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早いもので今年ももう12月。NHK紅白歌合戦の出場歌手が発表され、年賀状のTVCMが始まるなど、激動の2020年もいよいよ年の瀬です。

春先からの新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中の人々の暮らしや働き方が一変し、企業の購買活動も様変わりしました。

今回のトライツブログでは、最新のレポートを使って「様変わりしたB2Bの購買活動の実態」をデータで確かめてみます。顧客の購買活動がどのようになっているのか、それに対応するために私たちに何が求められているのか、早速確認していきましょう。

調査レポート:新型コロナでB2Bの購買活動はどう変化したか

今回ご紹介する調査レポートは、B2B向けのテクノロジー/システムのレビューサイトを運営している米国テキサス州の企業TrustRadius社が最近発表した「The 2021 B2B Buying Disconnect」。B2Bの購買活動のうちテクノロジー/システムに限定されているという条件付きではあるものの、私が調べた限りでは新型コロナによるB2B企業の購買活動の変化について詳しく調査している世界初のデータです。

まずは、変化の背景となっているB2B購買担当者のリモートワーク状況についてのデータから見ていきましょう。

この調査を行った2020年9月時点では54%が完全に自宅で勤務しており、これに「ほぼ自宅で勤務」18%を足すと、7割以上の購買担当者が自宅を中心とした勤務を続けているということになります。かなり高い割合で在宅勤務が継続していることが分かります。

調査結果:半分の企業で購買額が減少し、購買に要する時間が増えている

それでは、2020年のB2Bの購買はどう変わったのでしょうか。まずは、テクノロジー/システムの購買金額への影響度合についてです。

上のグラフの左側2つの要素を足すと、およそ半分(49%)の企業で購買が減少していると回答しています。その一方で3割近く(27%)の企業で購買が増加しており、決して減少一辺倒というわけではないようです。

また、購買の金額だけでなく、購買の仕方も大きく変わっています。購買に要する時間についてのデータをいくつか抜粋してご紹介します。

57%のベンダー企業が「パンデミック前よりも取引サイクルが長くなっている」と回答している
(「変わらない」25%、「短くなっている」19%)

33%の購買担当者が「パンデミック前よりも製品の調査に費やす時間が増えた」と回答している
(「変わらない」45%、「減った」19%)

35%の購買担当者が「パンデミック前よりも投資対効果の精査に費やす時間が増えた」と回答している
(「変わらない」47%、「減った」10%)

このようにそれぞれの購買において、慎重に時間をかけてチェック/検討してから判断している様子がうかがえます。この「以前よりもさらに慎重に時間をかけて購買している」という傾向は、別のデータにも反映されています。

2020年のB2B購買担当者は、平均して6.9の情報源で調べてから購買を行っている
(前年の情報源数は5.1であり、前年から35%増加)

このように、購買のために利用している情報源の数が増えていることからも、以前よりもさらに慎重に時間をかけている様子が見て取れます。実際に購買担当者が利用している情報源の内訳/比率は下のグラフの通りです。

グラフの左から4つめの要素として「営業担当者」が入っています。16個ある要素のうち上から4番目なので、悪くない位置に付けているようにも見えますが、テクノロジー/システムの購買においては営業担当者は数ある情報源のうちの1つに過ぎず、57%の購買担当者は営業担当者を情報源として利用せずに購買活動をしている、ということでもあるのです。

調査結果:営業担当者との接触が減り、セルフサービス化を求める顧客

また、レポートの中には、以下のようなデータもあります。

26%の購買担当者が「パンデミック前よりも営業担当者との会話に費やす時間が減った」と回答している
(「変わらない」44%、「増えた」24%)

B2B購買担当者の87%が、購買の一部またはすべてのセルフサービス化を希望している

B2Bベンダーの67%は、現在何らかのセルフサービスを提供している

これらのデータと先ほどの購買に要する時間についてのデータを組み合わせると、B2Bの購買活動の変化の大筋が以下のように見えてきます。
「B2Bの購買はパンデミックによって長期化・複雑化(情報源が多様化)しているが、購買担当者はそれについて営業担当者に頼ろうとするのではなく、むしろその反対に、購買活動のセルフサービス化で解決しようとしている」

