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いよいよ2024年がスタートしました。物流や医療などでは働き方改革などの規制により、人手不足が予想される「2024年問題」などが話題になっていますが、この2024年はどんな一年になるのでしょうか。 

そこで、B2B営業の2024年のトレンドを各種レポートから調査してみました。それぞれの専門家が2024年のB2B営業がどう変化すると予測しているのか、早速見ていきましょう。 

斬新で新奇な予測がほとんどない2024年のトレンド予測 

と、言いながら最初に残念なお知らせです。年末年始にかけていろいろな予測記事を見ていたのですが、多くの記事でこれまでにトライツブログで取り扱ったようなテーマばかりで、新鮮味のある予測がほとんどありません。とりわけ典型的だったのがSAP社が運営している営業・マーケティング担当者向けのWebサイトThe Future of Commerceの予測記事「B2B sales 2024」。この記事では、2024年に来る主なトレンドは次の5つだと予測しています。 

1. 生成AIの実用化

2. ハイブリッド営業モデルの完成

3. 受注確率の高い商談の予測と集中

4. 顧客接点のパーソナライズ

5. モバイル対応 

生成AIも、対面とリモートを組み合わせたハイブリッド営業も、生成AIとSFA等の顧客データを組み合わせたコンテンツのパーソナライズも、モバイル対応も、どれもすでに各所で話されている内容ばかり。確かにわかりやすくまとまってはいるものの、新鮮味はあまりないように思えてしまいました。 

3番目の「受注確率の高い商談の予測と集中」だけ違和感がありますが、これは長く続いたFRBの利上げが一段落し、いよいよ調整/景気後退局面に突入するのではないかという警戒心によるもの。買い手企業が出費を抑えようとするため、営業は受注確率の高い商談を見極めてそこに労力を集中しなければならない、ということを言っています。 

他社とは一線を画すHubSpot社のエビデンス付き予測記事 

このような予測記事が多い中、より深く掘り下げて書かれていたのがHubSpot社の予測記事「HubSpot’s 2024 State of Sales Report」。これは単なる未来予測ではなく、2023年に実施した調査結果をもとにその傾向が進むとしたら2024年のB2B営業がどうなるかを推計した、いうなればエビデンス付きの予測記事です。 

このHubSpotの記事でも1番目の予測として生成AI活用について書かれているのですが、他社の記事とは切り口を変えていて、一線を画す内容になっています。 

1. AIを活用した顧客の時代が到来 
AIツールのおかげで、顧客の情報収集能力が大幅に向上し、これまで以上に知識を得られるようになっています。これは、情報収集において顧客が営業担当者に依存せず自立しつつあることを意味します。

AI活用は営業担当者だけでなく、顧客においても進むという観点からの予測です。AIの力を借りれば、顧客がWebから情報を得ようとする場合でも、大量の検索結果のリンク先を1つずつ開いては中身を確かめる、という作業をしなくて済むようになりました。多少の間違いはどうしても含まれてしまうものの、今までよりも圧倒的に短い時間で業界動向やソリューションの情報などを、顧客が簡単に手に入れられるようになっています。 

顧客と営業の双方でAI活用が進むことでより良い購買体験を得られる? 

記事では顧客がAIを活用して情報収集するようになることで、顧客と営業の双方に良い影響が表れると続けています。 

このような顧客の変化により、営業担当者は商談の場で情報共有に重点を置くことがなくなり、専門的なコンサルタントとしての役割を果たすようになります。これまでよりも正確にニーズと課題を理解し、より顧客にフィットした購買体験を提供するようになり、今まで以上に強力な信頼関係を構築することでしょう。 
つまり、顧客と営業担当者の両方がAIを活用することで、より生産的な会話ができ、より強力な信頼関係ができ、全員にとってより良い購買体験を得られるようになるのです。

一見すると前向きでバラ色の未来が描かれていますが、これを実現するためには 
①顧客がAIを業務に活用している 
②営業担当者がAIを業務に活用している 
③営業担当者が自らのスキルや知識を磨いて専門性の高いコンサルタントとして価値を提供できるようになっている 
という3つの条件をクリアしなければなりません。 

AI活用は「様子見」で本当に大丈夫?顧客に合わせて営業の変化も待ったなしに 

そのためには顧客と営業の両方が変わる必要があり、それができたところが今よりも大幅に生産性を向上させることができるということになるでしょう。 

しかし、残念ながら日本の多くの企業ではまだ「様子見」としていることが多いように思います。「AIよりも自分の方が信頼されるに決まっている」「ウチの商品は複雑だからAIでは無理だ」「価格のことはAIでは対応できないんだから、最後は必ず営業担当者に相談される」などと考え、危機感を持っていない営業担当者も少なくありません。 

