この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。
新型コロナウイルスにより、私たちの生活と仕事は甚大な影響を受けています。3月下旬に米国のB2B企業で働く会社員を対象に、Cascade Insights社が実施した調査では、半数以上がウイルスにより事業に「壊滅的な被害」または「中程度の被害」を受けたと回答しており、中でも営業部門では3分の1以上が「壊滅的な被害」を受けていると回答しています。これは、マーケティングやIT、製造など他のどの部門よりも高い数字になっています。
日本でもとうとう緊急事態宣言が発表され、さらに仕事の環境や進め方を非常時寄りに変えていかなくてはならない、という方も多いことでしょう。緊急事態となった今、営業部門として何をすべきなのか、海外の調査レポートをヒントにして考えてみたいと思います。
海外調査レポート①:新型コロナウイルスが世界経済に影響を与える期間と規模
日本より早く非常事態宣言が発令され一部地域で都市封鎖が行われている米国では、冒頭で紹介したデータのようにB2B営業が深刻な打撃を受けています。ただその中でも、やがて来る経済の回復期に向けて、今やるべき対策を挙げているレポートがありますので、簡潔にご紹介いたします。
Sales Hacker社のレポート「Keep Your B2B Sales & Sanity Intact During the Coronavirus Outbreak」は、マッキンゼー社の調査レポート「COVID-19: Implications for business」をもとに、新型コロナウイルスが世界経済に与える影響についての3つのシナリオのうち、最も確実性の高い3つ目のシナリオを紹介することからスタートしています。
シナリオ3:世界的なパンデミックと景気後退
・第2四半期の半ばには、集団発生の封じ込めに進展が見られていますが、ウイルスは他の国々へと広がっています
・依然として不確実性が高いままのため、消費マインドと需要のレベルは低いままです
・2020年末まで渡航禁止が継続され、航空産業と観光産業は機能停止しています
・景気後退と消費マインド低下により経済は大きな被害をこうむります
2020年の第1四半期に危機を脱却して第3四半期には需要が回復する「シナリオ1」でも、第2四半期にウイルスの増殖が停止して第4四半期には正常化する「シナリオ2」でもなく、より影響が長期化する先述の「シナリオ3」を歩む見通しが高いため、現在の状況をやり過ごすのではなく、それに適応しなければならないとレポートでは述べています。
ではB2B営業として今の状況に適応するとは、どういうことなのでしょうか。レポートには、4つの対策が書かれていますが、日本企業でもすでに取り組みが進んでいる「対面での顧客訪問のデジタル化(SkypeやZoomの利用)」は割愛し、残る3つの対策についてご紹介します。
海外調査レポート②:今の状況に適応する営業の3つの打ち手
新しいコンテンツに投資する
オフラインのイベントをウェビナーにする。既存の長期顧客向けに利用マニュアルを更新ファイルを作成する。LinkedInやSNSを活用する。あなたの潜在顧客は普段よりもはるかに多くの時間をオンラインで過ごしているため、今までよりはるかに簡単に繋がれるようになっています。(中略)。視野に入る状態を保つ
この状況で一番やってはいけないのは、顧客の視野から消えてしまうことです。それをしてしまうと、現在の状況変化が激しいため、一連の騒動が終わったときには見込顧客はあなたのことを忘れてしまっていることでしょう。(中略)オンラインチャネルとインバウンドマーケティングを通じて、常に最新の情報を発信し続けるのです。それにより顧客を維持できるようになり、平常時に戻った時に一緒に仕事をできる相手を見つけられるでしょう。顧客を維持することに集中する
潜在的なB2B顧客は投資に対してより慎重になりさらに自信も失っているため、新規顧客の獲得ではなく既存顧客の維持を最優先にしてください。(中略)現時点での目標は新規に販売することではなく、サポートを示すことです。無料相談などの小さなサポートを提供するのが良いでしょう。あなたの顧客は、必要なタイミングでのサポートを好ましく感じるはずです。
3つの対策をご覧になっていただきましたが、どうでしょうか。「ピンチをチャンスにして売上を増やそう」「危機のときにインバウンドで売上を伸ばす方法」という商魂逞しすぎる記事やメール広告も散見される中で、とても納得できる打ち手だと私は思います。特にオンラインで過ごす時間が増えている既存顧客や潜在顧客の視野に入り続ける、そのために既存顧客/潜在顧客向けのオンラインのコンテンツを強化し、さらに既存顧客とはサポートによって繋がりを維持する、というのはまさに今の状況に適応しかつ将来の攻めにもつながる絶妙な打ち手ではないでしょうか。
今の状況を「やり過ごす」のではなく、「適応し力を蓄える」ことを考えよう
新型コロナウイルスの影響で、私たちの生活と仕事は激変しています。リモートワークが当たり前となり、会議や顧客訪問もデジタル化されています。そして、多くの人が将来の不安を感じながら長い時間をオンラインに繋がった状態で過ごしています。リアルタイムでこの記事をお読みの皆さんもきっと同じ境遇でしょう。
そして残念なことに、この状態はほんの数週間程度の突発的なイベントではなく、数か月以上続く新たな日常になりそうです。緊急事態宣言が解除されるまでは、今の状況は加速することはあっても180度変わることはないでしょう。そしてコロナ終息後も、通勤の苦労のないリモートワークは一般的な働き方の1種類として定着するでしょうし、そのような人たちでも気兼ねなく出席できるWebでの会議や商談も多くの職場で根付いていくことでしょう。これはアフター・コロナに顧客から求められる営業活動にも大きく影響を与えるはずです。
今のこの状態が例外ではなく新たな日常なのだとすると、自分たちの営業はどう変わらなくてはいけないのか。今使っているZoomなどのデジタルツールを顧客との商談でより活用するためにどうしたら良いのか。潜在顧客が数多くいるオンラインの世界で存在感を高め、自社について興味関心を抱き続けてもらうために、どのようなコンテンツが有効なのか。これらを踏まえて、既存の営業の手法やツールをどのように見直せば良いのか。
今起こっている状況を一過性のものだと見なしてやり過ごすのではなく、これからの新たな日常だと捉えて適応し、アフター・コロナの時期に向けて考え、力を蓄えていかねばならないのです。
皆で知恵を出し合い、力を合わせて頑張っていきましょう。
参考:
「COVID-19: Implications for business」(McKinsey & Company, March 2020)
「Keep Your B2B Sales & Sanity Intact During the Coronavirus Outbreak」(Sales Hacker, March 2020)