この記事を読むのに必要な時間は約 12 分です。
リスキリング(学び直し)が、多くの企業で導入されています。ユナイテッド社による「企業のリスキリング実施に関する調査」によると約7割の企業がリスキリングの実施経験または予定があり、特に回答が多かった学習項目は「IT基礎」「ノーコード/ローコード」「データサイエンス」などのデジタル関連スキルだったとのこと。このブログをお読みの方の中にも、実際にこれらの研修を受けたという方もいらっしゃるかもしれませんね。
機械学習がブームになり、Pythonなどのツールも充実するなど、20年前と比べると圧倒的に取っつきやすくなっているデータサイエンスではありますが、まだまだ馴染みにくい分野のよう。書籍が多く発行されたりYouTube等の解説動画も大量にアップされていたりするのですが、実際にスキルを身に付けて仕事で活用しているという人は多くないようです。分析手法を学び、ツールの使い方を教えてもらうことはできるものの、なかなか実際の業務に活かすのが難しいのが実態だと思います。
そこで今回のトライツブログでは、トライツが実際に実施している営業データ分析の取組を題材にして、データサイエンスをB2B営業に取り入れる際に大事なスキルとその身に付け方について考えたいと思います。営業データを分析・活用したいとお考えの方、実践的な分析スキルを身に付けたいもののどうしたらよいか分からないという方は、ぜひお読みください。
営業育成ロードマップを使って組織の育成課題を分析する
ここ数年、特にコロナ禍になってから「営業人材の育成を体系的に進めていきたい」「営業育成のカリキュラムづくりを手伝ってほしい」という相談を頻繁にされるようになりました。営業担当者によってやっていることがバラバラで、営業スキルは学ぶものではなく自分で身に付けるものだという頃もありましたが、今はそうではなくなりつつあります。ジョブ型の議論に代表されるように、業務から属人性を排し、業務要件やそれに必要なスキルを体系的に整理して必要な育成施策を提供する、ということが当たり前になっています。
そのため、「営業育成ロードマップ」というツールを作成・活用することが増えてきています。これは、各企業がこれからの自社の営業担当者に必要なスキル項目を定め、各項目をA~Eといったレベルごとに定義しているもの。下のサンプルのように、縦軸がスキル項目、横軸がA~Eのスキルレベルとなっています。
これを使って半年~1年に1回程度の頻度で、それぞれの営業担当者が自身のスキルを棚卸し、マネージャーが上司評価を付けて面談して次の成長課題とその乗り越え方について話をする、ということをやっています。これを行う直接的なメリットとして各担当者が定期的にスキルの見直しを行い、成長のための意識付けをするというものがありますが、もう1つの大きなメリットがあります。それは、全営業担当者のスキル分布や、前回からのスキルアップの状況を分析することで、組織として必要な営業育成の打ち手が見えてくる、というものです。
- 全体的にスキルレベルが低い(E~Dレベルの割合が多い)スキルは何か
- 部署ごとのスキルレベルの高低差はどのようになっているか
- 育成課題としてチェックしている人が多いスキルはどれか
- 前回から比べてどれだけの人がスキルアップできているか
- スキルアップしている人が多いスキルとそうでないスキルにはどのような違いがあるか
などの切り口から分析することで、組織全体でのレベルアップ、つまり研修などの育成施策が必要なスキル項目が見えてくるのです。
営業育成ロードマップとほかのデータを組み合わせて分析する
また、営業育成ロードマップのデータを他のデータと組み合わせれば、さらに面白い分析をすることができます。
売上実績のデータと組み合わせることで、売上や目標達成率との関連が強いスキルがわかりますし、それを商品分類などの切り口で細かく見ることもできます。ある企業で目標達成率との相関関係が強いスキルを調べたところ、皆が分析前に言っていた「顧客関係構築力」ではなく、「リスクマネジメント力」と「顧客攻略シナリオ達成力」の2つだったということがわかりました。目標達成に至る筋道を考え、想定されるリスクに備えるスキルが大事だということですね。
SFA/CRMなどの営業活動の詳細が分かるデータと組み合わせると、「提案実施」から「見積提示」まで進むなどの営業プロセスごとの進捗成功率とスキル項目の関連を調べることができますし、顧客の企業規模や業種などの切り口ごとの受注率と各スキル項目の関連を見るということもできます。卸向けであれば関係構築力、直販であれば攻略シナリオ作成力、グループ会社向けならプロジェクトマネジメント力というように、対象とする顧客によって受注率との関連性が高いスキルが異なる、というのは多くの企業で見られるものです。
また、研修などの育成施策をだれがいつ受講したかというデータと組み合わせると、スキルアップにつながっている研修とそうでない研修がわかるなど、研修効果の測定といったことも可能になります。ある企業で分析したところ、研修を受けたことで自身の課題を改めて認識したため、その直後で逆にスキルレベルが低くなったということがありました。必ずしも、研修をしたら関連するスキルのスコアが上がる、という単純なものではないのです。
このように、営業育成ロードマップのデータは、他の営業関連のデータと組み合わせて切り口を色々と工夫することで、様々な活用ができるのです。
データ分析に欠かせない「仮説検証力」
