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これまでトライツブログでは、トライツのコンサルティング経験から「Webの進化に伴って、購買のしかたが変化してきている」というお話をしてきました。が、それを定量的に示すデータはほとんどありませんでした。

しかし、つい最近発表された調査レポートでこの「購買のしかたの変化」を示すデータが見つかりましたので、今回のトライツブログでは、「購買のしかたの変化」とそれが意味していることについて考えてみたいと思います。

調査結果:ファーストコンタクトで顧客が本当に話したいことは?

米国に本社を置くB2Bマーケティングサービス会社HubSpotが最近発表した「HubSpot Sales Perception Survey, Q1 2016」という調査レポートから、「顧客の買い方の変化」を示すデータをご紹介します。

「ファーストコンタクトで買い手が営業担当者と話したい内容」についての調査したところ、購買担当者の多くは単刀直入に「価格(58%)」や「商品がどのように機能するか・デモ(54%)」といった、具体的な内容について話をしたいと考えていることが分かりました。(下表参照)

この購買担当者が期待している項目に、営業担当者が話をしようと計画している項目を重ねてみると、明らかに差が生じていることが分かります。(下表参照)

購買担当者は「価格」や実際に自社で「商品がどのように機能するか」を知りたがっているのに対し、営業担当者は「購入目的」や顧客の「最終ゴール」などの背景情報を確認しつつ「顧客がその商品を購入すべき理由」について顧客に興味付けしようとしている様子がうかがえます。

「話をしたいこと」で顧客と営業に差が生じる理由は?

上記の調査結果を素直に読むと、顧客の要望に合わせて「価格」や「デモ」などの情報を商談の早い段階から提供しよう、ということになるでしょう。しかし、本当にそれでよいのでしょうか。そもそも、このような「話をしたいこと」のズレが生じている理由はなんなのでしょうか。

顧客の購買担当者はすでにWebを駆使してさまざまな情報を収集しています。今やB2B商品であっても、その多くは企業のホームページから商品カタログをはじめとして技術資料や導入実績まで手に入れることが可能です。SNSやブログなどのソーシャルメディアを使えば、利用者の声を見つけられることもあります。

そのように営業に会う前に多くの情報を収集している購買担当者は、実際の販売価格や本当にその商品が自社で使えるのかといったWebではなかなか手に入れられない情報を営業担当者に聞き、それをもとにどこの商品を買うのか、はたまた購入を見送るのかを自分たちで意思決定しようとしています。つまり、顧客の購買担当者の多くは、営業にコンタクトを取るタイミングでは購買プロセスの最後の段階(購買の意思決定の一歩手前)まで進んでいると認識しています。

その一方で、営業担当者はほとんどの場合、いきなり価格の話をしようとはしません。それは、そもそもどの商品が顧客にとってお薦めなのかが分からないので、プロとしてきちんと自信をもって提案するためにも「購入の目的は何か」「何が最終ゴールなのか」といった話を聞かせてほしいと思っています。そして、その情報をもとに顧客に最適な商品を提案し、購入のメリットについてきちんと理解してもらった上でお見積を出す、という手順で進めようとしています。なので、営業担当者は顧客とのファーストコンタクトの時点では、購買プロセスの最初の段階から進めていこうとしています。

この状態をイメージするなら、自分は購買プロセスの最終段階にいると捉えている顧客と、顧客の状況に関わらず購買プロセスの最初から話を進めたいと思っている営業。この両者の思惑のズレが、ファーストコンタクトで話をしたいことの差、つまり上で紹介したグラフの結果につながっているのです。

営業担当者のペースに顧客は付き合ってくれない

かといって、顧客の要望に合わせて見積だけを提出するとどうなるでしょうか。自社の商品の良さを正しく理解してもらえないまま、価格勝負になったり商談の流れが相手任せになってしまいがちです。これは売れない営業担当者が陥りがちな「受け身営業パターン」です。

こんなとき、営業マネージャは「改めて商品の良さを説明しろ!」「相手が何をしたいのかしっかりヒアリングせよ!」などとアドバイスしますが、それを強引に客先でやろうとすると顧客には「せっかくここまで進めてきたのに」「まどろっこしい」「時間のムダ」などという印象を持たれ、大きなストレスを与えてしまうでしょう。その結果、正しい自社の情報を顧客に伝えられないばかりか、顧客と連絡が取れなくなったりするリスクが出てきてしまいます。

単に自社の商品を売るためだけでなく、正しい情報を得て適切に判断することの必要性を伝えないと、顧客は付き合ってくれないのです。

事例:顧客の購買プロセスを客観的に確認する工夫

ある業務システム会社では、顧客が我流で進めている購買プロセスを客観的にチェックする営業ツールを使って、顧客との最初の面談を進めています。

「色々と見比べてきた結果、候補はおおよそ絞りこめています」
「仕様もほぼ固まっているので、これで見積を出してください」
と言う顧客に対して、
「そもそもの課題は何で、現在の候補でそれがどこまで解決できるのか」
「運用上のリスクはないのか」
「導入・運用工数やシステム費用に対して、満足できるリターンを得られるのか」
といった独自のチェックリストを使って、これまでの検討状況を顧客と一緒に棚卸しするのです。

このツールを使うと、「この視点は抜けていた」「改めてちゃんと考え直した方がよさそうだ」と、顧客が自ら購買プロセスの最初の方に戻ろうと判断してくれるなど、営業担当者に相談しながら購買プロセスを進めようと思ってもらえる状態が作れるようになりました。

結論を急ぐ顧客を立ち止まらせる工夫が重要

今後もWebのさらなる進化によって、顧客は営業の見えないところで購買プロセスを進めていくことになるでしょう。そうなると今以上に「知りたいことにだけ答えてくれればいい」と言う顧客は増えるはずです。

そんな「結論を急ぐ」顧客に「ちょっとそんなに焦らず、私の話を聞いてください」と言い、顧客を立ち止まらせることができる工夫が、今後の営業担当者にとってますます重要になってくる。今回の調査結果はそんなことを教えてくれているのではないかと思います。

 

参考:Buyers Speak Out: How Sales Needs To Evolve|HubSpot