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日本発、アジア発の思想・考え方が欧米で評価されて再輸入される、ということがあります。数年前にはスライドの作り方に禅の考え方を取り入れた「プレゼンテーション zen」という本が大ヒットになりましたし、ここ最近ではアメリカのビジネスマンの間で瞑想がブームになっているようです。
このように最近ビジネスで再評価されてきている「禅」。今回のトライツブログでは、B2B営業でも活かせる禅の考え方についてご紹介したいと思います。
B2B営業の参考になる?禅の展示品「十牛図」
つい先日まで東京・上野の国立博物館で特別展示会「禅―心をかたちに―」が開催されていました。人混みを避けて平日の夜に行ってきたのですが、大変な来場者数でした。このニュースをお読みの方の中にも、足を運ばれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
書に画、仏像に貴重な磁器など、京都を中心とした日本中の禅宗の名刹から国宝や重要文化財をこれでもか!と集めた、見どころの多い展示会でした。数々ある展示品の中で大変面白かったのが、室町時代の京都・相国寺の画僧・天章周文が描いた「十牛図巻」でした。
これは横長の巻物で、悟りを開くまでのプロセスを10のシーンに分けて描いたものです。タイトルに「牛」という字が入っているのは、人(現在の自分)が牛(理想とする自分、本当の自分)を探し求め、見つけ、それを飼い馴らしていく(自分のものにする)という様子を描くことで、悟りに至るプロセスを表現しているからです。
なぜ絵が空白?空白が意味するものとは
理想とする自分や本当の自分が「牛」というのもなんだか不思議ですが、この十牛図にはもっと不思議なところがあります。それは8つ目のシーン。このシーンでは人も牛も出てきません。もっと言うと、それまでのどの絵にも必ず描かれていた背景すらありません。なんと、8つ目のシーンはまったくの空白で、ただ丸い縁取りがされているだけなのです。
難解な言い回しのことを「禅問答のようだ」などと言いますが、この8つ目の空白のシーンもまさに禅問答だと言えるでしょう。この空白のシーンが何を意味しているのかというと、「理想とする自分とそれを探し求めていた自分というそのような区別は、そもそもなかったのだ。もともと1つの同じものだったのだ」ということだそうです。そのような仮の像に今まで囚われていたことが分かった、だから空白なのです。
そして、9つ目のシーンでは人も牛もなく、ただ自然の風景のみが描かれています。つまり、理想とする自分にもそれを探していた自分もなく、本当にあるのはただ自然なありのままのものだけなのだ、ということなのです。
B2B営業での「売り手」と「買い手」その区別は本当に必要か?
私はこの十牛図を見て、特に8つ目の空白のシーンを見て「これって、B2B営業でも同じことなのではないか?」と思いました。営業では、当たり前ですが「売り手」と「買い手」がいます。しかし、この2つの区別は絶対的なものではなく、本当はそのような区別などないのではないか?などと思うのです。
皆さんも顧客と商談をしていて、ついつい時間が経つのを忘れてしまったということがあると思います。話がはずみ、色々なアイデアが出て、まるで相手と仲間になったかのような楽しい商談をした、という経験がおありでしょう。トライツとしてクライアントの営業担当者と営業同行するときにも、そのようなシチュエーションに遭遇することがあります。博物館の中で十牛図を眺めていて、そのような情景が頭の中でふと再現されたのです。
そのときの様子を思い返してみると、そこには「売り込んでやろう」とたくらむ売り手も、「売りつけられてたまるか、じっくり吟味してやろう」と待ち構える買い手もいません。より良いものをつくるために、顧客の儲けを増やすために、一緒に力を合わせアイデアを出し合う仲間だけがいるのです。そして、顧客とこのような関係を作ることができた商談は、ほぼ間違いなく受注につながっています。何より、このような商談の方が担当されている営業担当者が楽しそうにされています。
このように見てみると、B2B営業での「売り手」と「買い手」という区別は、商品やサービスを評価・選定するためには必要なものの、そのような垣根を取り払った「仲間」という関係・存在が一番自然なのではないかと思えてくるのです。
売り手と買い手という垣根を取り払い、同じ目標に取り組む仲間になろう
この「売り手と買い手という垣根を取り払う」という考え方。実は、トライツのコンサルティングの中にも色濃く反映されています。商談の進め方を設計するときや、営業ツールを企画するとき、できるかぎり顧客と一緒になって何かを作り上げるようなプロセスやツールを取り入れようとしています。
例えば、製品メーカーに素材メーカーが営業するとき、顧客の既存商品への課題や新商品の要望をヒアリングする、ということがよくあります。それもただ口頭で話を聞くだけではなく、顧客の既存商品をマーケティングのフレームに沿って一緒に整理してみる。そのためのツールや手順を開発したりしています。そうすることで、より自然に売り手と買い手という垣根が消えていき、一緒に新商品開発や既存商品の改良に取り組む仲間という関係になりやすくなるのです。
このような自分と相手の垣根を取り払うこと、正確に言うならば自分と相手は本来は一つの同じ存在だという考え方は、仏教・禅では「自他一如」と言います。それをB2B営業へアレンジして、トライツでは「Crossover(横断的)」と呼んでいます。営業と顧客という区別を取り払って、1つのことに一緒に取り組む仲間としての関係を作ろう、というものです。
営業のヒントはビジネスの世界以外にもあふれている!
今回はB2B営業にも活かせる「禅」の考え方をご紹介いたしましたが、B2B営業の参考になるのはなにも禅に限りません。禅のような思想・哲学、趣味でやっているゴルフや釣り、麻雀などでも、ビジネスに置き換えてみると色々なヒントが得られるのではないでしょうか。
たまにはビジネス書やビジネス雑誌から離れて、自分の趣味の世界に仕事のヒントを尋ねてみる。そんなことをしてみてはいかがでしょうか。