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先日、日立製作所が2018年をめどに営業人員を増やし、従来の機器・設備販売からコンサルティング型営業に転換する、というニュースが発表されました(5月19日, 日本経済新聞 朝刊)。

日立製作所に限らず、B2B営業を中心にコンサルティング型営業という考え方・手法が広まってきています。今回のトライツブログでは、組織でコンサルティング型営業に取り組む上での問題点について考えてみましょう。

コンサルティング型営業とは?

そもそもコンサルティング型の営業とはどういうものでしょうか。「経営コンサルティング 第4版」(編著:国際労働事務局, 生産性出版, 2004)では、コンサルティングの定義として「クライアントの組織に対して問題の発見を助力し、その分析、問題解決策の提言、さらに要請があれば解決策の実施助力を行う」と記載されています。

ザックリ言うならば、これを営業の場面で実施するのがコンサルティング型の営業だということになります。新聞記事でも、上記のコンサルティングの定義と非常に類似した表現で、日立が目指すコンサルティング型営業について記されていました。

コンサルティング型の営業では交通やエネルギー、金融、製造業などの世界の顧客企業に対し、経営課題を提示。戦略立案や新規事業の展開を助言し、生産設備の稼働率引き上げやビルの省エネ管理などの具体策も提案する。

そして、この解決策の中にAI(人工知能)やビッグデータ解析などの先端技術を駆使したコンサルティング型サービスを充実させ、売上全体におけるサービス収入の比率を高めようというのが狙いです。つまり、単純に営業のやり方だけを見直そうという話ではなく、提供するサービスの主軸も変えていくことで他社と差別化しようとしているのです。

魅力的なコンサルティング型営業、しかし・・・

熾烈な競争環境にあるB2B企業において、価格や品質などのモノだけの勝負から脱却し、サービスと組み合わせることで付加価値を高め、案件の規模も拡大するというコンサルティング型の営業は大変魅力的な施策です。そのため、これまで多くの企業からコンサルティング型営業への転換に挑戦されたというお話を伺ってきました。もちろん、成功されている企業もありますが、なかなか上手くいかない、営業組織への定着で苦労している、という企業も多くあるように思います。

組織が物販型営業からコンサルティング型営業へ転換するときに、なにが問題になるのでしょうか。2つの代表的な問題を以下ご紹介します。もしかしたら、皆さんにも心当たりのあるお話かもしれません。

問題1:長期化・複雑化する商談に耐えられない

コンサルティング型営業の特徴として付加価値・案件規模が大きくなる、と先ほど述べました。しかし、それだけではありません。

コンサルティング型営業の場合、顧客と一緒に課題を探索しその解決策をデザインする、というプロセスが発生しますので、どうしても商談が長期化します。また、案件規模が大きくなると、今までは期中予算で買ってもらえていたものが、来期の予算取りをしないと買ってもらえなくなったりします。つまり、商談規模の拡大にともなって商談が長期化する傾向があるのです。

また、顧客に合わせて解決策(商品・サービス)を選定する中で、それぞれの商品・サービスをそのまま売るのではなくカスタマイズする必要が出てくることもあります。また、複数の商品・サービスを組み合わせて納入するということも出てきますので、どうしても提供するものが複雑になってきて、営業・技術の両方への負荷が大きくなります。

このような商談規模の拡大、商談の長期化、商談の複雑化といったコンサルティング型営業の副産物に組織が耐えられるかどうかが、1つのポイントとなるのです。

最初から商談の長期化や複雑化を見越して予算計画や人員計画を作っていればよいのですが、どうしても「最初に想定していたよりも、受注までの期間が長くなり、手間もかかっている」ということになってしまいがちです。そのようなときに、耐えきれなくなって「今期中に売り切れる商材にシフトしよう」「短期受注型の営業のやり方に戻そう」などとしてしまうと、あっという間にみんなで取り組んでいたコンサルティング型営業が形骸化してしまいます。「やっぱり、成果が出ないんだ」「うちの会社には無理だったんだ」となってしまうのです。

問題2:メンバーの認識の相違

2つめの問題は、そもそも何がコンサルティング型営業なのか、についてのメンバーの認識の相違が出てくることです。

一生懸命コンサルティング型営業に取り組んでいるメンバーにとって、すぐ隣に今までのやり方で楽に営業しているメンバーがいるのは腹立たしいものです。そこでつい「あの人の営業はコンサルティング型じゃない!」などと言う話になってしまいます。

しかし、反対にその営業メンバーは「コンサルティング型と言っても営業は営業。売れないんだったら、コンサルごっこでしかない」と、コンサルティング型の営業手法に熱を上げる営業メンバーのことを見ていたりもします。

また、このような認識の相違は、評価制度にまで飛び火することもあります。コンサルティング型営業に真剣に取り組んでいるメンバーからすると、これまで通り売上や予算達成率だけで評価されると今までのやり方で営業しているメンバーと差がなくなってしまって面白くありません。そこで、「売上や予算達成率だけじゃなくて、顧客の課題解決度合を評価してほしい」などという話になったりするのです。

このように、「何が自社のコンサルティング型営業なのか」が不明確であったり、徹底されていなかったりすることで、営業チーム内部で余計な対立やエネルギーの消耗が起きてしまうことがあります。これは、営業メンバー同士の競争が激しいチームで特に起こりやすい現象です。

浸透・定着には営業トップ・マネージャーの覚悟が不可欠

これらの問題を防ぐためになにが重要なのか、それは「営業トップ・営業マネージャーの覚悟」ではないでしょうか。

長期化・複雑化する商談期間を耐えながらコンサルティング型営業という旗を降ろさずに、メンバーを鼓舞しつづけること。また、なにが自社のコンサルティング型営業でなにがそうではないのか、についてしつこくメンバーと話をし続けること。これらを徹底する覚悟が何よりも大事なのだと思われるのです。

ある企業でコンサルティング型営業への転換を体験された営業トップから、「営業のやり方を変えるのは、砂浜に文字を書くようなもの」という話を聞いたことがあります。「『コンサルティング型営業をやるぞ』『ウチのこれからの営業のやり方はこうだ』ということを自分ではしっかり伝えたつもりでも、砂浜の文字が波や風で薄くなるように時間が経つとメンバーの意識から消えてしまう。だから、つねに言い続けるくらいじゃないと浸透・定着しないのです。」

付加価値高く魅力的なコンサルティング型営業。しかし、それに向けて営業のやり方を転換するためには、新しい営業手法やコンサルティングマインドといったスキル・姿勢の習得だけではなく、チームを率いる営業トップ・営業マネージャーに何があってもコンサルティング型営業を死守するのだという強い覚悟が必要なのです。

営業の現場力を高めたいという場合、多くの企業にとってそのために必要な打ち手は「コンサルティング営業への転換」です。トライツコンサルティングでは多くのクライアント企業と、それぞれの企業に合わせたコンサルティング営業の設計と実践を支援してきました。「自社もコンサルティング営業に取り組みたい」という方は、お気軽にお問合せください。より具体的なヒントを差し上げられると思います。