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ひと昔前の時代のB2B営業ではほとんど使っていなかったのに、現代では当たり前に使っている用語があります。例えばコロナ禍以前では「リモート商談」をしている人はごく少数で、日本で見聞きすることはまずありませんでしたが、コロナ禍で多くの人が体験し、しっかりと日本企業に定着しているように見えます。そして同じような現代のB2B営業の頻出用語として「顧客の購買プロセス」があります。 

そこで今回は改めて「顧客の購買プロセス」がどのようなものなのかについておさらいします。今の時代にB2B営業に取り組む上での必須単語ですので、登場した背景から具体的な中身までこの機会に再確認してみましょう。 

従来のB2B営業で一般的だった営業主導の「営業プロセス」 

そもそも、なぜ最近になって「顧客の購買プロセス」に注目が集まっているのでしょうか。 

従来のB2B営業では、営業担当者が主体的に営業活動を進めていると認識されていました。顧客からの問合せがあったり、営業担当者が電話を掛けたり直接顧客のオフィスに出向いたりして「初回訪問」し、顧客の「課題ヒアリング」してそれに合わせた「提案書提出」して商品やサービスのイメージを顧客とすり合わせて「見積提示」する。その後、顧客が社内決裁を通して「受注」する、と言うのが典型的な営業プロセスでした。 

今でもこのような「初回訪問」→「課題ヒアリング」→「提案書提出」→「見積提示」→「受注」といったプロセスでマネジメントしたり、SFAの入力項目をこれに合わせて設定したりしている営業組織も多いのではないでしょうか。 

2010年ごろまでは営業担当者が「営業プロセス」を主導するのが一般的でした。しかし、2010年ごろからは少しずつ顧客が購買の主導権を握るようになっていると言われ始めます。そのきっかけとなったのがWebの浸透とそれに合わせた各企業の情報発信でした。 

Webの浸透で主流になってきた「顧客の購買プロセス」 

私たちがなにか調べたいことがあればすぐ「ググる」ようになり、購買担当者もWebを使って様々な情報を集めるようになりました。そして、B2B企業も商品情報や導入事例、価格表などをWebに上げるようになったことで、これまでは「営業だけが知っていた情報」が、「顧客も簡単にかつ無料で調べられる情報」になりました。顧客は営業担当者に会わなくても、自分たちに必要な商品・サービスの情報を集めて比較選定できるようになったのです。 

この結果、営業/購買はそれまで営業担当者が主導してきたものから、顧客が主導するものへと変化していきました。顧客は課題を認識すると、その解決策としてどんな商品・サービスが世の中にあるのか、それらに対する巷の評判がどうなっているかを自分たちだけで調べ、その後に自分たちが選んだ企業の営業担当者に声を掛けるようになっています。 

このように顧客が購買の主導権を握るようになったら、これまでの営業プロセスはあまり役に立ちません。営業担当者が何をしたかではなく、顧客の購買プロセスがいつから始まっていて、営業に声が掛けられたタイミングではどこまで進んでいるのか、そして購買が決定するまでにこれから何をしなければならないか、という「顧客の購買プロセス」を理解してそれが停滞しないように情報提供などの支援をすることが、現代の営業に求められているのです。 

顧客の購買プロセスのグローバルスタンダード「Gartner社の概念図」を見てみよう 

それでは、この「顧客の購買プロセス」とはどのようなものなのでしょうか。 

それは顧客が属する業界やその企業が購買する商品・サービスの特性によって異なるため、「ズバリこれがB2B企業に共通する購買プロセスです」と示せるものではありません。ですが、2018年に調査会社のGartner社が作成したレポートWin More B2B Sales Deals」内で発表された汎用的な購買プロセスの図が、海外のブログや講演、営業本の中で何度も紹介されていますので、ここでもご紹介します。 


細かい文字がたくさん並んでいますが、まずはオレンジ色の4つの四角形に注目してください。Gartner社は顧客の購買プロセスを大きく以下の4つだとしています。
1. 課題の特定(Problem identification) 
2. 解決策の探索(Solution exploration) 
3. 仕様の設計(Requirements building) 
4. サプライヤーの選定(Supplier selection) 

そして、4つの四角形の上下に多数の文字がレイアウトされていますが、その中でも特に太字で書かれているアクションは、レポートの中で「検証(Validation」と「合意形成(Consensus creation)」と書かれているもの。先ほどの4つのプロセスのそれぞれにおいて、本当にそれらの課題や解決策、仕様やサプライヤーが適正なのかをしっかり検証し、組織内で合意形成しているというものです。 

この図の一番大事なところは4つの四角形の上下に多数のアクションがあり、それが単純に左から右に流れているのではなく、時に左に逆流したり、ループしたりしているところにあります。つまり、購買プロセスと言っても決まった手順を一直線に進むのではなく、行ったり来たりしながら購買へと進んでいくものなのです。 

トライツが定義する顧客の購買プロセスの概念図 

ちなみに、トライツコンサルティングでは顧客の購買プロセスを以下のように定義しています。 

図を見ると左から右へ一直線にプロセスが進むように見えますが、これはGartner社の図のように煩雑になってしまうのを避けるため。同様の図が掲載されている「両利きの営業力」でも、「これらのプロセスは顧客の中で行ったり来たりするもの(P.39)」と解説してあります。 

この「プロセスとは言いつつも、行ったり来たりしながら進む」というところにB2B顧客の購買プロセスの特徴と、それに合わせて営業活動することの難しさがあるのです。 

B2B営業での典型的な購買プロセスのパターン例4つ 

ただ、実際の購買プロセスが上記の汎用的なものとピッタリ合うことはなかなかありません。そこで、以下にB2Bで典型的な購買プロセスのパターン例を4つご紹介します。ご自身の業界や顧客のことを思い浮かべ、どれが一番近いか確かめながらご覧ください。 

ここで大事なのは、個々の商談において今の顧客はどのような購買プロセスを歩んでいるのかに意識を向け、できるだけ詳しく理解しようとすること。そこで購買プロセスだけでなく、顧客社内で意思決定に関わる関係者が誰であるとか、反対勢力は何と言っているか、「検証」「合意形成」といった多くの人が関与してくる可能性のある購買プロセス上の難所をどうクリアしようと考えているかなどを教えてもらえるようになると、顧客の購買プロセスの推進を支援する、今話題の「顧客中心営業」へと進化できるようになるのです。 

何をやったかでなく、相手がどんな状況かに注目して商談を語ろう 

ここまで「顧客の購買プロセス」について改めて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。営業プロセスではなく、顧客の購買プロセスから商談を見直すことで、その商談の顧客内での進捗状況が理解できるようになります。ぜひこれからは「実際の商談の中で顧客に購買プロセスを教えてもらう」「自社内で商談の進捗を共有する際は顧客の購買プロセスで表現する」ことを試してみてください。常に購買プロセスを意識することで、おのずとそれを進捗させるためのアイデアを考えられるようになるはずです。 

参考:
Win More B2B Sales Deals: How sales delivers more value  to today’s buyers」(Brent Adamson‚ Principal Executive Advisor of  Gartner, Inc., 2018
「両利きの営業力」(角川淳、日本経済新聞出版、2022年)