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「SFAを導入したのになかなかうまく活用できない」という声をよく聞きます。
SFAとはご存じのようにSales Force Automationのことですが、これはそもそも事務処理プロセスの自動化を目指したOA(Office Automation)のように、営業プロセスの自動化を目指し、名付けられたものです。ちなみにOAでは「せっかく導入したOA機器が活用できない」などという声は聞きません。
なぜSFAは「うまく活用できない」となってしまうのでしょうか。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というドイツの総裁ビスマルクの格言があります。今回は30年以上に渡り、営業とマーケティングのIT活用に取り組んできました私がSFAの歴史を振り返り、この難しい問題を改めて考えてみたいと思います。
SFA黎明期は電子版の「営業日報」から
SFAという概念とそれに伴うシステムが日本にやってきたのは今から30年近く前の1995年頃です。シーベル・システムズのシーベルというシステムがその代表格でした。
1997年にその代表のトーマス・M・シーベル氏の「バーチャル・セリング 営業の情報武装革命」という本が東洋経済新報社から発刊され、注目されました。実は私は米国のカンファレンスでこのシーベルさんの講演を聞くことがあったのですが、そこで「Homework first, Technology second」と言っていたのを良く覚えています。
当時からSFAを導入したものの上手くいかないと悩む声は多く、それに対して、しくみづくりや教育など営業改革に必要な「宿題」を最初にやった上で、テクノロジーの導入を考えなさいということを話しておられたと思います。
ちなみに私が日経文庫から「営業革新システムの実際」を出したのはその1年後になります。私もその本で顧客の優先順位付けとか、営業プロセスの整理などの重要性を解説していました。
しかし、当時は営業をロジカルに整理したり、情報を活用して生産性を向上させるという考え方がなく、「とりあえず」と営業日報を電子化させるという方向性で取り組む企業が多かったように思います。SFAの実情は営業担当者が入力したテキストを中心とした「電子日報システム」であり、現在よりもPCに不慣れな人が多い中で、「どう入力させるか」が課題になっていたように思います。
ただ苦労して入力しても、履歴管理など以外に大きなメリットはなかったのが実際のところでした。
入力しやすい、使いやすい「営業マネジメント支援システム」に
2002年に「やっぱり変だよ 日本の営業」が発売され、ベストセラーになりました。宋文洲さんという、ソフトブレーン社を設立し、eセールスマネージャというSFAシステムを作った人の書かれた本です。
営業によくある問題点を指摘しながら、自社のSFAを紹介するという内容でしたが、この本をきっかけにして沢山の企業でこのシステムの導入が進みました。
また、NIコンサルティングのSFAも当時は多くの企業で導入されたと思います。どちらも営業担当者がPCと携帯を持ち歩き、どこでも仕事ができるというのが当たり前になる中で、営業が使うシステムとしてOffice系のソフトと共にスタンダードになっていきました。
当時は営業現場の声に合わせ、「いかに入力が簡単か」「いかに使いやすいか」「いかに自社に合っているか」が導入にあたってのポイントになっていたように思います。従ってどこの会社もそれぞれの企業に合ったカスタマイズをすることが前提になっていました。
当時はMAとの連携などということもなく、営業現場のマネジメントに特化した機能をそれぞれの現場で追及していくという流れで、SFAはプロセスやKPIなどの数字を軸にした「営業マネジメント支援システム」であったと言えます。
以前からExcelなどでしっかりマネジメントをしていた組織にとっては直接的なメリットがあったのですが、SFAを導入することでマネジメントを改革しよう!と考えたところでは、なかなか入力の壁を越えることができなかったように思います。
SalesforceというプラットフォームがDXの流れで急拡大
そんな中でSaaSとして出てきたのがSalesforceです。顧客のクラウドへの移行に合わせ、急拡大し、あっという間に業界をリードする立場に上り詰めました。
彼らは自分達の営業のノウハウの全てをつぎ込んだものがSalesforceというシステムであり、これを導入することで成功への近道を手に入れることができるとアピールします。ホテルを貸し切り、有名企業のトップや著名人をゲストに派手なイベントを行って、「一緒に成功しましょう!」と働きかけてくるのは彼らの得意のやり方です。