購買活動のWeb化という時代の潮流をさらに加速させた今回のパンデミック。これに対し、各企業はWebでの情報源の拡大やセルフサービスの導入で購買担当者の要望に応えてはいるものの、営業担当者の存在価値を作り出せていない/伝えられていない、という大きな課題が浮かび上がってきているように私は感じました。

調査結果:2021年のB2Bテクノロジー支出は回復傾向

話は変わって、2021年のB2B購買はどうなるのでしょうか。レポートの中では決して暗くない数字が紹介されています。

2021年のテクノロジー/システムの購買水準について、パンデミック前と同等以上に戻りそうだと回答しているB2B購買担当者が56%おり、手放しで安心できる状況ではないものの勇気づけてくれるデータではないでしょうか。

調査データから見えてきた今後のB2B営業が辿る3つの物語

ここまで、TrustRadius社のレポートのポイントとなる部分を駆け足で見てきました。米国のB2B向けテクノロジー/システムの購買に限ったデータではありますが、おおよその傾向は見えてきたのではないでしょうか。

2020年は、約半数の企業で購買額が減少しているものの、一部では増加も見られる

2020年の購買活動は、これまで以上に長期化・複雑化が進んでいる


情報源が多様化する中で、営業担当者は顧客にとって有力ではあるが数ある情報源の1つとなっており、接触時間はわずかに減少傾向である


2021年は、半数以上の企業で購買額がパンデミック前と同等以上に戻ると予測されている

このレポートの中で私が気になっているのは、営業担当者が購買担当者の情報源の1つとなっており、購買活動が長期化・複雑化する顧客にとっての存在価値を作り出せていないのではないか、という部分です。

この問題提起から、これから多くの企業ではじまる物語の結末には、大きく分けて3つあると思います。

1つめの結末は、購買活動のWeb化・セルフサービス化がさらに進むものの、それに対応できずに他社に後れを取ってしまう、というもの。

2つめの結末は、購買活動のWeb化・セルフサービス化に対応することにより、顧客は営業担当者をほとんど介することなく購買活動を進めるようになって、今いる営業担当者の多くが別の業務に従事している、というもの。

そして3つめの結末は、購買活動のWeb化・セルフサービス化が進む中において、顧客にとっての営業担当者の存在価値を再発見でき、多くの営業担当者がWebマーケティングやAI等によるセルフサービスと共存している、というもの。

このうち、2つめの結末に至る企業は、さらに2つのタイプに分けられます。1つは、自らWeb化・セルフサービス化を推進して意図的に省人化したという、意図した通りの結末となった企業。もう1つが、営業担当者の存在価値を見つけられずに3つめのシナリオから離脱してしまい、結果的に省人化せざるを得なくなったという、意図せずして2つめの結末を迎えた企業です。結末だけを見るとほぼ同じなのですが、登場人物の幸福の度合はずいぶんと異なります。

これから自社の営業が歩む物語を考えてみよう

新型コロナによってB2B購買のWeb化・セルフサービス化が加速している現在、今回ご紹介したレポートはB2Bの購買活動が大きく変化していることを示しているだけでなく、私たちの営業組織はこれからどの物語の登場人物になりたいのかを問うているものでもある、と私は考えています。

Web化・セルフサービス化という世の中の流れに対応できずに、取り残されてしまうのか。Web化・セルフサービス化を積極的に進めて、人を介在しない営業へと変化するのか。そのような状況下でも営業担当者ならではの存在価値を再発見し、Webやセルフサービスと共存する営業となるのか。はたまた、それに失敗して結果的に人を介在させられない営業となってしまうのか。これらの物語の結末の中から、自社の営業の将来像としてどれを選ぶのかを考えなければならない。そのタイミングが間近に迫ってきていることを教えてくれているのです。

2020年は多くの人にとって今までにない、大変な1年だったと思います。しかし、B2B購買/営業において新型コロナによって加速させられたこの変化は、今後も継続することでしょう。この変化が継続する中で、私たちの営業をどのようにしていくのか。先ほどご紹介した物語の中からどれを選択するのか。2021年を目前にした今、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

参考:「The 2021 B2B Buying Disconnect」(TrustRadius Inc., November 10, 2020)