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展示会やセミナーの来場者へのフォローに、過去の顧客の掘り起こしなど、営業という仕事をしている限りは、割合の大小はあれど営業電話をかけざるを得ません。また、架電営業を主体とするインサイドセールスを組織化する企業もしばらく前から増えています。このインサイドセールスの場合は、マーケティングから渡される大量のターゲットリストに営業電話をかけ続けることが大事なミッションになっています。 

ですが、営業電話、特にほぼ面識もないような見込客にかけるコールドコールは、電話を受ける見込客側だけでなく電話をかける営業側においても、ストレスのたまる大変な仕事です。不機嫌/不愛想に対応されるのならまだましで、無言でガチャ切りされたり、「どこで番号を知ったんですか?!」「もうかけてこないでください!」と怒鳴られてしまうことも。 

そんな「営業電話はサイアク!」という思いをそのままタイトルにした書籍が、最近発売されて話題になっています。そこで今回はこの書籍から、特に営業電話でサイアクな箇所である冒頭のオープニング部分のトークを見てみましょう。この書籍によるとアポイント取得率が最大で5倍以上になったとのこと。営業電話に自信がある方も、タイトル通りに「営業電話はサイアク!」と思っている方も、ぜひお読みください。 

データによって立証された本当に効果的な営業電話のオープニング 

今回ご紹介するのは約1か月前に発売された「Cold Calling Sucks (And That’s Why It Works)」。日本語にすると「営業電話はサイアク!(だからこそうまくいく)」。この本の著者であるチェゲルスキー氏とファロック氏は営業電話の才能をもとに、30 Minutes to Presidents Clubという超有名な営業ポッドキャスト番組を立ち上げた二人組。しかも両氏の過去の経験だけでなく、営業電話の支援/解析システムのGong社が持つ莫大なデータを分析して、本当に効果的な営業電話を科学的に分析したというのです。 

その中でも特に興味深いのが、オープニングのトークの種類によってアポイントの取得率が大きく変わる、というもの。Gong社のデータがその違いを雄弁に物語っています。 

【禁止】「今お時間大丈夫ですか?」(Did I catch you at a bad time?)・・・2.15% 
【禁止】「ご機嫌いかがでしょうか?」(Hows it going?)・・・7.60% 
【推奨】許可ベースのオープニング・・・11.18%

上の2つのオープニングの冒頭に【禁止】とありますが、これらはとても一般的な営業電話の話法。特に「Did I catch you at a bad time?」は、営業電話では特に英語圏の見込客が「No!」と言いがちな習性を逆手に取った、工夫されたオープニングだとも言われてきたものです。 

この2つの一般的なオープニングにアポイント取得率で大差をつけているのが「許可ベースのオープニング」という話法。いったいどのようなトークなのか、例を見てみましょう。 

11%のアポイント取得率を誇る「許可ベースのオープニング」のトーク例 

「○○様ですね、先日御社が発表されたプレスリリースを拝見してお電話いたしました」 
「正直に言いますと、これは営業電話です。ですが、しっかりと御社について調べた上でのお電話です」 
「もしよろしければ30秒お時間をいただきまして、先日のプレスリリースを読んだ上で特に○○様にお電話を差し上げることになった理由をご説明させてください。それをもとにお話を続ける方がいいかご判断いただけますでしょうか?

このトークを読むと、冒頭に電話をした背景/理由があることを伝え、それから営業電話であることを率直に認め、話を続けることの許可を得る、という3段階で構成されていることがわかります。 

そして、このオープニングの最大の特徴は、営業電話であることを認めつつも、よくあるろくに事前準備もしていない他の営業電話とはまったく違うということ。確かにこのようなオープニングで、さらにしっかりと自社や業界について調べてくれていたら「一度会って話を聞いてみてもいいな」と思う見込客の割合は増えそうです。 

問題を克明に描くことでアポイントにつなげるプロブレム・プロポジション(問題提示) 

本ではこの先のトークの組み立て方も書いています。が、すべてを紹介しようとするとこのブログが超大作になってしまいますので、先ほどのトークの続きの30秒間の「プロブレム・プロポジション(問題提示)」までにとどめます。 

プロブレム・プロポジション(問題提示)は3つのパートに分かれます。 
1. 問題を呼び起こす:問題を具体的に説明し、見込客が体験した悲惨な状況をイメージできるようにします 
2. 一文の解決策:問題の解決策について、他社との最大の差別化要因を一文で簡潔に伝えます 
3. 関心によるアポイント依頼:次のアポイントをすぐ依頼するのではなく、興味や関心があるかを確認します

通常の営業電話の場合は、この部分ではどれだけのバリュー(価値)を提供できるかを伝えるバリュー・プロポジション(価値提示)であることが一般的です。しかし、チェゲルスキー氏とファロック氏に言わせると「価値は見込客にとって抽象的すぎて、それを手に入れたいとは思えない。その代わりに、目の前から取り除きたい問題を克明に伝える方がアポイントの取得率が高くなる」ということだそうです。 

そして、問題を克明に描くためには「どのタイミングで」「誰に」「どんな問題が起きて」「どう感情が乱れたのか」の4つの要素を含めるのが有効だと本では記されています。 

確かに、自分が直面している問題について精度高くリアルに再現されると、「解決策を知っているかもしれない」「少なくとも、自分が直面している問題について筋良く理解してくれそうだ」と思ってもらえるでしょうし、会社としての重要度が高い問題であればアポイントにつながる確率が高くなるというのは、至極当然だと思います。 

本の中では続けて、見込客からのよくある18種類の反論とそれへの対応の仕方など、営業電話をかける上で知っていると役に立つ内容が多く含まれています。また、オーディオブックも出ていますので、実際のトークのテンポや口調なども知ることができてよりイメージが湧きやすくなっています。まだ発売から1か月しか経っていないため、残念ながらまだ和訳は出ていません。英語が得意な方はぜひ読んで/聴いてみてください。 

オープニングのトーク分析はセールスイネーブルメント/営業DXの事例でもある 

私が「営業電話はサイアク!(だからこそうまくいく)」のオープニング部分を読んで特に印象的だったのが2つあります。1つめは、しっかりと事前準備をしてトークを組み立てることの大事さ。付け焼刃でわかってる風の話をして、ボロが出てしまうと逆効果だからです。そして2つめは、Gong社のようなデータを分析することでアポイント取得率が高いオープニングの話法が明らかになるというもの。 

特にこの2つめは、営業電話に限らず営業活動全般にも言える話でしょう。営業におけるデータを蓄積しておき、それを分析することで有効なトークや提案書、営業ツールを明らかにするという、セールスイネーブルメントや営業DXの一例としても参考になる取り組みなのではないかと思うのです。 

今回ご紹介したヒントでサイアクな営業電話を少しでも楽に、時には喜ばれるものに 

「見込客をだまそう/ごまかしつつ話を続けようとするのでなく、率直に話をする」 
「しっかりと事前に見込客のことを調べてトークを準備する」 
「トークのパターンを色々と試してデータをとり、最適なトークを磨き上げる」 
など、ご紹介した範囲だけでもたくさんのヒントが詰まっていた「営業電話はサイアク!(だからこそうまくいく)」でした。今回の記事がサイアクと言われがちな営業電話を少しでも楽に、時には相手にも喜ばれることもあるものにする参考になったら嬉しいです。 

参考:「Cold Calling Sucks (And That’s Why It Works): A Step-by-Step Guide to Calling Strangers in Sales」(Armand Farrokh & Nick Cegelski, Transcendent Publishing, 2024