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B2B営業における課題解決提案では、いきなり商品やサービスを前面に押し出すのはご法度です。たとえば「若手営業担当者の営業力を高めたい」という課題に対して、ただちに「当社のソリューション営業ベーシック研修」といった商品を提示するのは拙速。そうではなく、「ソリューション営業の基本プロセスを学び、自社の成功事例を題材としたグループワークで試行錯誤する」といった解決の仕方をまず具体化し、顧客と合意する。そのうえで、最適な商品として研修を紹介するのが本筋です。
しかし「商品をいきなり売り込まない」という姿勢は、従来のように機能や実績を強調して営業してきた人にとってなじみにくく、課題解決提案への移行において最大のハードルとなっています。そこで今回は、この基本でありながらやろうとすると難しい「プランを先に売る」考え方について解説します。営業活動の改善の参考にしてください。
表紙もタイトルも品がないのにAmazon高評価? 謎の営業本から学べること
「解決のプランを先に売る」という考え方は課題解決提案の大前提ですが、この点を明快に解説している営業本は意外に少ないのが実情です。そんな中、ある一冊が目に留まりました。その本のタイトルはかなり刺激的で、ここでの紹介をためらうほど。和訳すると『あなたから買いたいと顧客に懇願させろ:見ず知らずの相手に売り込む前に「買いたい」と思わせる5つのプリセールスの秘訣』。タイトルも表紙デザインも正直に言ってセンスがなく、普段なら絶対に手に取らないタイプの本です。

ところが、Amazonでの評価は驚くほど高く、発売1年あまりで127件のレビュー、平均4.7点という数字を叩き出しています。好奇心から手に取ってみたところ、見かけとは裏腹に中身はきわめて実践的で優れた営業本だったので、ご紹介しようと考えた次第です。
プリセールスの意味と「5つのP」
本書では、セールスを「商品やソリューションの提案・見積」と定義し、それ以前の活動――顧客課題の把握やヒアリング、デモ、方向性の確認など――を「プリセールス」と呼んでいます。著者サーゴ氏は、このプリセールス段階で顧客に伝えるべき要素として「5つのP」を挙げています。
- Present Pain(現在の痛み・課題)
- Personality(個性:どのように顧客を支援するか)
- Philosophy(哲学:課題や解決に対する独自の視点)
- Plan(課題解決のプラン)
- Price(価格)
特筆すべきは「個性」や「哲学」といった、従来の営業書ではあまり触れられない、営業担当者がもつ人間性や大事にしている考え方といったものを顧客に伝えようとしていることです。日本の営業においても、「営業とは自分を買ってもらうことだ」などと従来から言われてきましたが、それに通じるでしょう。そして「現在の痛み」は、単に課題を指摘するだけでなく、解決後の理想像と対比させて「地獄と天国」を描き、強いコントラストを生み出すことが重要だとされています。
彼らが今抱えている現在の痛みは何なのか?
それは彼らにどのような影響を与えているのか?
私たちが提案することをすれば、彼らの人生はどう変わるのか?
最も注目を集めるタイトルやフレーズは、最初から天国と地獄を作り出す。「現在の痛み」で示すべきは、単に現在の痛みだけではない。現在の痛み(地獄)と、その痛みが解決された状況(天国)を対比することによって、コントラストと文脈を作り出さなければならない。
この「現在の痛み」=「地獄」と、「痛みが解決された状態」=「天国」の対比を明確にするというのも、営業における大事なポイントですね。
5つのPの中でも最重要な「課題解決のプラン」
実はここまでのところは皆さんそれなりに意識できていることがほとんどです。しかし、なかなか壁を越えることができない。その原因は5つのPの中でサーゴ氏が最も強調する「課題解決のプラン」にあります。本の中で顧客がプランを欲しいと言うまでは決して商品を売ってはいけない、と繰り返し説かれています。
成約率を最も高く上げるために、商品・サービスの前に顧客に売り込む必要があるのは、あなたのプランだ。あなたのソリューションが彼らの問題をどのように解決するのかだ。(中略)
私は商品の話をほとんどしない。顧客が抱えている問題と、その問題を解決するためのプランについてばかり話している。(中略)
5つのPのうち1つしか使えないとしたらどうする?
その答えはプランだ!
最後にこれだけは覚えておいてほしい。
顧客がプランを欲しいと言うまでは、決して商品を売ってはいけない!
この「課題解決のプラン」がどういうものかについて、もう少しだけ詳しく補足します。
「課題解決のプラン」がどのようなものか理解しよう
冒頭で、「若手営業担当者の営業力を高めたい」という課題を持つ顧客に対して、「ソリューション営業ベーシック研修」という商品をいきなり提案してはいけない、という話をしました。顧客にとってこの課題を解決するために選びうるプランは複数あります。「営業マネージャー向けにOJTやコーチングの研修を行って、マネージャーがメンバーを育成できるようにする」というのも1つです。また、「汎用的で精度の高い提案ツールを作成してそれを使わせる」というプランもあり得ます。他にも、「若手営業向けにソリューション営業のノウハウを小刻みにEラーニング形式で配信するマイクロラーニング型学習」というプランもあり得ます。
従って、自社の研修メニューを提案する前に、マネージャー育成や提案ツール、Eラーニングなど多岐にわたる解決の仕方の中から、営業担当者向けの集合研修というプランが一番だと顧客に理解してもらわなければなりません。
そして集合研修の中身を具体化していきます。
「課題解決型営業の基本フレームワークを研修で伝えることで、営業部門内の共通言語にしましょう」
「営業マネージャーにもオブザーバーで入っていただくことで、担当者が学んで使おうとする考え方をマネージャーにも理解してもらいましょう」
「これまで実績のあるフレームワークをお教えしますが、実践で活用しやすくするために御社の実際の成功事例を使ってワークを作りましょう」
「営業現場に戻っても使ってもらえるように、要点がまとまったカードを終了時に配付しましょう」
このように顧客の課題を解決するためのプランを具体的に描いて示し、これらについて顧客から「それをやりたい!」と言ってもらう。これが「プランを売る」ということなのです。
課題解決型の営業の経験を積んだ方にとっては当たり前のことですが、商品・サービスを提案する前に、課題解決の仕方/プランについて顧客と話し、具体化し、それを商品・サービスのチューニング部分として反映させる。「課題解決型の営業に取り組んでいるものの、どうも受注率が低い」「商品・サービスの売込に終始してしまう」という方はぜひ参考にしてください。
これからも見かけに惑わされずに役立つ情報をお届けしていきます
英語の有名な慣用句で「Don‘t judge a book by its cover」というものがあります。「人は見かけによらない」という意味なのですが、今回ご紹介したようにタイトルや表紙が下品で怪しかったのに中身が素晴らしい、という文字通りのことがあるものだと驚かされました。今回ご紹介した本はKindle版で比較的安価に、かつペーパーバック版と比較して周りの目を気にすることなく読むことができます。英語が苦手ではない方は、ぜひお試しください。
これからもトライツブログでは、できる限り偏見が入らないように国内/海外の営業本や調査レポート、ポッドキャスト番組などから皆様のお役に立つ情報を収集し、わかりやすくご紹介していきます。ぜひ引き続きお楽しみください。
参考:「Make ‘Em Beg to Buy from You: 5 Preselling Secrets to Take Even Complete Strangers from Cold to Sold Before You Ever Make an Offer」(Travis Sago, May 28, 2024)