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最近の営業本を読んだり、営業/マーケティング関連のセミナーを聞いたりしていると、 MQLやSQL、SALなど以前はほとんど聞くことがなかった略語がよく出てきます。 

これらの用語はここ10年程度で急速に普及したものなので、デジタルマーケティングが当たり前の比較的若い営業組織にいる方にとっては身近なものの、JTCなどと呼ばれるような社歴の長い日本の大企業の営業組織にいる方にはなじみがないことが多いようです 

そこで、今回はこれらの最近使われるようになった営業/マーケティング関連の略語をまとめて解説します。MQLやSQL、SALといった用語を始めて見る方も、見たことはあるが意味までは詳しく知らないという方も、ぜひお読みください 

英文字から「MQL」「SQL」の意味を考えよう 

それぞれの用語の解説に入る前に、より理解していただきやすくなるように、さっきから出てきているMQLやSQLなどに登場するアルファベット「M」「S」「Q」「L」等の解説から始めます。 

これから登場する単語は大きく3つのパターンの組合せになっています。 

1文字目は担当する自社の組織/役割を表します。MQLのように1文字目が「M」の場合はマーケティングが担当し、SQLのように1文字目が「S」の場合はセールス/営業が担当する、という意味です。 

1つ飛ばして3文字目は顧客/商談の状態を表します。SQLのように3文字目が「L」の場合は商談化以前の見込客(Lead)であることを意味しており、後述するSQOのように3文字目が「O」の場合は見込客からの商談発掘が成功した商談客(Opportunity)であることを意味しています 

そして先ほど飛ばした2文字目は、これらの見込客や商談客のマーケティングや営業部門における位置づけを表しています。2文字目が「A」の場合は、1文字目つまりマーケティングや営業の各組織において架電や訪問といった活動の対象として受け付けられた(Accepted)、つまりターゲットリストに載ったということを意味しています。そしてそれらのターゲットに対して架電や訪問をした結果、目指す状態を達成して後続の部署にバトンタッチできることが認められた(Qualified)ら2文字目が「Q」となります。 

MAL/MQL/SAL/SQL/SQOの全体図 

いったんここまでの前提情報を頭の片隅に入れた状態で下図をご覧ください。ちなみに下図は、これらの用語について私が知っている中でもっとも包括的に解説してくれている海外の営業本「Sales Management That Works」をもとに作図したものです。 

図の中の赤枠で囲まれているのが、見込客/商談客の推移です。一番左のMALからMQL、SAL、SQL、・・・と進みます。 

MAL:Marketing Accepted Lead 

MALはマーケティングの育成対象とする見込客です。この見込客に対してメールマガジンを送って開封履歴を見たり、自社のWebページやウェビナー、ホワイトペーパーなどの閲覧状況を見ながら、見込客の自社への関心度の高まりを確認します。 

MQL:Marketing Qualified Lead 

繰り返しWebサイトを訪問してくれたり、ホワイトペーパーをダウンロードしてくれたりして十分に自社への関心が高まったら、MQLとしてセールス部門にこの見込客をバトンタッチします。ただし、セールス部門の判断で営業活動の対象外となる見込客も例外的に存在します。例えば数か月以内に営業対応したが商談として具体化しなかったり、最近クレームが入ったために営業活動を自粛しようというような見込客です。 

SAL:Sales Accepted Lead 

このような例外を除いて、ほぼすべてのMQLがセールス部門の活動対象であるSALとなります。セールス部門が電話での架電を中心とするインサイドセールスと、訪問やWeb面談を中心とするフィールドセールスとに分かれている場合は、インサイドセールスがSALに対して営業活動を行います。 

SQL:Sales Qualified Lead 

SALに課題の状況やニーズの度合いを確認し、商談化する可能性が高いと判断された見込客はSQLとなります。企業によってSQLを担当する部署は異なりますが、一般的にはSQLにはフィールドセールスが対応してオンラインや対面でデモを見せるなどして商談化のための活動を行います。 

SQO:Sales Qualified Opportunity 

この結果、顧客のニーズが明確で自社商品に合致しており、購買の意思もあることが確認出来たら、既存客の1つ手前の段階であるSQO、セールスによって商談化の基準をクリアした商談客となります。この顧客に提案や見積を提出したり、顧客社内の意思決定を支援などして受注することで既存客になる、というのが上図の流れです。 

それぞれの用語と位置づけについてイメージしていただけましたでしょうか。 

MAL/MQL/SAL/SQL/SQO誕生の背景 

このようなMAL/MQL/SAL/SQL/SQOといった概念が誕生した背景は、2019年のベストセラー『ザ・モデル』に代表されるようなマーケティング/営業組織の分業化です。 

見込客をその時点での関心度合に応じて、マーケティング/インサイドセールス/フィールドセールスという複数の組織にバトンタッチしていくため、次の組織にバトンタッチするためにクリアすべき条件(=今の組織の成果を測るための条件)を明確にしなければなりません。そのためにマーケティングがクリアすべき条件を満たした見込客をMQL、インサイドセールスがクリアすべき条件を満たした見込客をSQLと定義しなければならなくなったのです。 

このような背景を理解すると、『ザ・モデル』に触発された営業組織がMQLなどの指標だけを導入しようとしては失敗してしまうことも、同様に理解できるようになります。 

分業化とパフォーマンスマネジメントという前提なくして段階的な見込客管理なし 

これらの指標はマーケティング/営業活動の分業化と、分業化された各組織の成果を定量的に測定・管理しようというパフォーマンスマネジメントを徹底するためのものです。そのため、分業化せずに同じ組織が見込客のステージをMQLやSQLとして管理しようとしてもなあなあになってしまうでしょう。また、営業に対する組織としての評価が売上や利益といった結果指標だけなのであれば、MQLやSQLの社数、MQL/MALやSQL/SALの比率などの指標を高めようというモチベーションが湧くことはないはずです。 

マーケティング/営業を組織ごと分業化することで、各業務の生産性を高める。各組織のパフォーマンスを定量的に測定・評価するために指標を具体化する。これらの環境を整えることがMAL/MQL/SAL/SQL/SQOという段階ごとの見込客管理の大前提なのです。 

トライツブログはこれからも基本的なコンセプト/用語紹介も行います 

MQLやSQLといった用語について馴染みのなかった方にとって、今回の解説記事が理解を進めるヒントとなっていましたら嬉しく思います。トライツブログでは営業/マーケティングの最新トレンドだけでなく、今回ご紹介したような基本的/ベーシックなコンセプト/用語の解説も充実させていきます。これからもどうぞご期待ください。 

参考:「Sales Management That Works: How to Sell in a World that Never Stops Changing」(Frank V. Cespedes, Harvard Business Review Press, 2021