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さだまさしの「関白宣言」と西野カナの「トリセツ」。この2曲は、その中身は随分と違いますが、配偶者や恋人に対して「このように振る舞ってほしい」「自分をこう扱ってほしい」という要望を歌ったものだという共通点があります。
このように自分の要望を文章などにしてまとめて伝えることは、ビジネスの世界でも「要件定義」として日常的に行われています。システム構築などの際に要望をまとめたものを「要件定義書」と言いますが、この2曲は家庭生活や恋人関係に対する「要件」を歌にした「要件定義曲」と言えるかもしれません。
この「要件定義」は営業担当者の重要な役割の一つです。しかも、その重要性は益々高まってきています。そこで、今回のトライツブログでは「営業活動の中での要件定義」について考えてみたいと思います。
B2B営業で大事な要件定義
B2B企業の方から「ウチの営業は大変だ」と言う話を耳にします。そこで「何が大変なのですか?」とお聞きすると、「売るまでも大変だけど、売った後が大変だ」というお話になるのです。既製品をただ納品するだけでなく、ITシステムや原材料、中間製品など顧客の要望や環境に合わせて設計したり加工したりということが多く、その対応に営業がかなり手間を取られるようです。
具体的には、
「顧客の要望がちゃんと固まっていないから、ヒアリングをやり直さないといけない」
「使う環境を正確に把握していなかったから、手直しが必要だ」
「そもそも作れないものを受注してしまっている」
ということが、起きてしまっているとのこと。
このようなことが起こる原因は多岐にわたります。例えば、営業と技術のコミュニケーション不足という場合もあるでしょうし、そもそもの商品・サービスの完成度が低いという場合もあることでしょう。しかし、実際にB2B営業の現場を見てきて私が思うのは、営業活動の中での「要件定義」が不十分な場合がとても多いということです。さらに言うならば、そもそも「要件定義は営業の大事な仕事だ」という意識を持っている営業組織が少ないようにも思います。
要件定義という言葉を初めて見たという方のために、簡単に解説したいと思います。
要件定義とは、一般には「商品やサービスを開発するにあたって必要な機能や性能を明確化・文書化すること」を言います。具体的な手順は、
①現状と問題の把握
②問題に関連する前提条件や制約条件の分析と課題設定
③解決策の評価基準の明確化
④解決策の立案
⑤要件のまとめ
というもの。この要件定義が済んだら、それに基づいて商品やサービスの仕様を設計し、実際の製造/開発を行うというのが一般的な流れです。
これは「商品やサービスを開発するにあたって」だけでなく、顧客が「課題を解決するにあたって」と入れ替えても同じことです。「課題を解決するにあたって必要な機能や性能を明確化・文書化すること」は、多くのB2Bの営業活動において、営業担当者がやっていることです。
しかし、多くの営業担当者は残念ながら「結果としてそうなっている」というだけで、そもそも自分が「要件定義」をしているという認識がなかったり、この手順を正しく理解しておらずに顧客から聞いた話を鵜呑みにして突っ走ってしまったりするので、後になってからいろいろな問題が発生し、その対応に手間が掛かってしまうというのが少なくないのです。
営業担当者が参画する要件定義には「アレ」が加わる
しかも、B2Bの営業活動においてはある重要な要素が加わります。それは、
『自社商品・サービスが選ばれやすいようにする』
という自社側の意思・意図です。これがないと単なる奉仕活動になってしまいます。ただ、あまり強引に誘導してしまうと顧客から反発されてしまいますし、本来顧客が解決したかった課題が十分に解決されなくなってしまう可能性がありますので、「自社の商品が売れるように」という条件と「顧客の課題が解決できるように」という条件との間で、ちょうどよいバランスを取らなければなりません。
ここに、営業活動の中での要件定義の難しさがありますし、営業担当者の腕の見せ所でもあるのです。
要件定義は顧客のことを良く知っていればいるほど具体化できる
例えば自宅をリフォームしてウォークインクローゼットを作ろうとする場合を例にして考えてみましょう。
「奥さんの衣類が多くて溢れてきているから、寝室にウォークインクローゼットを作りたい」
これは顧客の要望です。これだけでもよくあるウォークインクローゼットの図面を持っていくことはできます。実はなかなか成果が上がらず苦労している営業担当者の多くがここで躓いてしまいます。
もし、奥さんの趣味が鞄や靴を集めることだとすると、よくあるタイプのものでは置き場所が不足してしまうでしょう。また、これから茶道教室を開きたいという話を聞けていれば、和服をしまえるスペースも考えなければなりません。
このように顧客のことを知っていて、かつそれに必要な機能や性能を具体的に考えることができれば要件を具体化させることができます。そして、顧客も具体的な話になればイメージをわかせることができますし、後になってから「話が違う」とか「思っていたものじゃない」などというトラブルを避けることにもつながるのです。
お願いするのではなく、顧客に選んでもらえるように工夫する
そして、自社のウォークインクローゼットが24時間換気で、湿気対策ができるのが特徴なのであれば、「大切な鞄や靴、和服をカビから守ることができる」という一文を奥さんの要望に加え、自社としての差別化ポイントで相手から選ばれるように要件を定義することができれば、顧客は自然に自社を選ぶ方向で考えていくようになるでしょう。
これが「自社商品・サービスが選ばれやすいようにする」上でとても大切なこだわりポイントなのです。
先にご紹介した要件定義の5つの手順のうち、
②問題に関連する前提条件や制約条件の分析と課題設定
③解決策の評価基準の明確化
④解決策の立案
⑤要件のまとめ
という4つのシーンでこだわりを反映させるチャンスがあります。それぞれで自社の商品が優位になるようなキーワードが含まれるように課題や解決策の表現になるように上手くリードするということです。
要件定義の文章は、広告のコピーライティングと同じ
そして、それを営業担当者が文章化し、まとめたのが提案書です。顧客の現状や要望をもとに課題が設定され、解決策が示されて、要件がまとめられています。
そこに書かれた文章は顧客を自社の購買に向かって動かすものである必要があります。しかも、こちらからのお願いではなく、顧客の「やりたいこと」が基本になっていないといけないので、決して簡単ではありません。
本来であれば、TVや雑誌などの広告で使われるコピー文のようにいろいろなパターンを作り、十分に時間を掛けて検討して選ぶということをやるべきなのです。
我々が現場支援に入った際に営業担当者が作成した提案書をチェックしているポイントはここにあります。それは、その文章の作り方で、顧客の反応が大きく変わるからです。
もしあなたが営業マネージャーで、部下の提案書をチェックしておられるなら、「提案内容が正しそうか」「見やすくまとまっているか」という観点だけで評価するのではなく、顧客のやりたいことを具体化しつつ、自社の方に気持ちが動くような要件定義がしっかりできているかということでチェックしてみることをオススメしたいと思います。
B2B営業のうち売り切り型でない商品・サービスを扱っている場合、要件定義が営業の大事な仕事になってきますし、提案書の中にはその要件を取りまとめた箇所が必要になります。トライツコンサルティングでは、その「要件定義」という観点からも個別の提案書チェックや、あるべき提案書の設計・再構築を支援しています。「営業がしっかり要件定義できるようにしたい」とお考えの方は、お気軽にご相談ください。