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映画『関ヶ原』が公開初週の週末の興行収入ランキングで初登場一位になったそうです。歴史小説好きの私は、『官兵衛』で歴史ドラマにどっぷりとはまった長男と一緒に、公開2日目の朝一番の上映を観てきました。SNSでも話題になっているようですので、皆さんの中にもご覧になっている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

私が映画を観て一番印象的だったのが、圧倒的な説得力と惹き込まれる世界観でした。もちろん「そうでもなかった」「分かりにくかった」と思われた人もいらっしゃるでしょうが、私にとってこれだけインパクトのある映画は最近ありませんでした。それぐらいに印象的な映画だったと思います。

さて、今回のトライツブログでは映画『関ヶ原』をもとに、相手に伝える際のリアリティの重要さについて考えてみましょう。

『関ヶ原』の何が人を惹き付けるのか?

私が映画を観て受けた、圧倒的な説得力と惹き込まれる世界観。これを一言で表すと「リアリティ」だと思います。

人物像の描き方など好き嫌いが分かれるところだとは思いますが、原作が司馬遼太郎だということによるストーリーの分厚さと、実力ある俳優が多数配されたことがリアリティの源泉であることは間違いないでしょう。しかし、それ以外にも『関ヶ原』では、至るところにリアリティを追求するための工夫が施されているように感じました。

ナレーションによる解説を極力抑え、登場人物のやり取りの中でストーリーを伝える。合戦のシーンなど感情がほとばしる場面では、多少聞き取りにくくなっても感情を前面に出して叫ばせる。同じく、多少分かりにくくなっても諸国大名の方言を字幕なしで普通の会話のスピードで喋らせる。今では使わないような漢語表現や仏教用語であっても、ほとんど置き換えずにそのまま話す。ざっと思い出しただけでもこれだけの工夫がされていたために、エンターテイメントでありながらもリアルな世界観を構築できていたように思います。

そのようにリアリティを追求しているがために、かなり分かりにくく不親切な映画でもあります。秀吉の晩年から関ヶ原までの濃密な年月を2時間半の中に収めているので仕方のないことではありますが、歴史的な事実についての説明や解説は最小限になっているので、戦国時代に興味のない人にとってストーリーはチンプンカンプンでしょう。合戦のシーンなどではうまく聞き取れない箇所がいくつもありましたし、中学一年生の子供には理解できない用語や方言がずいぶんあったようです。

しかし、それでもその長男はストーリーのかなりの部分を正しく理解していましたし、なにより「すごく面白かった」と言うのです。手加減せずにリアリティを徹底的に追求することで、たとえ100%は理解されなくても観た人を強く惹き込む作品になったのだと思います。

リアリティが分かりやすさの犠牲になっている?

B2B営業やマーケティングでも、相手に自社の商品やサービスを伝えて、活用するイメージを持ってもらうという場面があります。事例紹介資料や、動作デモに説明動画。最近は営業一人一人が持出用のノートパソコンやタブレットを持つのが当たり前になってきていますので、客先で動画を見せるという場面も増えてきているのではないでしょうか。

そのようなデモや動画資料はどのような観点で作成されているでしょうか。「短く、簡潔で、説明は丁寧に、分かりやすく」という観点がほとんどでしょう。私も展示会やセミナーに足を運ぶことが多いので、さまざまなデモや動画、プレゼンテーションを見ています。短く簡潔にまとまっていて、デザインも洗練されたものが増えてきており、クオリティは全般的に高くなっているのでしょうが、何か味気ないように感じていました。「出来は昔よりも良くなっているはずなのに、なぜ面白く見られないのだろうか?」

その違和感の正体が「リアリティ」だったのだと思うのです。相手が退屈しないように短くまとめる、言葉は分かりやすく専門用語を使わない、無駄な要素が入ることでゴチャゴチャした感じを与えないようにシンプルに。そのような工夫の結果、「分かりやすいのだけど、味気ない」デモや動画、プレゼンテーションが増えてきているように思います。

これは何もすべて映画『関ヶ原』のように、早口で専門用語や方言を交えて滑舌は気にせずに話そうとか、解説を減らそうなどと言っているわけではありません。相手に自社の商品・サービスの利用イメージを持っていただくためには、分かりやすさは最低限の条件として必要です。そうではなく、「分かりやすさを追求するために、リアリティが犠牲になっていないか」という観点でもデモや動画資料、プレゼンテーションを見てはどうかということです。

無機質な会議室やスタジオのような利用シーンではなく、実際に顧客が使う場所によく似た利用シーン。分かりやすく一般的な言葉での説明ではなく、業界独自の用語を織り交ぜての説明。分かりやすさ一辺倒でなく、リアリティも併せて追求することでもっと面白い展示会やセミナー、プレゼンテーションが増えるのではないか。そのようなことを映画館からの帰り道で考えていました。

リアリティもって伝えるために、リアルを熟知する

ただ、そのようなことをしようとするには、リアルを熟知するということが求められます。『関ヶ原』の原作者である司馬遼太郎は、1つの作品を書き上げるのに大量の資料を集めることで有名で、新しい作品を手掛けようとするときには神保町の古書店という古書店から本がなくなった、という大げさな逸話が残っているほどです。

そこまではさすがに無理ですが、営業や営業企画・営業推進などは顧客が自社の商品をどのように使っており、どのように感じているかの「リアル」をもっと集める必要があるでしょう。顧客が使っているシーンを再現でき、顧客の言葉でメリットやデメリットを語れる。そのようになることで、分かりやすくかつリアリティをもって相手に伝えられるようになるのだと思います。

分かりやすさ一辺倒でなく、リアリティを追求することで圧倒的な説得力と相手を惹き付ける力が出てくる。そのリアリティを自分たちの商品・サービスで伝えるためのヒントが、映画『関ヶ原』にはあると思います。もちろん純粋に歴史エンターテイメントとして観るのも良いですが、そのような視点から見ても面白い作品だと思いますので、まだご覧になっていない方はぜひご覧になってみてください。

今回のトライツブログでお伝えした「リアリティ」は営業ツールやセミナーなど、顧客に商品・サービスとその利用イメージを伝える上で不可欠のポイントです。トライツコンサルティングでは、リアリティをいかに営業ツールやセミナー等のイベントに反映するか、という観点で現場力強化を支援しています。「営業ツールの説得力を高めたい」「セミナーでもっとインパクトもって伝えたい」という方は、お気軽にご相談ください。