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インターネットによって私たちの情報源は爆発的に増えています。海外の本であってもKindleなどの電子書籍ですぐに読めますし、セミナーやカンファレンスの中にはオンライン配信しているものやYouTubeで後から見られるものあります。また、ポッドキャスト番組を立ち上げて定期的に情報発信してくれる専門家も増えています。
この中でも私が特に頻繁に使っているのがポッドキャストです。事務所への通勤途中や朝晩の犬の散歩をしながら、このブログの情報収集や英語と営業の勉強を兼ねて、海外の営業の専門家の番組を聞くようにしています。
今回はその中でも特に面白かったエピソード「How to Become a Trusted Advisor in Sales」(営業で信頼されるアドバイザーになる方法)をご紹介します。なぜインターネットやAIで情報収集できる今の時代に、信頼されるアドバイザーとなることが大事なのか。そして、どうすれば信頼されるアドバイザーだと顧客に認めてもらえるのか。一緒に学びましょう。
「信頼」が重要な決定要素となっている現在の購買/営業
ポッドキャストの中身に入る前に、顧客にとっての「信頼されるアドバイザー」という役割が最近の営業で重要視されている背景から見ていきましょう。
インターネットで検索したりAIに質問したりすれば簡単に情報が手に入るようになっている現代において、顧客が信頼できるアドバイザーを求めているというデータが複数あります。
例えばLinkedIn社が2020年に実施した調査では「企業の購買担当者の88%は信頼できるアドバイザーとみなした営業担当者から購入したい」と回答しています。また、2023年11月のトライツブログ『デジタル時代なのに「信頼」が決め手?B2B購買の最新トレンド解説』の中でも、CMSWire社とSalesFuel社の調査レポートから「信頼」が購買の判断基準として重要視されるようになっている傾向をご紹介しました。
この記事の内容をざっくりとまとめると、コロナ禍のロックダウンやリモートワークといった状況で購買を失敗しないためには、企業は業界経験や顧客からのクチコミ情報、業界リーダー、知人の紹介といった「信頼」が購買の重要な決定要素となり、その傾向はコロナ禍が明けた現在でも変わりがないというものです。
営業担当者が信頼されるアドバイザーになるための9か条
ではこのように「信頼」が購買の主な決定要因となっている現在において、営業担当者が顧客から「信頼されるアドバイザー」として認められるためにどうすればいいのか。それに答えてくれるのがThe Sales Gravy Podcastというポッドキャスト番組のエピソード「How to Become a Trusted Advisor in Sales」(営業で信頼されるアドバイザーになる方法)。
ちなみにこの番組のホストはこのトライツブログでも取り上げたことのあるジェブ・ブラント氏。「Fanatical Prospecting」(熱狂的な商談発掘)というベストセラーの著者であり、Sales Gravy社という営業研修会社の創業者兼CEOでもあります。このブラント氏がゲストと対談しながら挙げていった、営業担当者が信頼されるアドバイザーになるための9か条がこちらです。
1. 顧客のビジネスにおける専門知識:営業担当者は顧客のビジネスについての深い理解が必要です。
2. 顧客の成果を理解すること: 営業担当者は、自分が何を売っているかだけでなく、それが顧客の具体的なビジネス成果の達成にどのように役立つかを知る必要があります。
3. 販売よりもインサイトの提供: 単に製品を販売することよりも、顧客自身のニーズをより深く理解するための価値あるインサイト(洞察)を提供することを重要視します。
4. 効果的な質問:顧客の真のニーズと課題を明らかにし適切な解決策につながる効果的な質問が不可欠です。
5. 顧客組織の横断的なカバー: ビジネスにおける複数の利害関係者を理解して関与することで、顧客のニーズや課題をより包括的に捉え、より良い解決策を導き出すことができます。
6. 確実に約束を守る: 営業担当者の心構えや能力を顧客が信頼するために、営業担当者が自分で行った約束は確実に遂行します。
7. 前向きさとエネルギー: 前向きな姿勢と高いエネルギーは顧客に伝染し、商談の進捗や成果に大きな影響を与えます。
8. 継続的な学習と適応: 営業担当者は常に業界知識をアップデートし、新しい市場トレンドやテクノロジーに適応していかなければなりません。
9. 内面的な成長: 内気な性格の克服や回復力、適応力などの成長は、営業活動とその結果に大きく影響します。
1~5番が顧客理解について、6~7番が仕事への取り組み姿勢、そして8~9番が学習と成長に関わるものとなっています。確かにこのような人が自社を担当してくれていたら、間違いなく誰もが信頼してアドバイスを求めると思います。
ブラント氏のポッドキャストはこの9か条も面白いのですが、私が一番感銘を受けたのが「AI時代だからこそ営業担当者がより重要になる」という同氏の主張。それがこちらです。
AI時代だからこそ生身の営業担当者という存在が重要になる?
営業担当者という存在の重要性は、かつてないほど高まっています。なぜなら、AIによってあらゆるものが偽造できるこの世界の中で、偽造できない唯一のものはあなた自身、生身の営業担当者自身だからです。そして人々は、顧客はAIに取り囲まれた今の時代だからこそ、信頼できる他の生身の人間と本物の関係を築きたいと切望しているのです。
確かにAIは膨大なデータを学習してそれをうまく選定・要約して教えてくれますし、ときには悩みごとに対してもそれらしく答えてくれもします。しかし、私たちはAIを役立つ情報源として扱うことはあっても、自分たちの事業や業務に関する課題のアドバイザーとして全幅の信頼を寄せることはありません。
AIが信頼できるアドバイザーとはなり得ない一方で、先にご紹介したように購買担当者は自社の課題について信頼できる相談相手を求めています。このAIには埋められない役割を果たすのが、生身の営業担当者だというのです。
早朝に起きて犬と一緒に散歩しながらこの部分を聞いていたのですが、あまりにいいフレーズだったのでうっかりその場に立ち止まり、もう一度聞き直してしまったほどです。そして、その感動冷めやらぬ当日の昼過ぎにこうしてブログとしてまとめているというわけです。
真偽の入り混じった情報が溢れる現在に求められる「信頼できるアドバイザー」
これまでのAIによる営業担当者不要論は、情報提供という機能だけを見ていたように思います。一方で今回ご紹介したポッドキャスト番組では、その情報の確からしさや信頼性という観点が追加されています。
大量の真偽が入り混じった情報であふれるAI時代では、信頼できる情報源が貴重なものとなる。そのため、その役割を担える「信頼できるアドバイザー」としての営業担当者という存在の重要性がより高まるというもの。営業担当者の存在価値を単なる情報提供機能だけでなく、信頼できるアドバイザーにまで引き上げたところが興味深いですし、これこそがAI時代に目指すべき営業像なのではないかと思います。
これをお読みの方には、ぜひ先ほどの9か条を参考にしていただきたいですし、自分や自組織の営業が顧客から信頼される相談相手になっているか、そのように認めてくれている顧客がどれだけいるか、という観点でも見ていただきたいと思っています。自分のことを信頼して相談してくれる顧客の数こそが、長い目で見た営業担当者としての価値を測る大事な指標なのだと思うのです。
参考:「How to Become a Trusted Advisor in Sales」(Jeb Blount & Cheryl Parks, The Sales Gravy Podcast, May 3, 2024)