この記事を読むのに必要な時間は約 12 分です。

2021年も12月に入り、TVや雑誌では2022年の予測や展望が特集される時期になりました。例えば、日経トレンディの2022年ヒット予測ランキングの1位は、スマホなどにダウンロードして移動することで勝手にマイルが貯まる「Miles」と「ANA Pocket」だそうです。特に「Miles」は情報番組でも頻繁に取り上げられていますので、聞いたことはあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

2022年の予測が発表されているのはB2B営業の世界でも同じで、様々な調査機関やメディアが2022年のB2B営業がどうなるかを予測し、そしてそこで働く私たちに何が必要なのかを論じています。そこで、今回のトライツブログでは海外の最新記事を参考にして、2022年のB2B営業に求められるものが何か、それを身に着けるためにどうすればよいのかを、一緒に考えていきましょう。

2022年以降もコロナ前には「もう戻らない」

今回ご紹介するのは、B2B営業の変革に焦点を絞った英国のオンライン雑誌サイト「the International Journal Of Sales Transformation」の最新記事2つ。それぞれ別の筆者が2022年のB2B営業に必要なことを記しているのですが、偶然ながら面白いつながりを見つけましたのでご紹介します。

1つ目の記事は「No Going Back : What should B2B sales leaders be prioritising in 2022?」(もう戻らない:2022年にB2B営業リーダーは何を優先するべきか)。それでは早速、記事の中身を見ていくことにしましょう。

2022年に向けて、営業組織は激動の2年間を抜け出しつつあります。(中略)しかし、この2年間でB2Bの購買行動の変化が加速しています。複雑な商品・サービスを購入する場合であっても、デジタルやセルフサービスで進めるのが効率的だという考えを顧客が当たり前に持つようになっています。そのため、「昔の営業の方が良かった」と言う人がどれだけいるとしても、「パンデミック前の古き良き時代」に戻ることはできないのです。

「もう戻らない」という記事のタイトルから何となく予想がついていたかと思いますが、コロナによって加速した購買活動のデジタル化が後戻りすることはない、というのが記事の主なメッセージです。

確かに新規感染者の数や重症者の数が低く抑えられている日本であっても(2021年12月上旬時点)、在宅で勤務している方は大勢いらっしゃいますし、多くの会議はTeamsなどのオンラインのままです。これは単純に感染予防というだけでなく、通勤や客先への移動の時間を使わずに、また会議室という物理的な制約に縛られずに、無駄なく便利に打合せができるというメリットを、多くの人が感じているということでしょう。このことからも、コロナが世界的に終息しても私たちの働き方、そして企業の購買活動が完全にコロナ前に戻ることはない、というのは極めて妥当な考えだと思います。

2022年以降に求められるB2B営業になるために大事な「考え方」

記事では続けて、2022年以降のB2B営業に求められる要素を2つ挙げています。

1. デジタルにおける有能さ:2022年以降の営業担当者は、デジタルに精通し、リモートと対面を併用するハイブリッドな営業活動に使いこなし、テクノロジーを効果的に活用できる必要があります。しかも、これらの変化に迅速に適応し、常に学び続けなければならないのです。

2. 顧客の購買コンサルタント:営業担当者には、自社の商品・サービスを宣伝するだけでなく、顧客の購買プロセスを促進する役割が求められるようになっています。(中略)ただ情報を提供するだけではなく、顧客が互いに矛盾を抱えている大量の情報を処理して、自分たちの意思決定に自信を持てるように支援する能力が必要になっているのです。

そして、この2つの要素を持つ営業担当者が集まった組織にするために、一番大事なのは年齢でなく、「その人の考え方」だと述べているのです。大学でコンピューターを専攻した実績でも、今現在身に着けているスキルでもなく、その人が新しいデジタルツールや営業手法を抵抗なく試すことができ、常に学び続けることを苦としない。そして、顧客の中に入り込んで購買活動を支援することを面倒くさがらず、むしろやりがいを感じられる。このような「考え方」を持っているかどうかが、現在求められる営業担当者を見極める一番の手がかりだというのです。

2つ目の記事でも重要視されている「考え方」の変化

この「現在求められる営業担当者に一番大事なのは、その人の考え方」というメッセージは、次にご紹介する2つ目の記事にも共通しています。2つ目の記事のタイトルは「In the bold new world of sales, a mental shift is required」(新時代の営業に求められるマインドシフト)というもの。どういうものか続けて見ていきましょう。

以前は、顧客にアプローチする最も効果的な方法は電話や対面での商談でした。しかし、今では人々は電話をかける時間が少なくなり、出張も大幅に減っています。Showpad社の最近の世論調査によると、B2B営業担当者の大多数は電話や対面での商談がすぐに再開されることはないと予想しています。