そこではMAを活用した組織的なデジタルマーケティングと連携した新しい営業がプレゼンされるので、それに向けた営業DXとして、まずはSalesforceを導入しよう!となるようですね。
システムの完成度はとても高く、教育環境も充実しているので、社内にスタッフを置けばその人にプログラミングの専門知識がなくても、自社に合わせて柔軟かつ安価、迅速にカスタマイズしていくことが可能になりました。
ちなみにSalesforceは様々なシステムと連携することができる営業プラットフォームで、世界中の先進企業のいろんな工夫に対応することができる機能を持っています。個々に見ていけば気になることがいろいろあっても、現時点では最強と言えるでしょう。
やっとオートメーションができるようになってきた
このようにSFAの歴史を振り返ってみると、概念先行で技術的にはまだまだだった黎明期では「電子営業日報システム」だったものが、「営業マネジメント支援システム」になり・・・Salesforceという何でもござれのプラットフォームが出てきて現在に至るということになります。
ここまで来て、MAやAIなどと連携させて営業活動の一部を担う、本来の「営業プロセスの自動化」と目指したSFAを構築できる可能性が見えてきたと言えるでしょう。
ただ、このプラットフォームというものが実は曲者だったりします。あくまでも基盤でしかないので、それを使って「どんな営業をするか」というのはそれぞれが考えなければなりませんし、それに合わせて星の数ほどバリエーションのあるパラメータを設定し、必要に応じてアプリケーションを組み合わせる必要があります。
それに対し日本企業の多くは従来の「営業マネジメント支援システム」の延長としてSalesforceを捉えることがほとんど。画面の見せ方や操作方法に「癖」があり、それに馴染まない現場からは「以前のものの方が使いやすい」などという声が聞かれることも少なくありません。これでは世の中の進化を活かせていないことになってしまいます。
30年間の試行錯誤が今のSFAに反映されている
30年以上前のビジネスウィーク誌にSFAについてこんなことが書かれていました。
多くの自立している営業マンは、こうしたツールを自分達の首に巻かれた“首輪”だとみなおしており、お金を稼ぐ助けをしてくれるツールだとは思っていない。実に多くの営業マンが、経営の誤った方向性、うわべだけのSFA計画に振り回され、その犠牲になっている。
これを読んで、「今と同じじゃないか」と思われた方、少なくないと思います。しかし、世の中は30年前から変わっていない!ではなく、当時これに気づいた企業はここからスタートして、お金を稼ぐ助けをしてくれるツールとなるようチャレンジを続け、その結果出てきたのが今の営業プラットフォームとその上で動くアプリケーション群だと思います。
以前は技術的な制限も多く、理想を掲げてもできることには限界がありましたが、技術の進歩と30年に及ぶ営業現場での試行錯誤の結果、様々なコンセプトやそれに伴うツールが開発されてきているのは、本ブログでもいろいろご紹介してきましたので皆さんご存じだと思います。
SFAはOA機器のようにわかりやすく自動化ができるツールではありません。それが故に失敗を重ね、いろんな工夫がされてきたということなのです。
もう一度、原点に立ち戻り、どう稼ぎを増やすかを考えよう
しかしながら「SFAの活用が上手くいかなくて悩んでいる」という企業で、私が詳しくお話を伺うと、自社の現場の声という狭い世界の情報を中心に事を進めようとしているな、と思うことが少なくありません。現場には既存のシステムに関する改善要望はありますが、世の中の先進事例を学んだ上での「次はこうしたい!」という意思はないのに・・・です。
例えばSFAを導入する≒商談管理・・・となっていることが多いですが、本当に商談のプロセス管理をしっかりやれば稼ぎが増えるのかについては???だったりします。それよりも自社のユーザー管理をちゃんとやった方が稼ぎが増えるのに・・・と思うこともあります。
大事なことは、SFAはあくまでも営業活動の一部を自動化し、生産性を向上させるツールであるという基本に立ち返り、先人の工夫を学んだ上で、自分達はこのツールをどう使って稼ぎを増やすのか?をそれぞれが突き詰めて考え、実現させることです。
ちなみに本ブログを書くにあたり、改めて歴史を振り返ってみましたが、私自身30年も携わってきましたので、もしかしたら歴史の語り部としての役割もあるかも・・・などと感じました。