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「愛の反対は無関心」などという言葉があります。営業活動でも普段の生活であっても、嫌われるのはもちろん誰もがイヤでしょうが、関心を払ってもらえないのもつらいものです。「嫌われる勇気」という本が一大ブームになってから類似する書籍が数多く出版されている中、「無視される勇気」という本がいまだに世に出てきていないのも「嫌われることはまだ受け入れられるけど、無視されるのだけはいやだ」ということの現れなのかもしれません。

そのように誰もがされたくない無関心ですが、最近「B2B Buyer Apathy Loop」という言葉を海外の調査レポートでよく目にするようになりました。直訳すると「B2B購買担当者の無関心ループ」というもので、その無関心の対象はB2Bの営業担当者だと言うのです。

今回のトライツブログは、今気になる「B2B購買担当者の無関心ループ」と、そこから抜け出すためのポイントについて見ていきたいと思います。

調査レポート:購買担当者が陥る「無関心ループ」とは

B2B営業に特化したアメリカの教育・コンサルティング会社Miller Heiman Groupの調査分析部門であるCSO Insightsの最近のレポート「2018 Buyer Preferences Study」の中に、問題の「B2B購買担当者の無関心ループ」が出てきます。B2B購買担当者が営業担当者に対して無関心を抱いてしまうようになる構造について、レポートでは以下の4つの調査データをもとに解説しています。

商談で、営業担当者が「自分の期待を超えるパフォーマンスをしている」と答えた購買担当者は31.8%で、「期待を超えるパフォーマンスはしていない」と答えた購買担当者が倍以上いる(68.2%)。
自らのビジネスの課題を解決するために好んで活用している情報源をB2B購買担当者に3つ選ばせたところ、「営業担当者」と回答したのは全体の23.0%。

ちなみに、営業担当者は情報源のリストが10個並んでいるうち、ブービー賞の9位でした。営業担当者よりも上位の8項目は、「業界の専門家による記事(43.0%)」「取引先の過去の実績(35.8%)」「取引先のWebサイト(35.4%)」「業界のイベント/カンファレンス(33.6%)」「同僚からの情報(30.4%)」「業界のオンラインコミュニティ(29.8%)」「業界誌(29.2%)」「Web検索(27.2%)」となっており、営業担当者はWeb検索よりも当てにされていないという何とも切ないデータです。

この結果として、営業担当者はなかなか購買担当者から声を掛けられなくなってきている、というのが3つ目のデータです。調査データでは、購買担当者の購買ステージを、①課題の具体化、②解決策の具体化、③解決策の評価、④疑問の解消、⑤交渉、⑥導入の6段階に分けています。

購買担当者の多数派である70.2%は、課題が明確になる(①)までは営業担当者に声を掛けない。
購買担当者のおよそ半分の44.2%は、解決策が明確になる(②)までは営業担当者に声を掛けない。
そして、購買担当者の20.2%は、解決策の評価が終わった以降(④~⑥)でしか営業担当者に声を掛けない。

そして、ようやく購買担当者は営業担当者との商談の場に臨むわけですが、ここでも厳しい調査結果が待ち構えています。

多くの営業担当者は、購買担当者にとってまったく同じように見えている。31.9%の購買担当者は「他社より優れている営業担当者がいることがよくある」と答えているものの、大多数の62.3%は「ほとんど違いがない」「全く違いがない」と答えている。

この4つの調査結果を組み合わせて、調査レポートでは「B2B購買担当者の無関心ループ」が生まれていると述べています。

営業担当者は商談に来るが、自分の期待を上回ることはない
→ 営業担当者のことをビジネス課題を解決する情報源として評価していない
→ 課題を具体化し、解決策を絞り込んでからしか営業担当者とは会おうとしない
→ 複数社の営業担当者と話をしても、ほとんど違いがない
このようにサイクルが回るため、「営業担当者は自分の期待を超えることがない」ということが自己達成予言となってしまっている。

つまり、「もともと期待していない」→「情報源として優先順位が低くなる」→「会うタイミングが遅くなる」→「営業担当者は課題の特定などに立ち戻れず、求められた商品情報を提供するだけで差別化できない」→「やっぱり営業担当者は自分の期待を超えてくれない」という出口のないループに陥っているのだというのです。

無関心ループから抜け出すための4つのポイント

では、このループから抜け出すために何が必要なのでしょうか。
CSO Insightsは、回答者に対して購買の意思決定に役立ったことを多くの購買担当者にインタビューした結果、4つのポイントが浮かび上がってきたと述べています。

1. 自社(顧客)のことを知り、私(購買担当者)を知ってほしい
「業界の課題について必要な情報収集をしてきて、不必要な質問をしてこない営業担当者がいたら大歓迎だ」(インタビュー結果より)

2. 素晴らしいコミュニケーションスキルを発揮してほしい
顧客は全てのタッチポイントで価値を求めている
「これまで営業担当者の強みは話すことであり、聞くことではなかった。だから聞くスキルの高い営業担当者との会話はワクワクする」(インタビュー結果より)

3. 購買後のことにもっと気を遣ってほしい
「ただ自社の商品を売るだけでは不十分だ。顧客の成功にまで継続して関心を持ちつづけてもらう必要がある」(インタビュー結果より)

4. 専門的な知見を提供してほしい
「当初の相談の範囲外であったとしても、価値をもたらすのであれば追加的/代替的な解決策を教えてほしい」(インタビュー結果より)

「無関心ループ」は他人事ではない!

ここまで、かなり長めにCSO Insightsのレポートを抜粋してご紹介してきました。と言うのも、トライツはこの記事で取り上げられている「無関心ループ」がまさに日本のB2B営業の現場でも実際のものとなりつつあると感じているからです。

顧客はWebを使って様々な情報を得られるようになりました。営業担当者に会う前にたくさんの情報を集めており、営業担当者には詳細見積やデモンストレーションなどのWebではどうしても手に入らない情報しか期待しなくなってきています。このような状況下で大事なのが、営業担当者一人ひとりがプロフェッショナルとして価値ある情報を提供して顧客の購買プロセスを支援することであり、自社の商品・サービスの提供を通じて顧客のビジネスを成功させることだとトライツは考えます。

今回のトライツブログを読んで「これは他人事じゃない」と思われた方はぜひ一度、自社の顧客が「無関心ループ」に陥っていないかを振り返ってみてください。そして今回の記事を、無関心ループに陥るのではなく、その反対である顧客から「愛」される営業になるために何が必要かを考えるヒントにしていただければと思います。

参考:「2018 Buyer Preferences Study」(CSO Insights, 5 Jun, 2018)