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前回のトライツブログでは、営業支援システム開発企業のShowpad社である最新調査レポート「The New B2B Buyer Experience」をもとに、最新の顧客の購買の意思決定の仕方と営業に求める期待役割の変化を見てきました。

そのレポートによると、B2B顧客のおよそ3割はオンラインの情報のみで意思決定を行っており、オンラインで得た情報よりも営業担当者からの情報を重要視している顧客は4割未満しかいません。また、営業担当者にはオンライン上に溢れる膨大な量のコンテンツから有用なものを取捨選択し価値ある情報を提供してくれる、課題解決のプロフェッショナルとしての役割を期待しており、それに対応できない営業担当者には存在価値がないという厳しい状況が明らかになりました。

実は、この「The New B2B Buyer Experience」にはまだ続きがあります。
今回のトライツブログでは、前回の調査レポートの続きから、オンラインでの顧客の情報収集の仕方がどのように変化しており、どのようなサイト/ツールをB2B顧客が使うようになっているのか、そしてその変化にどう対応していくべきかを考えていきたいと思います。

オンラインの情報収集はB2Cの買い手にとって便利で効率的に変化

調査レポートの中身に入る前に、B2Cの世界でのオンライン情報収集の仕方の変化について見てみましょう。

インターネットが始まってしばらくの間は、アマゾンや価格コムといったレビューサイトがなかったため、商品名で検索してそれを使用した人のブログ記事などを読むというのが主流だったように思います。しかし、膨大なWebページの中から広告目的でないブログ記事を探して読むのは大変です。そのため、アマゾンのようにユーザーのレビューが1まとまりになったサイトが出てきたときは、その便利さに驚いたものでした。

また、ニュース記事の読み方も最近は変化してきています。以前はYahoo!や新聞社などで画一的な構成の記事を読むことが当たり前でしたが、最近ではGoogleニュースなどで以前に自分が見た記事に関連する記事を優先して表示する機能が使われています。確かに「読みたい」と思える記事が表示されるので、時間がないときなどでは役に立っています。

このように、B2Cの世界ではオンラインでの情報収集を便利で効率的にするためのサービスや機能が、当たり前のように使われており、きっとこの記事をお読みの皆さんもその利便性を享受されていることでしょう。

実はこれと同じような変化がB2Bの世界でも起きていると、調査レポートでは述べているのです。

調査1:顧客が重要視しているオンライン・ピア・レビュー

現在の顧客はオンライン上に溢れる様々な情報を使って、購買の意思決定を行っています。代表的なのがブログ記事やホワイトペーパーなどのコンテンツです。しかし、最近では「オンライン・ピア・レビュー」というサイトがB2B顧客にとっての重要な情報源となっているようなのです。

購買担当者の64%が営業担当者と会う前にオンラインリサーチを実施している

そのうちの59%が、G2CCrowdやCapterraといったオンライン・ピア・レビューを使っている

ここで紹介されているG2CCrowdやCapterraといったオンライン・ピア・レビュー・サイトは、利用者による商品やサービスのレビューだけでなく、各社・各サービスの販促ツールが掲載されていたり、類似サービスの機能比較や、価格帯の比較、満足度のランキングに、競合サービスとのポジショニングマップまで掲載されています。それぞれの商品・サービスを扱っている会社のHPを見ても分からないような、「ホントのところはどうなのよ?」という疑問に答えてくれるサイトなので、確かにかなり役に立ちそうです。

このうち、G2CCrowdは日本企業と組んで10月1日から「ITreview」というオンラインレビュー・プラットフォームサービスを開始しています。まだ始まったばかりなので投稿数は多くはないものの、現在私たちがアマゾンのレビューを参考にして本や家電を買うかどうか決めるのが当たり前になっているように、今後日本のB2B顧客がこれらのサイトを参考にして購買するようになるということは十分ありうるものと思われます。

調査2:顧客が購買の意思決定の迅速化に期待するサービス

オンライン・ピア・レビュー・サイトが急伸しているとはいえ、オンラインでの情報収集の主流はコンテンツです。しかし、前回のトライツブログでも確認したように、ブログ記事やホワイトペーパーにメールマガジンに動画など、日に日に増えていくオンライン・コンテンツに顧客は辟易しており、購買の意思決定が遅れる理由の第2位に「コンテンツ」が挙げられています(第1位は価格)。

