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まったく同じ文字で読み方も同じなのに複数のことを表す言葉を多義語と言うそうです。子どものころに「勉強しまっせ♪」というCMが流れていましたが、そこで使われていた「勉強」の意味が分からなくて親に聞いたことを覚えています。

中学高校の古文で習った「あはれ」や「をかし」などは多義語の好例でしょうし、最近の(?)若者言葉の「ヤバい」も、「かっこいい」「美味しい」「すごい」「気持ち悪い」など色んな様子を表すのに使われている一種の多義語だと言えるのかもしれません。

同じ言葉なのに表すものが違う多義語は、実は営業の世界にも存在します。今回のトライツブログでは、営業の世界の典型的な多義語である「提案」という言葉について考えてみたいと思います。

1つの言葉に色々な意図を含められる「提案」

最近、ある営業組織の営業活動の実態を分析するという仕事がありました。営業担当者に個別インタビューを行い、毎回の顧客訪問の際にどのような営業活動をしたのかを「ヒアリング」や「提案」「見積提示」などのリストから選んでもらい、一つひとつの商談を時系列で整理してみたところ、1つの商談の中で何回も「提案」が実施されていたのです。

ある商談を例に見てみると、初回訪問の後の2回目の訪問時に最初の提案がありました。その後、顧客の課題や要望をヒアリングしてから次の提案、見積を出してフォロー訪問した後に3度目の提案と、2か月ほどの商談の中で3回提案していたのです。幸いなことにこの商談では営業担当者が訪問内容をノートに細かくメモしていましたので、それぞれの提案で実際にやっていたことが具体的に分かるようになっていました。それを見てみると、最初の提案は事例の紹介で興味付けするため、2つ目の提案はヒアリングした課題への解決策の認識を合わせるため、そして3つ目の提案は社内稟議を通すため、とそれぞれの「提案」で意図していたことが異なっていたことが分かりました。同じ「提案」でも実際にやっていたことやその意図は別々のものだったのです。

このように場面によって意図が異なることのある「提案」は、ある意味ではとても使い勝手の良い言葉であると言えます。ただ、色々な意図で使えるからこそ、その意図を意識していないと正しく商談の状況を共有したりマネジメントしたりできなくなってしまう、という弊害もあるように思います。
意図を意識せずに「提案」という言葉だけでマネジメントしようとするとどのようなことが起きるのか、2つの例で見てみましょう。

「提案」をマネジメントすることの危うさ

1つ目の例は、マネジメント指標に「提案件数」を用いる場合です。
私がこれまでに見てきた営業組織では、営業活動のプロセスマネジメントとして「提案件数」を指標としている組織が多くありました。しかし、件数を集計する際にはそれぞれの提案がどのような意図だったのかということは無視されていることがほとんどです。多くの組織では興味付けのための提案と、商談終盤の社内稟議を通すための資料提出が同じ「提案」として一律で集計されてしまっているのです。

2つ目の例は、「提案」を使って一つひとつの商談進捗をマネジメントする場合です。
商談を進める上で「提案」が大事なのは当然のことでしょう。その際に、意図ではなく「提案」という行為そのものをマネジメントしようとすると、「提案したかどうか」「見積提示などの次の行為に進めそうかどうか」という観点からチェックすることになります。しかし、本当にチェックしなければいけないのは意図していたこと、例えば「自社商品に興味を持ってもらう」「課題の解決策について合意を得る」「これなら社内稟議が通せそうだと顧客が思う」ということができたかどうかなのではないでしょうか。

このように見てみると、「提案」という1つの言葉に込められている意図のバリエーションの多さと、それを混同してマネジメントしてしまうことの危うさがよく分かります。使い慣れている「提案」という行為名でマネジメントするのではなく、その意図を明らかにしてその意図に対してマネジメントすることが大事なのです。

「提案」以外にもある!営業における多義語

営業の世界において、1つの言葉でも複数の意図を含む多義語は他にもあります。例えば「見積提示」もその1つです。商談の最初のころに顧客の予算感や本気度を確かめるための見積提示もあれば、本提案の際に予算確保してもらうための見積提示もありますし、顧客の稟議を通すために売上年度や費目を工夫した見積提示もあります。「見積提示」も「提案」と同じように色々な意図を含んでいるのに、マネジメントする際にはその大事な意図がどこかに行ってしまいがちなのです。

提案に「意図」を含めて表現し直してみよう

さまざまな意図を含んでいる「提案」ですが、その意図を明示・区別しないでマネジメントされていることが多いように思われます。しかし、意図が明示・区別されていないままだと、色々な「提案」がごちゃ混ぜになってしまい適切にマネジメントできなくなってしまいます。その意味で「提案」は営業では頻出ワードですが、同時に要注意ワードでもあると言えるでしょう。

それでは、「提案」という行為だけでマネジメントしてしまうことを避けるために、何をすればよいのでしょうか。

その1つの手段として、「提案」という言葉を「興味付け提案」や「解決策合意提案」や「稟議決裁用提案」など、それぞれの提案活動でやろうとしていた「意図」が明確になるように表現に直してみてはいかがでしょう。きっと営業活動の実態が明確になり、より商談内容に沿ったマネジメントやアドバイスができるようになると思います。