営業育成ロードマップだけに限らず、複数のデータを組み合わせたり分析の切り口を工夫したりすることで何が言えるのか、どんな面白い洞察が見つけられるのかを考えるのが、データ分析の醍醐味の1つだと私は思います。とは言え、この「組み合わせるデータや切り口を工夫することでどんな意味が抽出できるかをイメージする」というスキルのハードルが意外と高く、それこそ一昔前の営業スキルのようにデータ分析の専門家個人の中で「ブラックボックス化」されているため、冒頭で述べた「分析の手法は習ったけど、実際の業務で試せない」人の多くがここでつまづいてしまっているのです。
「組み合わせるデータや切り口を工夫することでどんな意味が抽出できるかをイメージする」スキルについて話をしていると、「それはデータの『解釈力』のことですか」という質問をよくされるのですが、まったく別のものです。データ解釈とは、出てきたデータから何が言えるのかを考えること。ここで述べているスキルは、「○○という意味を抽出するためにはデータがどうなっている必要があるかを考える」というものなので、データ解釈力とは考える順番が逆向きになっています。
このスキルを一言で言うならば「仮説検証力」となるでしょう。「組み合わせるデータや切り口を工夫することでどんな意味が抽出できるかをイメージする」スキルは、「抽出したい意味や洞察を仮説として設定する → それを検証する方法を設計する → 検証を実施する → 得られた意味や洞察を具体化する」という、仮説検証の流れそのものなのです。
冒頭で述べた、分析手法やツールの使い方は学んでも、なかなか実際の業務でデータ分析に取り組めないというケースは、この仮説検証力がデータ分析をやろうとする人にとってのハードルになっている、というのが原因となっているのだと思います。ちなみにこの仮説検証力は、データサイエンティスト協会が定めるスキル体系の中では「意味合いの抽出・洞察」と「アプローチ設計」の2つに分けて定義されています。それぞれがどういうスキルか知りたい方は、こちらをご覧いただければと思います。
仮説検証力を高める3つのプロセス
では、どうすればこの「仮説検証力」を身に付けることができ、実際の業務の中でデータ分析を色々と試せるようになるのでしょうか。私のこれまでの経験上、このスキルを身に付けるには3つのプロセスが必要だと考えています。
1つ目は、営業に関するデータとしてどのようなものがあるかを調べ、実際にデータに目を通しながら仮説の種を見つけること。分析結果として価値が高いのは、「今まで考えてもいなかったつながりを見つける」と「今まで当たり前だと思っていたことが違うとわかる」というものです。そのため、データを見ながら「もしかしたら関連性があるのでは?」「もしかしたら関連性がないかも?」と、変数同士の組み合わせをできるだけ多く頭の中で試してみます。
2つ目は、そこで少しでも「何かありそうだ」と感じたら、Excelなどの簡単なツールを使って実際に手を動かしてみることです。ピボットテーブルで集計してみる。グラフで散布図を描いて分布の形状を確かめてみる。なんでも良いのでひとまず手を動かしてデータを視覚的に解釈できる状態にします。
そして3つ目は、集計した表やグラフが表していることを言葉にしてみること。何度も手を動かしているうちに、自分たちの営業の常識とはちょっとズレた表やグラフが出来ていることがあります。そのようなときに、表やグラフは一体何を表現しているかを考えて文章にし、それが自分たちにとってどれだけ斬新で奇抜な意味・洞察なのかを評価するのです。
そして一番大事なのが、この3つのプロセスを納期と報告先がある実際の業務の中で試してみること。業務改善の場や、年1回の部内プレゼンテーションの場など、なんでもOK。報告する相手がいて、納期が決まっているというプレッシャーの中で分析結果をアウトプットする場面に、自ら手を挙げて挑戦してみましょう。このような経験を重ねていくことで、仮説検証の流れを体験し、社内にあるデータをどう組み合わせれば価値のある意味や洞察を抽出できるのかを、イメージできるようになるのです。
データ分析が必要な仕事を自ら進んで「やってみよう」
データサイエンスと言うと、Pythonなどの言語を用いて機械学習などの複雑な手法を駆使するものだと思いがちですが、そうではありません。Excelには「分析ツール」という標準アドインがあり、それだけでもデータ分析の基本的な部分はカバーすることができます。私たちがデータを分析するのは新しくて高度な分析手法を発明するためではなく、意味や洞察を日々の営業活動に還元するためで、その目的を満たすためにはExcelでやれる分析で十分です。難しい分析ができることよりも、今あるデータをどう組み合わせたら価値のある意味や洞察を抽出できるかを考えられるスキルを持っていることの方が、ビジネスの場でデータ分析に取り組む私たちにとって遥かに大事なことなのです。
そのためにはまず、データ分析が必要になりそうな仕事を自ら進んで引き受けてみる。そして、社内にあるデータを見ながら、とりあえず手を動かしてみる。AUのCMに使われている、WANIMAというアーティストの歌ではありませんが、「やってみよう」と自ら動くことによって、データ分析に必要なスキルが身についていくのだと私は思います。
☆Excelを使ったデータ分析の手法については、以下のトライツブログを参考にしてください☆
「Excelで!関数もVBAもなし!マウス操作だけの簡単SFAデータ分析(前編)」
「Excelで!関数もVBAもなし!マウス操作だけの簡単SFAデータ分析(後編)」