そのような背景から、顧客は購買の意思決定をよりスピーディーにするべく新しいビジネスツールに期待を寄せています。「購買の意思決定を迅速化するために、どのようなツールが有効ですか」という問いに対する、回答は以下のとおりです。

1位(45%)はパーソナライズド・コンテンツ・ポータル

2位(44%)はROIシミュレーション・ツール

3位(38%)は拡張現実(AR)

4位(33%)はビデオチャット

1位のパーソナライズド・コンテンツ・ポータルは、最近目にする機会が増えた「セールスイネーブルメント・ツール」と呼ばれるものの一種で、顧客が自分が興味関心を持っているコンテンツを分かりやすくまとめて見られるというものです。オンライン空間にあふれる膨大なコンテンツを自分で探す手間が省けるため、コンテンツ地獄とでも言うべき現状の救世主として期待されています。

また、3位の拡張現実(AR)と4位のビデオチャットは、既存の文字主体のコンテンツよりも視覚的に分かりやすく、直感的に判断しやすいツールとして期待が高まっています。

このように見てみると、B2B顧客はより厳選されたコンテンツを使って、かつ文字情報だけでなく視覚的・直感的に分かりやすいツールを組み合わせて、効率的にオンラインで情報収集しようとしていることが分かります。

B2Bはかつてない「売り手が顧客をコントロールできない世界」に

ここまで、オンライン上のB2B顧客の情報収集の仕方の変化について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
私がこのレポートを読んで感じたのは、買い手にとっては確かに便利になってきているのですが、その反面で「売り手が顧客をコントロールできない世界」へと変わりつつある、ということです。

顧客がオンラインで情報収集しているからと一生懸命コンテンツを作成していても、パーソナライズド・コンテンツ・ポータルで取捨選択されてしまうのでせっかくのコンテンツが顧客に読まれるかは分かりません。さらに、顧客はオンライン・ピア・レビュー・サイトでのクチコミ情報も見て判断するのですが、そこでどのような情報が流れるかは売り手ではコントロールのしようがありません。

これまでのB2B営業の世界は、売り手の方が圧倒的に多くの情報を持っており、顧客にどのように情報提供するかを自由にコントロールできていました。例えば、本当は満足していない顧客が多くても、満足している顧客ばかりのように見せかけることも可能でした。しかし、現在では商品やサービスについての情報は、売り手の手から離れてオンライン上の至るところにあり、顧客が自由に見にいけるようになってきているのです。

「最高の広告は、満足した顧客である」という言葉があります。以前は満足した顧客による広告効果といっても、その範囲は家族や知人といったごく狭いものでしかありませんでした。しかし、これからのB2B営業の世界では、満足した顧客も不満足な顧客もオンラインでつながっている人すべてに影響を及ぼすようになっていきます。

その意味では、売り手が顧客をコントロールできない世界で顧客から選ばれるには、分かりやすく読み手に価値のあるコンテンツを作り、営業担当者は課題解決のプロフェッショナルとして顧客を支援し、満足度の高い商品・サービスを提供するという当たり前のことをキチンとできる組織にならなければならない、ということです。ただ、これは何も目新しい話ではなく、B2Cの世界では何年も前からこれが当たり前になってきています。

「売り手が顧客をコントロールできない世界」をチャンスにできるか

私が高松に帰省するときに必ず寄っているうどん屋があります。そこは昔ながらの薄口の出汁と讃岐うどんにしてはやや柔らかめの麺でとても美味しいのですが、高松駅の裏手にあってあまり目立たず、朝5時から営業を始めて夕方には暖簾をしまってしまうので、地元の人しか食べに来ないようなお店でした。

そんなうどん屋に、最近外国人の観光客がチラホラとやってくるようになりました。店のHPもありませんし「歓迎光臨」というような外国人向けの幟も何も出していないのですが、どうやら外国からの旅行客の方たちがGoogleマップでその味を称賛するクチコミを多数投稿しているようで、お店としては何の広告も出さずにただ美味しいうどんを出しているだけで、新しい客が次々にやってくるという状態になっています。

「売り手が顧客をコントロールできない世界」は、そのように良い商品・サービスを提供し続けることができていれば、広告宣伝に大枚をはたかなくても客が集まってくる世界でもあります。B2Cでは既に起きているこの変化が、B2Bでも起きようとしているということは、決してリスクだけではなく、良い商品・サービスを提供している企業にとってはむしろチャンスになるのではないでしょうか。

参考:「The New B2B Buyer Experience」(Showpad, Sep, 2018)