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先日、世間から「営業が強い」と言われている大企業で、「営業マネジメントのノウハウを集めてドキュメント化する」プロジェクトを実施しました。

今回のトライツブログでは、その企業(以下、X社と呼びます)の営業マネジメントの特徴とそれを生み出している制約条件から、営業マネジメントを強くするための逆転の発想について考えてみたいと思います。

X社の営業マネジメントの3つの特徴

まず、X社で際立った成果を出している営業マネージャー(以下、トップマネージャーと呼びます)に見られる、営業マネジメントの3つの特徴を見てみましょう。

特徴1:「何をするか」が伝わる指示力

1つ目の特徴は、指示力です。

X社のトップマネージャーは共通して、営業プランを部下に伝えるときに部下の一人ひとりがどの時期に、どこの客に行って、どんな商品を提案するのか、行動レベルまでプランを明確かつシンプルにして伝えていました。

最初にこの特徴について聞いたとき、「ここまで細かく指示されると、営業担当者のヤル気がなくなってしまうのではないか」と感じました。しかし、現場の営業担当者からは、「以前は結局なにを営業したらいいのかが分からなかった」「営業計画に納得した上で営業活動できるようになった」と、まったく別の声が聞こえてきたのです。

特徴2:短期間かつ高速に回るマネジメントサイクル

2つ目の特徴は、マネジメントサイクルのスピードです。

私が知っている企業では、「営業会議は月に1回」というところが多いのですが、X社ではベテラン営業には1週間ごとに、新人・若手営業には毎日「プラン立案」→「営業活動」→「進捗確認」→「プラン見直し」→・・・というサイクルを回しているのです。

そのため、営業がタイムリーに動けなかったり、問題が発生した時に迅速に問題解決や軌道修正ができるようになっているのです。

特徴3:過去の出来事ではなく今後の行動がマネジメントの対象

3つ目の特徴は、今後の行動をマネジメントする、ということです。

よくある営業会議の風景を思い出していただきたいのですが、そこで議論されていることの多くは過去の出来事に焦点が当てられています。

ところが、X社の営業会議では過去の出来事についてはほとんど時間をかけません。会議の中でマネージャーが担当者に聞くのは、主に
「目標と現状のGAPは何?」
「これからどうするの?」
の2つだけです。つまり、もう今さら変えることのできない過去の出来事について重箱の隅をつつくようなことはせず、今後の行動をしっかりと話し合う、という癖付けがされているのです。

当たり前だけど実現できない、理想的な営業マネジメント

これらの特徴は一般的なビジネス書にも書かれている内容であり、特段目新しいものではありません。しかし、当たり前だと思われることですが、実現できている営業組織はほとんどないというのが実態だと思われます。実際に、メンバーに細かく指示を出そうとしたり、マネジメントサイクルのスピードを上げようとしたり、過去の出来事について詮索しないようにしたりするのは、営業マネージャーにとっては大変な負荷がかかるもの。そのため、理想的ではあるものの現実ではなかなか実現できない、ということになっているのです。

それでは、X社のトップマネージャー達はなぜこの理想的な営業マネジメントを実現できているのでしょうか。

X社の営業マネジメント力の源泉は制約条件にあり

ここで改めて、トップマネージャー達のマネジメントの仕方を調べると、一つの際立った制約条件が見つかりました。それは「営業会議の場を頻繁かつ短時間に実施している」というものです。私がこれまでに見てきた法人営業チームの営業会議は、1カ月に1度、1~2時間程度というのが主流でした。しかし、X社のトップマネージャーが率いるチームは、1週間おきに10~15分の営業会議をやるようにしていました。ダラダラと時間をかけて会議するのではなく、10分なら10分と時間を限って、それを1週間ごとという頻度で実施する。このような制約条件をあえて設けていたのです。

この制約条件があることで、X社のトップマネージャー達は
✔ 短時間でメンバーに伝わる明確な指示
✔ スピード感のある営業活動
✔ 結果報告に時間をかけない打合せの場
という先ほど紹介した3つの特徴的な行動を半ば自然に実行していました。「マネジメントの頻度と1回あたりの時間」という制約条件によって、トップマネージャー達は営業会議やその準備のための場での頭の使い方や時間の使い方を、自然と工夫するようになったのです。

この制約条件は、以前の営業マネージャーから現在の営業マネージャーに引き継がれ、さらにそれが「いい営業会議のやり方がある」という噂になって社内の一部に自然に広まっていたものでした。それがプロジェクトの中で、X社の営業マネジメント強化のノウハウとしてスポットライトを当てられ、全社のマネージャーに展開されるようになったのです。

逆転の発想!時間という制約条件が営業マネージャーを変える

一般に、営業マネジメントのやり方を変えようとしても、なかなかうまくいかないものです。営業マネージャーにはこれまでの経験・やり方が染みついていますし、メンバーも今までのやり方に慣れているので、何か新しいやり方や手法を導入しようとしても、ついつい慣れ親しんだ過去のやり方に戻ってしまいます。

X社の事例でユニークなところは、まず「やり方や手法を変えよう」というところからアプローチしていないところです。時間という絶対的な制約条件を設けることで、営業マネージャーがどうすれば良いかを自分で考える。その結果として、営業マネージャーの時間と頭の使い方が変わっていく。この一連のアプローチが改めて新鮮だと感じました。そして、このようなアプローチが自然に社内に広がっていく企業体質も、X社の強みになっています。

営業マネジメントの頻度・時間については、ついつい「必要なことを話し合うのに必要な時間をたっぷり取って、ただしメンバーの負担にならないように会議の回数は1つにまとめて」と考えてしまいがちです。そのような傾向とは正反対である「一回の会議は短く、ただし会議は頻繁に」という逆転の発想が、営業マネジメント見直しの1つのヒントになるのではないかと思います。

自社の営業マネジメントを見直してみたいとお考えの方はぜひご相談ください。トライツコンサルティングではSFAのデータ活用サポートや現場での会議改革までいろいろな実績があります。