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先日、久しぶりにSalesforceの「フロー(Flow)」機能を使って、自動化の仕組みを作成する機会がありました。 

かつて同じような作業をしていた時は、やりたいことのキーワードをGoogle検索し、Salesforce公式の難解なヘルプドキュメントや、誰かが書いている技術ブログを読み漁りながら、試行錯誤して作業を進めていました。 

しかし、今回は違いました。生成AIという強力なパートナーがいたからです。 

この体験を通じて、私は単なる業務効率化の枠を超えた、これからの企業組織における「人とAIの関わり方」、そして「イノベーションの源泉」について、深く考えさせられることになりました。 

優秀なコーチが横にいる感覚 

今回の開発体験は衝撃的でした。AIに「こんなことをやりたいんだけど」と自然言語で入力するだけで、驚くほど具体的な作業手順が返ってきます。 

作業途中でエラーが出れば、「こんなエラーが出ている」とそのままコピペして投げかける。すると即座に、「その原因はこれです。こう修正してください」と対策が提示されます。まるで、Salesforceを知り尽くした極めて優秀なコーチが、ずっと横に座って手取り足取り教えてくれているような感覚です。 

作業効率が劇的に上がったのは言うまでもありません。しかし、それ以上に感心したのは、AIが単なる辞書代わりではないという点です。 

「これをやる上では、この設定にした方が良い」「この方法はパフォーマンスが落ちるからやらない方が良い」といった、ベストプラクティスに基づいた技術的な提案までしてくれるのです。 

また、エラーについて相談した際、「そのエラーが出る原因の9割は〇〇が原因です」と言い切られた時は、思わず笑ってしまいました。「何を根拠に9割? そんな統計データ本当にあるの?」とツッコミを入れたくなりましたが、実際にその通りに直すと動くのですから、認めざるを得ません。 

「ソリューション」ではなく「課題」こそが鍵 

この体験の初期段階で、私は「AIの現在地」をこう解釈していました。 

「AIは解決策(How)は教えてくれるが、何をしたいかというアイデア(What)までは出してくれない」 

例えば、「商談情報のメンテナンスをした後に、その情報を使って日報を自動作成したい」というアイデアさえ人間が出せば、それを実現する方法はAIが完璧にサポートしてくれる。つまり、アイデア出しは人間の領域だと。 

しかし、さらに使い込んでいくうちに、その認識も少し古いことに気づきました。 

試しに、具体的な機能要件ではなく、現在の「困りごと」をそのまま相談してみたのです。 

「Salesforceで、取引先に複数の商談が発生するビジネスのマネジメントをしています。取引先を訪問したら、商談情報をメンテナンスし、新規商談があれば登録し、最後にその活動情報をテキストで入力して、営業日報として上司に報告するという流れで運用していますが、いろいろな画面を開かねばならず、面倒です。何か良い解決策はありますか?」 

するとAIは、私の漠然とした悩みに対して、フロー機能を活用した具体的な画面遷移や自動化の構成案を提案してくれました。 

つまり、「これができたら便利だな」という具体的なアイデアまで落ちていなくても、「現状が面倒だ」「何とかならないか」という問題意識さえあれば、AIは解決策を提示してくれるのです。 

「情シスへの依頼」が過去のものになる日 

これまでは、現場で何かシステム的な改善をしようとすれば、気が遠くなるようなプロセスが必要でした。 

情報システム部門に相談し、要件定義書を書き、ベンダーと打ち合わせをし、見積もりをもらって稟議を書き、予算承認を待つ…。 

しかし今や、CMで「業務アプリをシュッシュッと作れる」とPRしているKintoneの世界観が、AIを相談相手にすることで、あらゆるプラットフォームで実現可能な世の中になりつつあります。 

「ここが不便だ」とAIに投げかけ、返ってきた手順通りにいじってみる。それだけで、あっという間に欲しかった機能が手に入る。これは、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)のスピード感を根本から変える変化です。 

しかし、ここで一つの大きな疑問、あるいは懸念が浮かび上がります。 

「技術的なハードルがここまで下がったのに、なぜ世の中の業務は劇的に効率化されないのか?」 

AIには解決できない「我慢強すぎる」人々 

世の中には、驚くほど面倒な作業であっても、それをひたすら黙々と続けることができる人が数多く存在します。 

例えば、毎月膨大な時間をかけてExcelのデータを手作業でコピペし、報告用の資料を作成する業務。関数やマクロ、あるいはBIツールを使えば一瞬で終わる作業でも、彼らはそれを調べようとはしません。あるいは、「面倒だな」とは思いつつも、「仕事とはこういうものだ」と受け入れてしまっています。 

これは、どれだけAIが進化しても解決できない問題です。 

AIは「これ、面倒ですよね? 改善しましょうか?」と勝手に声をかけてはくれません。人間側が「面倒だ、やりたくない」と強く思い、それを相談しない限り、AIの能力は発動しないのです。 

多くのビジネスパーソンは、非効率な作業であっても、それを我慢して続けることで給料をもらっています。むしろ、その「苦労」に対価が支払われているとさえ感じている節があります。そうである以上、わざわざ新しいことを学んで改善しようという動機は生まれません。 

よく「AIが人間の仕事を奪う」と言われますが、正確ではありません。「誰かがAIに代替させようと意図しない限り、人間の仕事(たとえそれが無意味な単純作業であっても)は永遠に続く」のです。 

「必要は発明の母」を再定義する 

“Necessity is the mother of invention”(必要は発明の母) 

エジソンの言葉として有名ですが、この言葉がこれほど重みを持つ時代はありません。ここでの「必要(Necessity)」とは、単に必要な状態というだけでなく、不便や不自由な状況を打開したいという切実な欲求を指します。 

アプリ開発環境が民主化され、AIという強力なコーチが誰の横にもいる今、「発明」や「解決」のコストは限りなくゼロに近づいています。 

ボトルネックは「技術」や「予算」ではありません。「現状の不便さに対して、おかしいと声を上げる感性」と「それを変えようとする姿勢」です。 

「言い出しっぺが損をする」風土を変えられるか 

しかし、組織には難しい問題があります。 

「ここを改善しましょう」と提案した人が、その改善作業を任され、通常業務に加えて新たな負担を背負い込む。「言い出しっぺが損をする」構造です。これでは、誰も「必要」を感じていても口には出しません。 

AIを使えば、これまで専門家しかできなかったことが、誰でもできるようになりました。しかし、それを活かすには、不便や非効率を「我慢強い美徳」として称えるのではなく、「解決すべき課題」として捉え直すマインドセットの転換が必要です。 

面倒なことを「面倒だ」と正しく叫ぶこと。そして、それをAIという相談相手にぶつけてみること。 

これからの時代、生産性を分けるのは、高度なプログラミングスキルではなく、このシンプルな「健全なわがままさ」なのかもしれません。 

Salesforceの画面に向かいながら、AIの指示通りにサクサクとフローが組み上がっていく様子を見て、私は改めて「技術」以上に大切な「人間の意志」の重要性を痛感したのです。