心理学の用語で「正常性バイアス」というものがあります。人間が予期しない事態に対峙したとき、「ありえない」という先入観や偏見(バイアス)が働き、物事を正常の範囲だと自動的に認識する心の働き(メカニズム)を指します。現在のAIに関する認識はまさにこの状態にあり、「まだまだ大丈夫だ」としてしまっていることが多いように思いますが、実際にはそうではないのです。 

既にAIは「こんなことは人間にしかできないだろう」と思っていたレベルを簡単にクリアしています。そしてそれに気づいた顧客は私たちの見えないところで、AIの活用を始めており、「①顧客がAIを業務に活用している」という流れは日本でも確実に進んできています。そして、それはその流れに対応できない営業は必要とされなくなることを意味します。 

これまでのトライツブログでは営業の効率を上げるためにAIを活用しよう!とか、Webで自ら購買プロセスを進める顧客には専門家として関わるようにしよう!とお伝えしてきましたが、2024年はいよいよ顧客側のAI活用が進み、それに合わせて営業側も変わっていくことを強いられることになる、待ったなしのタイミングになるということだと思います。 

AI活用による営業パフォーマンス向上と業務効率化が現実に 

記事では続けて、AI活用による営業パフォーマンスの向上というトレンドが今まさに起きていることを紹介しています。 

3. AIによる営業パフォーマンスのさらなる向上が実現 
営業担当者の66%が、AIによってよりパーソナライズした営業活動ができるようになるのに役立つと回答しており、営業マネージャーの63%が、AIのおかげで他社との競争に勝ちやすくなっていると回答しています。(中略) 
また、営業担当者の41%は既にAIを利用して顧客の感情や心理状態を把握していて、そのうちの83%がこれが効果的だと回答しています。  

このように顧客接点でのAI活用が進んでいるというデータがすでに出ているとのこと。そして顧客接点だけでなく、それ以外の社内業務もAIによる効率化が進んでいるようです。 

4. 営業組織では効率が重要視されるように 
(中略)AIのおかげで営業担当者の81%が手作業に費やす時間が短縮され、78%が業務の効率化に役立っていると回答しています。

特にアメリカでは営業におけるAI活用はもはや当たり前で、それに取り組んでいないことがリスクになってしまうような状況にあることをこの記事が教えてくれています。 

ハイテク×ハイタッチの両利き営業が現実のものに 

HubSpot社の予測の中でもう1つ興味深いものをご紹介します。 

5. 営業のさらなるハイブリッド化と対面での商談の重要性 
アメリカの営業担当者の71%が対面とリモートを組み合わせたハイブリッド勤務であり、2022年の45%から大幅に増加しています。(中略) 
ハイブリッドの営業担当者は、対面による営業担当者や完全リモートの営業担当者に比べ、目標達成の割合が28%高くなっています。 
しかし、対面での商談は依然として重要です。ハイブリッド営業担当者の56%が、直接対面が最も効果的な顧客との接点であると回答しています。

コロナ禍以降リモートと対面を組み合わせたハイブリッド型の商談が当たり前になった現在でも、むしろそのような現在だからこそ、顔を向き合わせて話をすることが依然として重要だとのこと。1番目の予測にあったように、専門的なコンサルタントとしてそれぞれの顧客のニーズや状況に合わせた課題解決策を立案することが求められるため、対面で質の高い会話をすることの重要性が再認識されているということだと思います。 

2022年に弊社代表の角川が出した『両利きの営業力』では、AIなどのデジタル活用する顧客に適応するハイテクだけでなく、専門家として顧客の課題解決や購買支援を伴走するハイタッチの重要性を説いています。まさに、この本で述べていたことが2024年に現実になりつつということなのです。 

AI活用も専門家へのスキルアップも避けては通れない2024年 

今回は2024年1回目のブログとして、2024年のB2B営業のトレンド予測をご紹介しました。ご紹介した2つの記事に共通しているのが、奇抜で斬新なコンセプトなどはなく、生成AI活用など今まさに起きている変化に素早く適応しなければ勝ち残れないという強烈なプレッシャー。AI活用も、専門的なコンサルタントとなるためのスキルアップも、避けては通れなくなっているのです。 

トライツブログでは今年もB2B営業・マーケティングの最新トレンドやコンセプト、また日々の営業活動やマネジメントにお役立ちいただける実践的なノウハウについても幅広くご紹介していきます。2024年も一緒にB2B営業について学んでいきましょう 

参考: 
B2B sales 2024: 5 trends that will help sellers overcome the odds」(Grant Smith, The Future of Commerce, December 18, 2023 
HubSpot’s 2024 State of Sales Report: How 1400+ Pros Will Navigate AI & Other Trends」(Maxwell Iskiev, HubSpot Inc., November 1, 2023