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個人単位やチーム単位で業績を競い、最優秀担当者やチームには豪華な景品を提供する営業表彰(セールスコンテスト)。皆さんの中には、社長賞などの表彰を受けたという方もいらっしゃるかもしれません。ただ、うまく営業メンバーの動機づけとして活用できている組織もあれば、セールスコンテスト自体がマンネリ化してしまっていて、この施策に対して良いイメージを持っていない組織もあるようです。 

そこで今回は、このセールスコンテストについて改めて考えてみたいと思います。そもそも有効なのかについての研究論文をご紹介した上で、営業メンバーのやる気を引き出す良いコンテスト設計のポイントについてもご紹介します。営業組織の活性化やテコ入れとしても使える内容ですので、ぜひお読みください。 

データが実証!セールスコンテストには効果あり 

それでは最初に、「セールスコンテストがそもそも有効なのか」を改めて確認しましょう。というのも、セールスコンテストには「コンテストの期間内の売上が増えるようにコンテスト前後にあるはずだった売上の時期をずらしているだけで、トータルの売上には影響を与えておらず意味がないのでは?」という懐疑的な意見が出ることもあるからです。 

そこで、セールスコンテストの効果について定量的に検証した事例がないかと調べたところ、ありました。アメリカのミズーリ大学の教授らが保険代理店の営業担当者1,180人を対象にして実施した研究レポート「Assessing Sales Contest Effectiveness」によると、通常時の成約率1.65%が、コンテスト前の3週間では1.11%に低下するものの、コンテスト期間の6週間では5.71%に上昇し、コンテスト後の3週間でも通常時を上回る2.62%となったとのこと。このため、コンテスト前の期間の減収分の10倍以上もの経済効果が観測されたそうです。 

このレポートではコンテスト前の3週間で成約率が低下した理由として、それぞれの営業担当者が来るコンテスト期間に向けてクロージングよりも商談発掘を注力したためだとしています。このように、コンテスト前の売上を期間内にずらす動きは見られたものの、それ以上の見返りが営業コンテストにあることを示しています。 

とはいえ、このデータだけをもとに「セールスコンテストは必ず成果につながるらしい」と早合点するのは禁物です。このレポートの対象はセールスコンテストによく慣れ親しんでいるアメリカの保険営業担当者。そして、コンテストの設計の仕方次第では、営業メンバーがお互いに足の引っ張り合いや嫌がらせをするようになってしまって逆効果ということにもなりかねません。 

そこで次に、効果的なセールスコンテストの設計の仕方について見ていくことにします。 

HubSpot社の急成長にも貢献したセールスコンテスト設計の6つのポイント 

次にご紹介するのは、2015年に出版された「The Sales Acceleration Formula」という営業マネジメントの教科書ともいえる本。著者のマーク・ロベルジュ氏は、日本でも多くの企業で使われているMAツールのHubSpotの急成長期を支えた営業部門の総責任者。書籍の中ではタイトル通り「事業の拡大を加速させる方程式」として、採用や研修、日々の営業マネジメントについての考え方を紹介しています。 

この本の中でロベルジュ氏は「セールスコンテストは、短期間の活動促進とチーム文化の形成を実現する有効なツール」だと高く評価しています。それでは、書籍内の「最も効果的なセールスコンテストを設計するための6つのポイント」を見ていきましょう。 

1. チームメンバーに実行してほしい短期的な行動変容に照準を合わせる

2. チーム単位で競わせる

3. チーム単位で表彰する

4. 順位表を毎日更新して公表する

5. 期間設定は賢く

6. コンテストだらけにし過ぎない

1番目の「短期的な行動変容に照準を合わせる」とは、あくまでも短期的な活性策でしかないことをわきまえましょうという意味。本質的な営業スキルが足りないのであれば研修を行うべき。そうではなく、閑散期のためどうしても活動が停滞しがちな時期に、メンバーにはっぱをかけるためにコンテストを取り入れるのは有効だとロベルジュ氏は記しています。 

また、2番目と3番目の「チーム単位」というのも大事なポイントの1つ。HubSpot社で一度個人単位のコンテストを実施しようとしたら、それまでは見られなかった足の引っ張り合いや嫌がらせが横行してしまい、急遽チーム単位のコンテストに戻したことがあるそうです。チームで協力し合う文化を作るためにも、チーム単位で競い、チーム単位で栄誉を分かち合うのが大事なのです。 

4番目の「順位表を毎日更新して公表」と言うのは、業務にゲーム的な要素を取り入れるゲーミフィケーションの手法としても有名です。これを徹底しないと、コンテストの効果は一気に低下してしまうとロベルジュ氏は警告しています。 

5番目の「期間設定」は短すぎず、長すぎずということ。HubSpot社では1か月間のコンテストが最も有効だったとのことですが、これは売っている商品・サービスの平均的な購買期間に合わせて設定する必要があると思います。 

そして最後の「コンテストだらけにし過ぎない」は、複数のコンテストを同時期に走らせても効果が薄れてしまうということ。それぞれの営業組織が同時期にエントリーするコンテストは必ず1つまでにすべきということです。 

日本のB2B組織でのセールスコンテスト活用例 

ここまで、セールスコンテストの有効性や設計のポイントについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。「うまく設計すれば役に立ちそうだ」「自分たちの組織でもやってみたい」と思っていただけたら嬉しいです。 

私が知っている企業でも、セールスコンテストを有効に活用している営業組織があります。その組織では、新商品を一気に展開するタイミングや年度末の追い込みの時期にコンテストを実施しており、優秀なチームをクルーズ船やホテルでの豪華なディナーに招待するといったことを行っています。当日の写真を見せてもらったりもするのですが、確かに皆さん楽しそうで、チームの活性化や連帯感の向上につながっている様子がうかがえます。 

セールスコンテストを使って組織の結束を強化しよう 

バブルがはじけて失われた30年に入ってから、職場で実施していたイベントがどんどんなくなっていきました。保養施設への慰安旅行や運動会にバーベキュー。昨今では従業員のプライベートに干渉しすぎないようにするという考え方もあって、より見かけなくなっているようにも思います。確かに休日まで会社の同僚や上司と付き合うのは大変ですし、オンとオフの切り替えも大事だとは思いますが、同時に職場のチームとしての結束自体が弱くなりすぎてしまっている可能性もありそうです。 

そのように考えると、チームとして結束して仕事に取り組み、チームで喜びを分かち合うセールスコンテストは、組織の活性策として改めて有効だと思います。適切に設計し、順位表を毎日更新して公表するといったゲーミフィケーションの要素を取り入れることで、マンネリになりがちな日々の活動に新鮮味が加わりますし、頑張ったチームを組織としてねぎらうこともできる、営業組織活性化の格好の施策となるのではないでしょうか。 

参考: 
Assessing Sales Contest Effectiveness: The Role of Salesperson and Sales District Characteristics」(Srinath Gopalakrishna University of Missouri et al., Marketing Letters, January 2015 
The Sales Acceleration Formula」(Mark Roberge, HubSpot, Inc., John Wiley & Sons, Inc., 2015