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「資料の作り方」に「エクセルの使い方」、「問題解決の考え方」など、ここ数年で「コンサルタントの~~~」という本が多く出版されるようになっています。皆さんの中でも、このような書籍を見かけたことがある人がいらっしゃることでしょう。特にここ10年程度で「コンサルティング営業」という言葉も一般的に使われるようになるなど、今や「コンサルティング」という仕事や、そこで使うスキルはコンサルタントだけのものではなくなってきています。

しかし、具体的にどんなことをしているのかが分かりにくいのも「コンサルティング」という仕事の特徴です。
「これからはコンサルティング営業だ、と言われるけど具体的に何をしたらよいのだろう?」
という方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回のトライツブログは「B2B営業にも活かせるコンサルティングの機能と考え方」について、改めて確認することにしましょう。

コンサルティングの2つのタイプ:コンテンツ・コンサルティングとプロセス・コンサルティング

コンサルタントの役割を一言で言うと、「クライアントに対し、課題の発見・解決を通じてその発展を支援すること」なのですが、根本的な考え方やスタンスの違いによって大きく2つのタイプに分類することができます。

1つ目のタイプが「コンテンツ・コンサルティング」。自らが持つ専門的な知識やノウハウ(コンテンツ)を提供することで、クライアントを支援します。このタイプのコンサルティングは、よく「医師モデル」や「専門家モデル」と言われるように、豊富な知識を使ってクライアントを診断し、適切な解決策を処方するというものです。このタイプですと、コンサルティング終了後にクライアントは解決の処方箋を手に入れているものの、問題を診断・解決するスキルはコンサルタントに残されたままです。

そしてもう1つのタイプが「プロセス・コンサルティング」。これは、クライアント自らが自分の問題を発見し解決策を考えて実践できるようにと、その取組の過程(プロセス)を支援するタイプのコンサルティングです。このタイプは医師や専門家ではなく、「援助者モデル」や「カウンセラー・モデル」とでも言うべきもの。クライアントと一緒にそして対等に問題に取り組みながら、クライアントが自ら問題を解決できるようにスキルを移転していくというのがコンテンツ・コンサルティングとの大きな違いです。

この2つのタイプのコンサルティングは、キレイに分かれるものではありません。コンテンツ・コンサルティングが主体のコンサルタントだとしても、自分たちのコンテンツをクライアントに受け入れてもらうためにプロセス・コンサルティング的に関わることもあるでしょうし、反対にプロセス・コンサルティングが主体のコンサルタントでも、すべてのアイデアをクライアントと一緒に考えるのではなく、議論の呼び水として自分からコンテンツを示すこともあります。このように実際のコンサルティングでは、2つのタイプを上手く使い分けているのです。

コンテンツで勝負したい営業担当者、プロセスに関わって欲しい顧客

私が営業現場で実践支援をしていると、営業担当者から「手ぶらで顧客のところには行けません」という発言を聞くことが少なくありません。顧客が「ハッ」とするようなインパクトのあるコンテンツを持っていき、顧客の気持ちを動かしたい。まさにコンテンツ・コンサルティング的な営業アプローチを取りたいし、そうあるべきだと営業担当者自身が思っています。

しかし、顧客はむしろWebで情報収集をして、情報は持っているので、むしろ「どうやって社内を説得したらよいか一緒に考えてほしい」と思っていることが少なくありません。営業担当者にプロセス・コンサルティング的な役割を求めているのです。

つい最近も、クライアントの営業担当者から顧客との打合せ用の資料について相談を受けたのですが、営業担当者はどうしても自社のソリューションについてのコンテンツをたっぷり持っていきたい。しかし、顧客はまだ真剣に検討する段階ではなく、社内の上司や同僚を巻き込まなくてはいけないので、その巻き込み方を考えるためのプロセス検討ワークシートを持っていきましょうという話をしました。その結果、顧客が一番喜んでくれたのはコンテンツではなく、プロセス検討ワークシートだったのです。

