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「営業は断られてからが始まり」などと言われるように、商談を進めていると「結構です」「予算が厳しくて・・・」といった「お断り」「No」を聞く場面が何度もあります。そのような「No」にめげずに活動を続けないといけないのですが、経験が少ない担当者は顧客からの「No」をストレスに感じてしまうもの。特に、面と向かって叱責されたり批判的な意見を受ける経験が減っている最近の若手にとっては、「営業職離れ」の1つの原因になっているようです。

そこで今回は、顧客から「No」と言われてもストレスを感じ過ぎずに自信を保てるようにするための、営業マネージャーの部下指導法についてご紹介します。やるべきことをやっている部下を、顧客からの「No」で過度に落ち込ませないようにするためにどうしたらよいのか、一緒にみていきましょう。

顧客からの「No」をメンバーの成長につなげる5つの指導法

今回ご紹介するのは、特に人材育成の面から営業変革をサポートしているTransformed Sales社の代表、ウィズリーン・ウィテカー氏がSales HackerというB2B営業向けの情報サイトに寄稿した「Embrace Rejection in Sales: 5 Ways to Use “No” to Grow」(顧客からの「No」を受け入れて、成長につなげる5つの方法)。顧客から「No」と言われた営業担当者が過度に落ち込まず、前向きに仕事を続けられるようにするための、営業マネージャーの指導法がまとまっています。記事を抜粋すると以下のようになります。

1. 顧客からの「No」の受け止め方を教える
「No」を絶対的な拒否ではなく、顧客から提供された情報として受け止め、その理由を顧客に確認してフォローする。

2. 失注商談を分析する
「No」の背後にある本当の失注理由を分析する。メンバーが理解していない場合は、商談をしていたその顧客にヒアリングして確かめさせる。

3. データ化して成長に活用する
チームで失注理由を集計し、どのプロセスで多く失注しているかを確かめ、その原因に対して手を打つ。メンバー個人の内省だけに頼らず、チームでデータを活用する。

4. 次の商談に集中させる
「営業の仕事は、適切な見込客から受注することであり、不適切な見込客から受注を取り付けることではない」ことをメンバーに理解させる。

5. 勝利を祝って報酬を与える
メンバーの成功を祝い、必要な時に思い返して前向きな気持ちになれるようにケアする。

5つの中に「分析」「データ化」という項目が2つも入っているのがアメリカ的ですが、それ以外は日本のB2B営業でもまったく違和感のない、納得の内容ではないでしょうか。

根底にあるのは「顧客からの『No』の受け止め方」のリフレーミング

この5つの指導法、特に1番目の「顧客からの『No』の受け止め方を教える」の根底にあるのが、顧客からの『No』を「メンバー個人の人格や存在そのものに対するもの」ではなく、「製品や提案内容、その時の顧客の状況などに対するもの」だと認識してもらおう、というもの。ウィテカー氏はこの記事に寄せられたコメントに対する返信で、以下のようにコメントしています。

「No」を自分個人に向けられたものだととらえてしまうと、それを受け止めて乗り越えるのは困難です。
顧客は多くの場合、製品や提案に対して「No」と言っているのであって、私たち個人を拒否しているのではありません。

これらの内容は営業を長くやっている人には当たり前の話なのですが、営業経験が浅いメンバーは顧客からの「No」を自分自身に対してのもののように受け取ってしまい、過剰に傷付いてしまいます。

物事についての考え方を変換することをリフレーミングと呼びます。顧客からの「No」のような出来事に対する受け止め方を変えて、メンバー自身が傷付きすぎることなく、前向きに顧客との商談を続けられるようにしようという思想が、先ほどの5つの指導法の根底にあると思うのです。

最近主流になってきている「顧客中心営業」「コンサルティング営業」という文脈で、顧客からの「No」をリフレーミングすると、「顧客が自分たちだけでは購入プロセスを前に進められなくなり、支援を求めているサイン」ということになります。顧客からの「No」をメンバーがこのように変換できるようになれば、過度に気に病まずに前向きに顧客の課題解決に取り組めるようになりますね。

もう1つのリフレーミング法「顧客の『No』は、顧客が自らのストーリーを語る合図」

この、顧客からの「No」のリフレーミングの仕方について、もう1つの面白い考え方をご紹介したいと思います。

それは、昨年アメリカで開催されたOutbound2022の中で、ストーリーを使った営業手法「ストーリー・セリング」の第一人者であるベルナデッテ・マクレランド氏の「What‘s Your Story」という講演。この中の一節に「Objection is a buyer’s story」というものがありました。

手短にその内容をまとめると、顧客からの反論(Objection)は顧客が自らのストーリーを語る合図なので、「No」と言われたらその理由や背景、つまり顧客のストーリーをしっかりと聞き出して、それが「購入」「顧客の課題解決」というハッピーエンドになるようにシナリオを顧客と一緒に考えよう、というもの。これも、メンバーが自分自身に「No」と言われたと感じずに、顧客の背景を理解して一緒に課題解決することを促す、よくできたリフレーミング方法だと思います。

リフレーミングする前の日本ならではの注意点

と、ここまで「顧客からの『No』をメンバー個人に向けたものとして受け止めないようにする」という話が続きましたが、「その営業担当者に向けられている『No』はどうするんだ」と思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

打合せに遅れてきたり、いつまでも返事を返さなかったり、商品や顧客のことを理解していなかったりする担当者に対して、顧客が「No」ということは当たり前にありますが、これまでご紹介してきたウィテカー氏の記事やマクレランド氏の講演では、そのような担当者は対象に含まれていません。これは、そのような営業としての基本ができておらず、それを直そうとしない担当者は、成果が挙げられないためアメリカではすぐに解雇されたり、給料が下がって自発的に辞めたりするので、短期的には問題になるものの、中長期的な問題として残らないということが理由だと思います。

一方で日本の場合は、そのような担当者に対してもしっかり指導して戦力化することがマネージャーの役割となっています。そのため、アメリカ式の「顧客からの『No』をメンバー個人に向けたものとして受け止めないようにする」の前に、日本では「顧客からの『No』がメンバー個人の問題についてのものなのか、製品や提案、顧客の状況に対してのものなのかをしっかりと見極める」ことが必要になります。

顧客からの「No」を適切に理解できるように指導して、営業活動の改善につなげよう

現代の若い世代には、面と向かって叱られたり厳しい指導を受けたりする経験が少ない人が多く、顧客からの「No」のような批判的な意見への耐性が身についていないため、自分には問題がない場合であっても過度に傷付き、営業の仕事に対するモチベーションが下がってしまうことがあります。

マネージャー側も基本ができていないと、ついそちらばかりが気になってしまいますが、感情的にならず、顧客の『No』を冷静に分析し、本人にとっても顧客にとっても次につながるようにアドバイスすることが、日本のマネージャーの大事な役割になっていると思います。その難しい役割を果たすために、今回ご紹介したリフレーミングの仕方を参考にしていただければと思います。

参考:
Embrace Rejection in Sales: 5 Ways to Use “No” to Grow」(Wesleyne Whittaker, CEO & Founder of Transformed Sales, Sales Hacker, February 16, 2023)
「What‘s Your Story」(Bernadette McClelland, Founder of The StorySELLING Philosophy, Outbound 2022)