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最近、営業/営業企画の方と話をしていると、セールスイネーブルメントへの取組を始めた、または始めようとしているという方に多く出会うようになったように感じます。 

セールスイネーブルメントとは「営業研修や商品案内や提案書といった資料等の各種営業施策をトータルでデザインし、それぞれの施策のパフォーマンスを数値化して管理することで、継続的に営業生産性を向上させる」というもの。アメリカでは2014年ごろから頻繁に話題に上るようになり、2016年にはこのトライツブログでも「施策ありきの営業力強化はもうオシマイ!『セールスイネーブルメント』で考えよう」という記事で初めて紹介しました。 

その後も、セールスイネーブルメントのコンセプトが進化したり、話題の調査レポートや書籍が発表されるたびに紹介してきました。最近では、セールスイネーブルメントの対象となる営業施策の全体像を体系的に整理した「【2023年版】セールスイネーブルメントの全体像を徹底解説」が多く読まれているようです。 

そして今回は営業研修や営業資料などの施策の効果を測定/評価するための分析指標について、よくまとまった記事が発表されましたのでご紹介します。どういう観点で営業施策を評価すると継続的な改善、生産性向上につながるのか。これからセールスイネーブルメントに取り組もうという方も、セールスイネーブルメントとは関係なくそれぞれの施策の効果測定をしたいという方も、ぜひお読みください。 

GGI社が新たに提唱するセールスイネーブルメントで使うべき分析指標とは 

セールスイネーブルメントで使うべき分析指標が書かれた記事をご紹介する前に一言断らせていただきたいのですが、これまでにもセールスイネーブルメントで各種施策を分析するための指標は発表されていました。例えば、このトライツブログでも優れた営業本として2018年と2023年の記事で紹介した「セールス・イネーブルメント」。この本では完全に網羅しているとは言えないものの、複数の観点から分析指標を例示しています。 

そして、今回ご紹介するのが「Sales Enablement Content Strategy: Boosting B2B Sales Effectiveness」(セールスイネーブルメントのコンテンツ戦略:B2B営業の成果を加速する)。セールスイネーブルメントで用いる分析指標をわかりやすくかつ網羅的に整理してくれています。この記事を書いているのはアメリカのラスベガスに拠点を置くGray Group International(以下、GGI)社。この記事以外にもB2B営業についての良質の記事を多数アップロードしています。 

それでは、GGI社の記事から、営業施策を分析するための指標を見ていきましょう。 

【使用状況】 
・使用頻度:研修資料や商品紹介資料、デモ動画などの使用頻度を追跡します。 
・顧客の利用パターン:Web上の各ページごとの閲覧時間、ダウンロードの割合、顧客社内での共有状況等を追跡します。 

【顧客エンゲージメント/コンバージョン率】 
・興味関心の度合:クリック率、ダウンロード率、SNSへのいいね!やコメント等のインタラクション率を測定します。 
・購買プロセスへの影響:顧客の購買プロセスの推移率(コンバージョン率)にどのように貢献しているかを分析します。 

【営業成果】 
・商談期間:コンテンツによって商談期間が短縮されているか。期間が短いほど、顧客のナーチャリングや意思決定支援に有効だといえます。 
・受注率:コンテンツによって商談の受注率が向上しているか。

営業施策の効果を「使用」→「顧客の変化」→「営業成果」の3ステージに分けて測定する 

私がこの指標で秀逸だと感じているのが、【】で囲まれた3つの分類です。2つめの【顧客エンゲージメント/コンバージョン率】を【顧客の変化】と読み替えると、まずは【使用状況】で自社の営業や顧客がそれぞれのコンテンツを使っているか、その次に使われたコンテンツが興味関心を高めたり、購買プロセスを後押ししたりといった【顧客の変化】につながっているか、そして最後に自社の【営業成果】につながったのかを測定するという、網羅的でかつとても分かりやすい流れが見えてくるのです。 

3分類の中の個々の項目は研修や営業資料、デモ動画などのコンテンツの種類によって異なってくるでしょう。引用した記事はホワイトペーパーなどのWebコンテンツに当てはまるものになっています。他に、課題ヒアリング力強化等の営業研修の場合は、【使用状況】で各商談でのスキル活用度をSFAやアンケートに回答してもらい、【顧客の変化】としてスキルを活用した商談で「提案」などの次のプロセスへの推移率が高まったかを、そして【営業成果】として最終的な受注率が高まったかを分析する、と言うことになります。 

このように、【使用状況】→【顧客の変化】→【営業成果】という3つのステージごとに施策の効果を測定し、改善/最適化するという考え方は、多くの営業施策の効果を測る指標として汎用的に使いやすいように思います。 

営業施策の効果測定のためには必要なデータを取れるシステム環境や運用が大前提 

とはいえ、この分析指標をご覧になって「こんな分析ができたらいいけど、ウチではできないよ」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。 

例えば各種資料をファイルサーバやOneDriveなどの自社クラウドで管理していたり、自社のWebページ上での訪問者の挙動を追跡できるMAを導入していないと、使用頻度や興味関心の度合を追跡するのは不可能です。また、購買プロセスへの影響や営業成果への影響を測定するにはSFAが単なる電子営業日報のままではダメで、それぞれの商談において、顧客の購買プロセスのどこに位置づけられていてどんなコンテンツを使ったのかを正しく入力できていないと、このような分析はできません。 

改めて文字にすると当たり前のことなのですが、これらの分析をしようとすると、必要なデータを取れるシステム環境であったりSFAの項目画面やそれへの入力習慣といったものを、事前に用意しておかなければならないのです。 

営業DXそのものであるセールスイネーブルメントに取り組もう 

2020年に経済産業省が策定(2022年に改定)した「デジタルガバナンス・コード 2.0」では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」だとしています。 

そして、これを営業に当てはめると、データとデジタル技術を活用して営業の業務そのものやプロセスなどの継続的な改善に取り組むセールスイネーブルメントは、営業DXそのものであるとも言えるでしょう。 

ちなみにコロナ禍以降、営業DXに取り組む企業が増えましたが、「期待した効果が出ていない」という声も聞きます。便利になったとは感じるものの、営業として「稼ぎが増えた」とか「営業が進化した」と実感できてはいないようなのです。 

そのような場合、今回ご紹介した【使用状況】→【顧客の変化】→【営業成果】というラインで、「これがこうなったら、顧客がこうなって、成果につながった」という流れを数字で「見える化」することにこだわってみてはいかがでしょうか。 

一度に管理項目をあれこれ増やすのでなく、目的を絞り、着実に一歩一歩、【使用状況】→【顧客の変化】→【営業成果】というラインを増やしていく。今回ご紹介した記事は、そのようなセールスイネーブルメントの現実的なアプローチを示してくれているように感じました。 

参考:「Sales Enablement Content Strategy: Boosting B2B Sales Effectiveness」(GGI Insights, Gray Group International, August 7, 2024