ことです。メンバーに対して時間をとってフィードバックするのは、多忙なマネージャーやリーダーにとって確実に負担になります。だからといって、その時間を取らずにササっと自分で手直ししたり、修正箇所のメモを書き込んで資料を差し替えたりするだけでは、いつまでたってもメンバーのスキルは高まらず、同じようなことが発生して同じように対応せざるを得なくなってしまいます。これでは長期的に見て非効率です。

そうではなく、忙しい中でも10分、15分の時間を取ってメンバーにフィードバックする時間を捻出し、メンバーと向き合う。これによって少しずつメンバーのスキルも向上していきますし、マネージャー自身の指導力の向上にもつながります。この「目の前が忙しくても、未来への投資だと思ってフィードバックの時間を作る」という姿勢や覚悟が何よりも重要なのです。このことを踏まえた上で、4つのポイントを1つずつ見ていきましょう。

ポイント1:相手の考えを引き出す

1つ目のポイントは「相手の考えを引き出す」。パッと見て「なにかおかしい」「違うんじゃないの」と思う箇所があっても、すぐにダメ出しをしたりこちらの意見を言うのではなく、その箇所をきっかけにしてフラットなスタンスで会話をスタートするようにしています。「教えてほしいんですが」「よく理解できなかったんですけど」と、気になる箇所について相手が表現しきれていない考えや頭の中にあるアイデアを具体化するお手伝いをするのです。そうすることによって、お互いの認識がズレていたことに気づけたり、単に言葉足らずなだけの良いアイデアを見つけたりと、否定から入ったら得られなかった情報が手に入ることがしばしばあります。

ポイント2:前向きに話す雰囲気を作る

そのように相手の考えを引き出すために大事なのが、2つ目のポイントである「前向きに話す雰囲気を作る」です。もう少し具体的に表現すると、「どういうアウトプット/ゴールを目指すのか」という成功イメージを互いに共有することと、「大事なことをちゃんと理解している」「顧客のことをしっかり考えている」のように相手の優れている部分を認めて口に出し、相手が持っている有能感を損なわないことの2点です。

特に有能感については、相手が自分のことを「分かっていない」「考えが足りない」という風に少しでも思ってしまわないように常に意識をしています。こちらから相手に対して「あなたの考えには価値があるからぜひ教えてほしい」というメッセージを送ることで、身構えずに前向きに自分のアイデアを話し続けてもらえるのです。

ポイント3:思考の過程を共有する

3つ目のポイントは、いきなり結論を話し合うのではなく「フレームワークを使って思考の過程を共有する」です。フィードバックが非生産的になってしまう大きな理由だと私が思っているのが、お互いに結論をぶつけ合うこと。そうではなく、相手がその結論になぜ至ったのかを知るために、またより良い結論に到達するために、思考の枠組みや手順を共有して一緒に考えてみることが大事なのです。

例えば、提案書のストーリーを考えるためのフレームワークとして、顧客の心理状態をどう変化させるのかというフロー図を一緒に作りながらフィードバックするようにしています。また、営業活動の進め方を考えるためのフレームワークとしては、その顧客の購買活動のプロセスをベースに考えています。このように思考の枠組みを共有しながら議論することで、結論の押し付け合いを回避できますし、フィードバックの前に私が想定していた結論よりも良いアイデアになることが多いように思います。

ただ残念なことに、営業のマネージャーやリーダーの中には、このフレームワークを持っていない方が多くいらっしゃいます。また、「ビジネスフレームワーク」という本も多く出版されていますが、ただ本を流し読みするだけでは使いこなすのは難しいかもしれません。いったん自分で本の中にあるフレームワークを使って考えて、結論の導き方を確かめておくということをやってみる。そうすることで、実際にメンバーとそのフレームワークを使ってアイデアを深められるようになるでしょう。

ポイント4:素直になる

そして4つ目のポイントは、「分からないことは素直に分からないと言う」です。一緒にフレームワークを使って考えていても、途中で上手くまとまらなくなるということは起こります。そのようなときは、無理やり自分の結論に話を持っていくのではなく、「分からなくなった」「上手くいかないように感じている」ということを素直に相手に共有するようにしています。すると、大概の場合は相手が良いアイデアやヒントを口に出してくれて、良い結論にたどり着きます。自分が上司だから、リーダーだから、コンサルタントだからと気負わずに、分からなくなったら議論の手綱をメンバーに委ねてみる。これもフィードバックの場を有意義なものにする上で役に立つのです。

普段はじっくりコーチングできないからこそ、フィードバックを有意義な場にしよう

2000年頃からコーチングという手法・スキルがビジネスの場で使用されるようになり、今ではブームの域を超えてすっかり定着しています。このブログをお読みの管理職の方の中にも、リーダー研修や課長研修などでコーチングを習ったという方もいらっしゃることでしょう。

しかし、普段の仕事の中でコーチングの授業で習ったようにじっくりと時間を掛けて傾聴し、相手のゴールや問題を明確にしながら考えさせるというのは、特に多忙な営業現場では難しいものです。そこで、コーチングほどは時間を掛けられないものの相手の成長や気付きを促したいという場面では、今回ご紹介した「有意義なフィードバックのための4つのポイントと1つの大前提」を参考にしてください。

そうすることで、上司やリーダーが自分の考えを押し付けるだけだったり、メンバーが途方に暮れたりするようなフィードバックから脱却できるでしょう。さらに、フィードバックを受ける側にとっても、そして与える側にとっても学びや気付きの多い有意義な場へと変わるはずです。

トライツコンサルティングでは、営業改革プロジェクトや営業向けの研修やワークショップを通じて、営業のマネージャーやメンバーに向けたフィードバックを提供している一方で、フィードバックスキル向上のためのご支援も行っています。「営業マネージャー/リーダーのフィードバック力を高めたい」とお考えの方は、ぜひご相談ください。