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突然ですが、クイズです。スマホはスマートホンの略称ですが、路線バスや高速バスなどの「バス」は何という言葉の略称でしょうか?

答えは「オムニバス」。複数の歌手の曲を集めたCDのことをオムニバスCDと呼んだりもしますが、このオムニバスという言葉はもともとは複数グループの客を乗せる乗合馬車のことで、それが現在私たちが使っているバスへと変化したのです。よくクイズ番組で出される問題なので、聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

このように「複数の」という意味を持つ「オムニ」で始まる言葉に、オムニチャネルというものがあります。例えばリアルの店舗とオンラインショップを組み合わせて販売するなど、複数のチャネル(経路)を組み合わせて顧客とやり取りすることを言います。セブン&アイの総合通販サイト「オムニ7」は、名実ともにリアル店舗とECを融合させるオムニチャネルの例だと言えるでしょう。

今回のトライツブログでは、B2B営業におけるオムニチャネル、つまり対面とリモートやWebを組み合わせた営業活動の広がりについて、海外の調査レポートを使って見ていきたいと思います。リモート営業の強化や、営業へのWebのさらなる活用についてお考えの方はぜひお読みください。

調査レポート①オムニチャネルを使いこなすB2B顧客

今回ご紹介する調査レポートはマッキンゼー社の「Omnichannel in B2B sales」という記事。同社はコロナがB2B営業に与える影響について継続的に調査・レポーティングしており、2021年2月のデータから浮かび上がってきた大きなキーワードが「オムニチャネル」だというのです。どういうことなのか、早速見ていきましょう。

オムニチャネルは単なるトレンドでも、パンデミックの回避策でもありません。世界のB2B営業/購買において非常に重要な要素であることが分かりました。(中略)

対面、リモート、デジタル・セルフサービスというチャネルに対し、購買担当者はすべてのチャネルを利用したいと考えています。B2B購買ではオムニチャネルが主流になっているのです。

「デジタル・セルフサービス」という見慣れない言葉が出てきましたが、これはチャットボットやオンライン見積など、Web上で利用者が自ら操作して情報収集などするものを指します。対面、リモート、デジタル・セルフサービスという3つのチャネル分類の利用率の変化についての、面白いグラフがありましたので併せて紹介します。

上のグラフは、情報収集 → 評価・検討 → 発注 → 継続・追加発注 という購買の段階別のチャネルの利用率を、昨年夏と今年の2月とで比較したものです。3つのチャネルの利用率の変化を見ると、情報収集や評価・検討といった購買の初期段階ではデジタル・セルフサービスの利用率が増え、発注や継続・追加発注といった購買の後期段階では対面の利用率が増えていることがわかります。

これは単に顧客が複数のチャネルを組み合わせて使っているというだけでなく、目的に合わせて使い分けるようになってきている、ということでしょう。情報収集や評価・段階の段階ではレスポンスよく情報が戻ってくるデジタル・セルフサービスの方を使うようになり、複雑な条件を確認・相談したい発注の段階では専門知識を持った担当者と対面で話をするようになる。購買の段階に応じて、より適切なチャネルを選択しているのです。

調査レポート②オムニチャネルで生産性向上するB2B企業

そしてもう1つ、このレポートの興味深いポイントをご紹介します。

オムニチャネルは今後も必要不可欠なものとなります。B2B企業のリーダーの多くが、オムニチャネルによる営業は従来と同等以上の効果があると回答していて、その割合はパンデミック発生当初(2020年4月)の54%から2021年2月には83%へと、急激に増加しています。(中略)

2022年初頭までには、ほぼすべての企業が対面で営業活動をできるようになると考えていますが、今後対面での営業活動を主流にすると回答しているB2B企業は15%しかありません。(中略)

オムニチャネルが購買の新しいスタンダードとなったことにより、B2B企業の64%が今後リモートと対面の両方を使いこなすハイブリッド型の営業担当者を増やすと回答しています。

この記事を読んだときに、B2B営業/購買でのオムニチャネルの潮目が変わったことを強く感じました。以前のオムニチャネルは、ロックダウンなどの感染症対策のためにやむなく取り組んでいたものだったのですが、今やそうではありません。顧客が複数のチャネルを使い分けるようになり、それに対応してオムニチャネル化することで営業の生産性が向上しており、オムニチャネルを今後も継続しようとしているB2B企業が大多数を占めるようになっているのです。

ちなみに、このオムニチャネル化と営業生産性のデータは国別でも集計されており、日本でも回答者のうち83%が従来と同等以上の効果があると回答しています。ただし、最高スコアである「従来よりはるかに効果がある」が6%しかなく、全世界平均の24%を大幅に下回っているため、日本のB2B企業においてはさらに伸ばす余地があるとも言えそうです。

今のオムニチャネルから前に進めるために

ここまで、マッキンゼー社の最新レポートを使ってB2B営業/購買でのオムニチャネルの広がりを見てきました。ポイントをまとめると以下の3つとなります。
1.顧客はさまざまなチャネルの特性を学習しており、より効率的に購買を進められるようにチャネルを使い分けている
2.顧客の購買のオムニチャネル化に対応することによって、多くのB2B企業の営業生産性が向上している
3.そのためB2B営業/購買のオムニチャネル化は今後も継続・強化される

改めて整理するとハードルが高いと思われるかもしれませんが、程度の差はあれど既に私たちはオムニチャネルで営業活動をしています。顧客はWebで検索などをして企業のWebページにたどり着き、その中のサービス/事例の紹介ページやブログ記事などを読み、お問合せフォームやメールを使って相談してくる。営業担当者その相談を受けてTeamsやZoomなどのWeb会議システムで打合せを行い、必要なタイミングがあれば対面で話をする。これはまさにオムニチャネルであり、最初の緊急事態宣言が出てからおよそ1年の間で、このような商談を経験された方は多いのではないでしょうか。

ただ、今回のレポートで記されているオムニチャネルは、上に書いたものよりも2つの意味で進んでいます。

1つは、結果的にオムニチャネルになるのではなく、顧客の購買活動に応じてWebサイトなどで提供する情報を整理したり、興味関心が高いであろう顧客にコンタクトできるしかけを用意するなど、意図的に最適なオムニチャネルで購買/営業が進むような設計ができているということ。そして2つめは、その設計されたオムニチャネルで購買/営業を進めることで、以前よりも営業生産性が向上しているということです。

今後も継続するオムニチャネル購買/営業という環境で勝ち残るためには、この2つを実現しなければならない。そこが今回ご紹介したレポートが私たちに突き付けている課題なのです。

これからの選択肢は「うまく設計してやる」「場当たり的にやる」の2つ

レポートにあったように、これからのB2B営業の多くではオムニチャネルは単なるトレンドや感染症対策ではなく、当たり前の営業活動となることでしょう。そのため、私たちにはオムニチャネルをやる/やらないという選択肢はありません。Webページを作るのが当たり前になったように、またTeamsやZoomで打合せをするのが当たり前になったように、当たり前にオムニチャネルで営業活動をしなければならないのです。

ただ、その先に大事な選択肢が残されています。それぞれのチャネルについて学習して使い分けるようになった顧客に満足されるように、そして自社にとって生産性が高くなるようにうまく設計してやるか、それとも場当たり的にやるか、です。今回ご紹介したマッキンゼー社のレポートは、オムニチャネルに取り組んでいる私たちに改めて本気度を問うているのだと私は思うのです。

参考:「Omnichannel in B2B sales: The new normal in a year that has been anything but」(McKinsey & Company, March 15, 2021)