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スマートフォンの予測変換に慣れてしまい、いざ手で書こうとすると、簡単な漢字が出てこない。誰もが一度は経験があるのではないでしょうか。便利な道具に任せた力は、気づかないうちに自分から抜けていきます。 

今、同じことが営業の顧客接点で起きています。 

顧客は「あなたに会う前」にAIへ相談を済ませている 

海外の営業ポッドキャストを聞いていると、最近こんな指摘が増えています。AIはCRM(顧客管理システム)の整備やリサーチといった社内業務にこそ使うべきで、顧客へのフォローメールや提案資料まで汎用的に生成させては意味がない、というものです。 

背景にあるのは、顧客側の変化です。顧客はもう、営業に会う前に自分でAIへたっぷり相談しています。課題の整理も、選択肢の比較も、提案の素案づくりも、AIで一通り終えているのです。 

そこへ営業が、AIの答えを丸写ししただけのメールや資料を持っていったら、どうなるか。顧客は一瞬で「それなら自分でAIに聞けばわかる」と見抜きます。 

行き過ぎた自動化は、いずれ顧客から無視されます。しかし問題は、それよりさらに手前で起きています。顧客から無視される前に、そもそも営業自身の価値が失われてしまうのです。 

もっと根深いのは、営業自身の「地力の空洞化」 

予測変換の話に戻ります。変換に頼り続けると、文字を「読めるけれど書けない」状態になります。同じ変化が営業にも起こります。AIが書いたフォローや提案を「細かい手直しはできるものの、自分の言葉ではゼロから書けない」のです。 

営業を専門に研究する英国のフィリップ・スクワイア氏は、この点を鋭く指摘しています。AIで楽をするほど、営業自身のプロとしての水準はかえって下がっていく、と。 

氏は、編集もされないまま量産されるAIの生成物(海外では”AIスロップ”=垂れ流しと呼ばれます)が、営業の大事な能力を殺すと言います。相手に合わせて自分で考え、自分の言葉で組み立てる――その力こそ営業の地力(じりき)です。 

丸投げを続けるほど、この地力は静かに空洞化していきます。一度には気づきません。気づいた時には、AIなしでは何も作れない営業になっています。 

AIに渡すのは「作業」、渡してはいけないのは「思考と接点」 

では、AIを使うなという話かというと、まったく逆です。問題は、どこで線を引くかということにあります。 

AIに任せるべきは「作業」です。情報収集、データ入力、議事録の要約、社内向け資料のたたき台。こうした社内の手間は、どんどんAIに肩代わりさせればいい。 

逆に任せてはいけないのが「思考」と「顧客接点」です。相手の言葉にならない意図を察し、この人に何をどう伝えるかを自分で決める。この「察する力」こそ、営業の中核です。 

スクワイア氏の言葉を借りれば、これからの差別化は「知的な真正さ(intellectual authenticity:IA)とAIの掛け算」です。AIか人間かの二択ではありません。AIのアウトプットに、自分の頭で考えた何を加えるのか。顧客が求めているのは、その両方なのです。 

地力のある営業は、AIの使いどころを見極める 

最後に、現場ですぐ試せるヒントを二つ挙げます。 

ひとつ目は、顧客に送る文章を、AIの丸写しにしてしまわないこと。 

AIの役割は、検討テーマの壁打ちや、誤字脱字・論理矛盾のチェックに限ります。メールの文章を書くときでも、AIが書いただけの、社名を変えれば他の顧客にも送れてしまうような内容のままではいけません。例えばフォローメールなら、以下のようにその顧客独自の情報を必ず加えるようにしましょう。 

  • NG(AIの丸写し):
    「本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました。
     今後、検討が進む中でご不明な点や、追加で必要な情報がございましたら、いつでもお気軽にお申し付けください。
     引き続き、何卒よろしくお願い申し上げます。」 
  • 改善(自分の言葉(太字)を加筆する):
    「本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました。
     本日お伺しました”既存システムとの兼ね合い”が、御社で一番の論点になりそうだと感じました。
     次回はそこを先に解消する材料をお持ちします。
     またこれ以外にも、ご不明な点や追加で必要な情報がございましたら、いつでもお気軽にお申し付けください。
     引き続き、何卒よろしくお願い申し上げます。」 

ふたつ目は、AIで空いた時間を、別の事務作業ではなく顧客との対話や現場の観察に再投資すること。空いた時間の使い道を先に決めておくのが肝心です。 

AIに明け渡していいのは作業であって、思考と顧客接点ではありません。そこを手放した汎用的な営業担当者から、まず置き換えられていきます。地力のある営業は、AI自分の代替とするのでなく、自分の思考を高めるための補助ツールとして、使いどころを明確に見極めるのだと思うのです。 

参考:『Intellectual Authenticity & AI: How To Achieve The Sales Mindset Buyers Demand In 2026 With Philip Squire』(Mark Cox, The Selling Well Podcast, June 2, 2026)

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