コンテンツを軸に勝負したい営業担当者と、購買の意思決定プロセスにかかわってもらいたい顧客、ここに大きなギャップがあるのですが、なかなかそれに営業担当者自身が気づいていません。営業現場で支援をしていて、そのギャップをどう埋めるか、営業担当者のこだわり、意識を変えるかが大きな課題だと感じています。

というのは最近、Webを軸に購買活動を進める顧客対し、必要なコンテンツを顧客に積極的に提供していこうという「バイヤーイネーブルメント」と呼ばれる考え方が出てきています。このトレンドが浸透すると、コンテンツ・コンサルティングの核となるコンテンツの多くは、今後は人手を介さずにWeb等を通じて顧客からアクセスされるようになってくることでしょう。

そのような世界では、営業におけるコンサルティング機能の主体は、顧客自身に問題とその解決策、商品・サービスを購入するためのストーリーを考えてもらうことの手助けをするプロセス・コンサルティングへと移り、そこが競争優位の源泉になっていくはずです。「コンテンツはWebで見つけ、それを使って検討を進めるプロセスを営業担当者に支援してもらう」というのが、今後の典型的なB2Bの購買の在り方になってくるだろうと思うのです。

プロセス・コンサルティングの基本的な考え方に触れてみよう

そう考えると、今後の営業にとってプロセス・コンサルティングのスキルはとても重要になるのではないかと私は思います。そこで最後に、2002年に出版されたプロセス・コンサルティングの名著「プロセス・コンサルテーション:援助関係を築くこと」から、プロセス・コンサルティングの10の原則をご紹介いたします。普段あまり目にすることのない「プロセス・コンサルティング」の考え方に触れてみてください。

1.常に力になろうとせよ
2.常に目の前の現実との接触を保て
3.自分の無知にアクセスせよ
4.あなたのすることはどれも介入である
5.問題を抱え、解決法を握っているのはクライアントである
6.流れに身を任せよ
7.タイミングが極めて重要である
8.真っ向から対決する介入は建設的であること
9.すべてはデータである。誤りは避けられないが、そこから学習せよ
10.疑わしいときは問題を共有せよ

表現がシンプルすぎてイメージが湧きにくい原則がいくつかあるかもしれませんが、原則のうち1や4、5などは、顧客に寄り添って思考や意思決定を支援しようという、プロセス・コンサルティングの考え方/スタンスがよく分かる項目だと私は思います。このように徹底的に顧客に寄り添い、支援的であろうとするのがプロセス・コンサルティングなのです。

プロセス・コンサルティングを学んで差別化しよう

Webの発展によって顧客は必要な情報を短時間でかつ大量に集められるようになっています。また、B2Cの世界ではAmazonなどのサイトで最適な商品のレコメンド(推奨)からマッチングまでが自動で行われるようになっています。つまり、従来は営業担当者の大事な役割であった「情報(コンテンツ)の提供」「最適な商品・サービスの選定・マッチング」が、営業担当者の手元から離れつつあるのです。

そのような中、顧客が自らの問題と解決策について自ら考えて組織として判断するのをサポートする「意思決定支援」は、これからの営業担当者にとってより重要な役割となってくるでしょうし、他の営業担当者から差別化する切り口の1つとなるはずです。
「コンサルティング営業とは言うけれど、何をしたらよいのか分からない!」
「顧客の購買の意思決定のサポートって、具体的にどういうサポートをしたらいいの?」
という方はぜひ、本稿末尾の参考図書を手に取っていただければと思います。きっと顧客との援助関係づくりの参考になるヒントが見つかることでしょう。

その中で、こんなやり方を自社の営業に取り入れたい!というのがありましたら下記よりお気軽にご相談ください。

参考図書:
「プロセス・コンサルテーション:援助関係を築くこと」(著:E・H・シャイン、訳:稲葉元吉・尾川丈一、白桃書房)
「人を助けるとはどういうことか:本当の「協力関係」をつくる7つの原則」(著:E・H・シャイン、訳:金井壽宏・金井真弓、英治出版)