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前回のトライツブログでは、顧客から情報があまり聞けていないにも関わらず、営業が自分たちで勝手に想定した仮説で提案してしまう「想定仮説依存症」という問題について取り上げました。そして、この「想定仮説依存症」の克服法は、顧客と話をしながら一緒に提案書を作りあげていくことでした。
これを簡単に言うと、「何を提案するか」ではなく、「どう提案するか」ということ。同じ商品・サービスを提案するのであっても、その提案の仕方で相手の印象は大きく変わりますし、そこにこだわることが今の顧客のニーズに合っているのです。
今回のトライツブログでは、この「どう提案するか」にさらにフォーカスを当て、今の顧客の購買プロセスに合った提案の仕方について考えてみたいと思います。
これまで主流だったアウトプット型提案
みなさん、これまで提案について考える際、基本的には顧客から聞いた話に合わせて「何を提案するか」を考えてこられたのではないでしょうか。顧客からのインプットに対し、何をアウトプットとして提案するかを考えるということです。そしてそのために必要な「提案書」を作成して提案に臨む。これまで当たり前のように行われてきたこのスタイルを「アウトプット型提案」とします。
このスタイルはその提案の内容が顧客のニーズにピッタリと合えば、満足されますし、一発で目の前の相手に「うん」と言ってもらうこともできるでしょう。多少いろいろあっても、上手く説得できればその場は上手く収めることができます。
しかし、最近の営業では、顧客の意思決定構造が複雑になり、商品・サービスを買ってもらうためには多くの人を説得しなければなりません。そのために、こちらが出した提案書を使って、その提案を受けた顧客の担当者が社内の意思決定権者やその他の関係者に説明して回ることも少なくないのです。
また、ソリューション提案などという言葉が出てきた結果、提案書の構成も複雑になっています。以前は、提案する商品・サービスの概要と使い方に見積程度の情報で提案書を作れていたのですが、最近では顧客の課題を整理して、その課題の解決策として提案する商品・サービスを紐付けるようになり、以前の提案書と比べてボリュームが増えてきています。
このように内容が複雑になり分厚くなった提案書を、顧客の担当者が社内で上手に説明するのは決して簡単なことではありません。そのため、顧客と面談してから1か月後にドーンと分厚い提案書を出し、後は顧客に「よろしくご検討ください」というようなアウトプット型提案では上手くいかないことも多くなってきているのです。
アウトプット型提案だけでは今の顧客は動かせない
意思決定構造の変化以外にも、アウトプット型提案が難しくなってきている顧客の変化として、顧客の購買活動の変化というものがあります。現在の顧客はインターネットを活用して情報武装していますので、それを覆そうと営業担当者が説得するのは難しいですし、もし商談の場では説得できたとしても、その後で情報収集することで次に会うときには宗旨替えしてしまっていることもあります。
つまり、昔よりも顧客は提案書というアウトプットだけでは説得されにくくなっているのです。もっと言えば顧客の購買の意思決定を営業がコントロールできなくなってきています。そのため、「提案書」というアウトプットに依存したスタイルの提案のやり方だけでは今の顧客を動かせないことが増えてきているのです。
最近登場してきたプロセス型提案
このような状況への対策として2つの動きが出てきています。1つは、意思決定権者に直接提案しようとする動きで、もう1つは顧客と課題解決のプロセスを共に歩んで、一緒に提案書の内容を作り上げていくという動きです。この後者を、提案を作るという「プロセス」そのものも含めて提案していくということで、「プロセス型提案」と呼ぶことにします。
これは例えば、顧客と面談を開始してから、1週間ごとに少しずつ「課題の整理」「解決策の列挙と優先順位付け」「解決策のカスタマイズ」といったものを顧客と一緒に作り上げていくというものです。このようにしてできた提案書の中身に対する顧客の担当者の理解度、納得度はアウトプット型提案よりも明らかに高くなります。何度も面談する必要があり、手間がかかりますが、顧客が自分の問題として考え、自ら意思を持って動くようになることも大きなメリットです。従って、顧客の状況などを踏まえて、「アウトプット型提案」と「プロセス型提案」を上手く使い分けられるようになるのが理想だと考えます。
なぜプロセス型提案をやろうとしないのか
しかしながら、アウトプット型提案にこだわる営業組織もまだ多くみられます。そのような組織で共通しているのは、「ビシッと提案して顧客を説得するのが営業の仕事だ」というアウトプット型提案が華やかなりし頃の考え方がまだ残っているということ。そのため、提案が上手くいかないのは提案書(アウトプット)の出来が悪いからだと考えて、さらに提案書が分厚くなったり手の込んだものになっていくという悪循環に陥ってしまいがちです。
ここで大事なのは、いったんアウトプットから目を離して、意思決定構造や購買活動などの様々な顧客の変化に目を向けること。そうすれば、おのずとアウトプット頼みの営業のやり方だけでなく、課題解決のプロセスを顧客と一緒に歩んでいくやり方を身に付ける必要性に気が付くはずです。
プロセス型提案のポイントは「分割・積み上げ」
ここまで述べてきたプロセス型提案ですが、「具体的にはどうするの?」とお思いの方もいらっしゃることでしょう。もちろん、提案する商品・サービスやそれによって解決する顧客の課題の種類によって細かい内容は異なってきますが、共通して言えるのは「顧客の課題解決の工程を分割して積み上げる」ということです。
世の中には「課題解決」についての書籍がたくさん出版されていますし、課題解決研修を会社で受講されたという方もいらっしゃるかも知れません。そのような書籍や研修でよく言われる、現状分析→課題設定→解決策立案→評価選定→実行、というプロセスを顧客と一緒に打合せしながら進めていき、その経緯をアウトプットとして提案書に積み上げていく、というのがプロセス型提案のポイントです。
営業としての腕の見せ所が変わってきた
このようにアウトプット型提案主流の営業から、アウトプット型提案とプロセス型提案を顧客に合わせて使い分けていく営業への変化に応じて、営業としての腕の見せ所も変わってきています。アウトプット型提案が主流の頃のできる営業と言えば「目の前の相手を説得する」スキルが高いことを表していましたが、これからの営業はそれだけでは足りません。プロセス型提案に必要な「顧客と共に作る」というスキルも必要になってきています。
と言うことは、営業の育成の仕方も変える必要があります。これまでのアウトプット型提案向けの応酬話法中心の営業教育では不十分。このようにアウトプット型提案だけの営業のやり方から、プロセス型提案を含んだ営業のやり方への変化というものは、単に提案書の作り方だけに止まらず営業担当者の育成のあり方までに影響を与える大きな変化なのです。