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TVのクイズ番組にゲームやスマホの脳トレアプリに新聞のクロスワードパズルなど、私たちの周りには「解けた!」「分かった!」という達成感やアハ体験を味わうためのものがたくさんあります。私も子どものころは多湖輝教授の「頭の体操シリーズ」が大好きでしたし、今でもクイズ番組があればつい見てしまうので、きっと無意識のうちに体がアハ体験を求めてしまっているのだと思います。

今回のトライツブログでは、前回のトライツブログに引き続き「B2B営業におけるアハ体験の重要性」について考えたいと思います。顧客がアハ体験をしているとき、顧客の内部でどのようなことが起きているのか、一緒に見ていきましょう。

現在の顧客が求めているのはインサイトでありアハ体験だ

前回のトライツブログ「ソリューション営業はもうオシマイ?インサイト営業とその本質とは」でご紹介した、「インサイト営業」。Webなどを使って簡単に膨大な情報にアクセスできるようになった現在の顧客が求めているのは、自分たちのビジネスを深く理解した上での専門家としての価値ある情報(インサイト)だというものでした。そして、インサイト営業の本質は、顧客がそのインサイトを受け取ったときの「そうだったのか!」「面白い!」というひらめきや気付き、つまり「アハ体験」にあるということを見てきました。

このアハ体験は、瞬間的に理解をもたらし、物事の見え方が変わってしまう体験のことを指します。リンゴが落ちるのを見て重力という概念を思いついたニュートンや、自分が湯船に入ったときにお湯が溢れる様子を見て王冠の体積の測り方をひらめいて街に裸で飛び出したアルキメデスなどは、「アハ体験」の例として有名です。皆さんも学生時代に、数学の難しい問題の解法がひらめいたときや、小説を読んでいて犯人や物語の真相が分かったときなど、これまでにいくつもアハ体験をしてきたことでしょう。

「アハ体験と営業」と言うのはあまり目にすることのない珍しい組み合わせですが、まったく前例がないという訳ではありません。瞬間的な理解や気付き、ひらめきの重要性を別の言葉で述べている人も少数ではありますがいます。

アハ体験の類似キーワード①「明確性」

その中でも有名なのが、米国のビジネス書籍の作家であるダニエル・ピンク氏です。「フリーエージェント社会の到来」や「ハイ・コンセプト『新しいこと』を考え出す人の時代」などの本をお読みになった人も多いことでしょう。このダニエル・ピンク氏の近著「人を動かす、新たな3原則」(講談社、2013)の中にある「明確性(Clarity)」は、アハ体験に通じるものがあると思っています。

明確性とは、見えていなかった様相を明らかにして、置かれた状況を理解できるようにする能力で、それまで存在に気付かなかった問題を突き止める能力のことだ。
優れたセールスパーソンは問題解決に長けた人だと、長年にわたりいわれてきた。見込み客のニーズを見積もり、窮状を分析し、最善の解決策を打ち出す。このような問題解決能力は今でも重要だ。しかし、特定の人だけではなく誰もが情報を入手できる現代社会では、その能力の重要性は以前よりも低い。
(中略)
一方で、本当の問題を取り違えているとき、はっきり把握していないとき、あるいは皆目見当がつかないときに、他者の助けは大いに役立つ。そのようなとき、人の心を動かすために重要なのは、他人の問題を”解決“する能力よりも、問題を”発見“する能力なのである。

アハ体験の類似キーワード②「リフレーミング」

また、コーチングが広まったことで、傾聴などコーチングに特有の技法が営業の中にも広がってきています。そのようなコーチング由来の技法の1つに「リフレーミング」というものがあります。これは顧客が持っている思考の枠組みを転換することで、問題解決を容易にしようとするものです。机の上に卵を立てろと言われて皆が困っていたところ、「誰もタマゴをつぶしてはいけない」とは言っていないことに気が付いた「コロンブスの卵」などは、リフレーミングの好例です。

このリフレーミングは、アハ体験ほどは驚きといった要素を重要視していないものの、物事の見方を変えるという意味では、似ていると言えるでしょう。

このように、一見すると違和感のある「アハ体験と営業」ですが、実はそれに近いことを述べている人は少数ですがいます。そう考えると、「営業にアハ体験が重要である」というのはまったく荒唐無稽な説ではないと思っているのです。

アハ体験を引き起こすドーパミン

では、この「アハ体験」が起きているとき、私たちにはどのようなことが起きているのでしょうか。アハ体験が起きているとき、脳内には快感や多幸感、意欲を感じたり作ったりする神経伝達物質のドーパミンが放出されています。ドーパミンが出ることで、脳内の学習回路が強化され、目の前で起こっていることが記憶されやすくなるとともに、気分が高まりやる気が出るようになると言われています。

ということは、インサイト営業のように商談の中でアハ体験を起こすことができれば、その営業担当者のことや提案内容のことを鮮明に記憶するだけでなく好ましく思うようになり、次のアポイントが取りやすくなることが期待できます。このようにドーパミンの働きによって顧客との信頼関係を深め、より前向きに商談を進められる、というのがアハ体験が営業に効くメカニズムなのです。

ドーパミンが出やすい顧客と出にくい顧客

アハ体験に大きく関係するドーパミンですが、それが出やすい人と出にくい人というものがあります。一般的にドーパミンは加齢により分泌量が減少する傾向がありますので、若い人ほどドーパミンが多く出ます。また、ストレスを感じている人や不規則な生活を送っている人も分泌しにくくなるので、健康的な生活を送っている人の方が出やすくなります。また、脳内麻薬物質とも言われるように、ドーパミンは一度出るとさらにそれを求めるようになり分泌もしやすくなる傾向がありますので、普段から新しい刺激を受けたり達成感を感じられる仕事をしている人ほどドーパミンが出やすく、変化のない生活をしている人は出にくい傾向があるようです。

以上をまとめると、若々しくて新しい経験に積極的で健康的な生活を送っている人が顧客の場合は、インサイト営業などによるアハ体験が起こしやすく、かつより効果的だと言えるでしょう。もちろん、アハ体験が起こるためには、自社の課題について本気で考えていることが大前提になりますので、その上でのお話しではありますが。

生理学的にも営業を科学しよう

前回のトライツブログから継続して取り上げてきた「営業におけるアハ体験」。
相手にそれを感じてもらうために何をするか・・・という視点でこれからの営業を考えてみると、今までとは違う発想につながるのではないでしょうか。

顧客に気付きやひらめきを与えて、ものの見方や考え方を変えて迅速に問題解決をもたらすアハ体験。それは脳内で分泌されるドーパミンの働きを通じて、営業担当者自身や提案の内容が顧客から好まれ信頼されるようになるという生理学的なメカニズムに裏付けられているものでした。

今回、アハ体験に焦点を当てたことでドーパミンが営業活動に与える影響を知ることができましたが、それ以外にも営業活動で起こっていることを説明できる生理学的なメカニズムがあるのかも知れません。今後もトライツブログでは、そのような観点でも営業のあり方を科学していきたいと思いますので、引き続きお読みいただければと思います。

トライツコンサルティングでは今回のアハ体験以外の切り口でも、営業やマーケティングを科学しております。その内容は定期的にセミナーでご紹介していますし、個別企業向けセミナーや勉強会でもお伝えしておりますので、「営業について科学的に考えてみたい」という方は、下記よりお気軽にお問い合わせください。