この記事でも、コロナ前の営業活動のやり方にはすぐに戻らない、と述べています。そしてデジタルツールを使ったハイブリッドな営業活動に移行するために必要なのは、考え方の変化、マインドシフトだと述べているのです。

現在の顧客を満足させられるようになるためには、新しいテクノロジーを使えるようになるだけでは不十分です。新しいハイブリッドな営業環境へ私たちがスムーズに移行するためには、マインドシフト、つまり態度や行動の根本的な変化が必要なのです。

自らの行動で自らの考え方に変化を起こす「認知的不協和」の活用

このようにデジタルというこれまでにない新しい道具が普及し、パンデミックという大きな出来事があった後、営業に一番大事なのは「考え方」であり、それに向けてのマインドシフトだというところで、この2つの記事は全く異なる人が書いているにも関わらず、前提としている考え方がまったく同じ。そしてさらに2つの記事の内容が奇跡的に1つのストーリーとしてつながっているという面白いことが起きていたのです。

それでは、どのようにすれば私たちはマインドシフト、考え方の根本的な変化を起こすことができるのでしょうか。残念ながら2つの記事のどちらにも、どのようにすれば考え方を変化させられるかについては書いてありません。「なぜ変化が必要なのか」「どんな変化が必要なのか」は明確になっているのですが、肝心の「どのようにすれば変化できるのか」の答えはまだ見つかっていないというのが実態なのでしょう。

今までとはまったく違う考え方へと変わるにはどうすればよいか。この難解な問いへの私なりの答えは「まず新しいことをやってみよう。そしてそれを繰り返し、何度もやってみよう」です。2022年に求められる営業になるために、MAなどの新しいツールを使ってみる、顧客の関係者が集まる社内打合せの場への同席をお願いしてみる、というように身に着けたい考え方に合致する新しい行動を試してみる。それを何度も行っているうちに、自ずとそれに合った考えが自分の中で育ってくる、ということです。

以前、自社の都合を優先することが多かった売り込み型の営業から、顧客の購買活動を支援する「顧客中心営業」への転換に取り組んだ営業組織がありました。そこで一番最初に取り組んだのが、顧客がやりたいこと、そしてそれを実現するための課題や意思決定までにクリアすべきことを、ひたすら顧客から聞き出す課題ヒアリングでした。これに時間をかけることで、顧客のことを理解できるようになっただけでなく、この顧客に寄り添っている時間そのものや顧客中心営業という考え方に各メンバーが価値を感じるようになっていったのです。

人間は誰しも、自ら選んで行ったことを、特にそれに時間をかければかけるほど、自分にとって価値があるものだと考えるようになります。これは、心理学で言うところの認知的不協和というもので、人から強制されているわけでなく、魅力的な報酬もないのにやっているのだから、この行動そのものに価値があるに違いない、と思うようになるということです。「まず新しいことをやってみる。それを繰り返し何度もやってみる」ことによって、認知的不協和を意識的に起こし、自分の考え方を目指したい方向に自ら変化させる。だから新しい行動を試してみるのが有効なのです。

顧客に必要とされる存在になるために、新しく試したい行動を考えてみよう

この2年近くのコロナ禍によって、リモートワークやWeb会議などの新しい行動を、最初は半ば強制的にそして今ではほぼ自発的に私たちは何度も経験してきています。結果として、この経験に価値を感じた人は今でも積極的にリモートワークやWeb会議を活用し、効率的にそして快適に仕事をしています。「考え方の根本的な変化」や「マインドシフト」などと言うと一見難しそうですが、実はこの2年間で私たちが経験していることでもあるのです。

2022年以降に求められるB2B営業の姿として、今回ご紹介した記事の中にいくつものキーワードが出てきました。「デジタル/テクノロジーの活用」「ハイブリッドな営業活動」「顧客の購買プロセスのコンサルティング」そして「常に学び続ける姿勢」。これらを身に着け、さらに伸ばしていくために皆さんはどんなことを新しく試してみたいでしょうか。これは、現在そして2022年以降も顧客からより必要とされる存在になるために、私たち全員が考えなければいけない冬休みの宿題なのだと思うのです。

参考:
No Going Back : What should B2B sales leaders be prioritising in 2022?」(Bob Apollo, the International Journal Of Sales Transformation, 26 November 2021)
This Time It’s Personal! : In the bold new world of sales, a mental shift is required」(Iain Masson, the International Journal Of Sales Transformation, 26 November 2021)