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「セールスマンの死」という営業に携わる人ならギョッとしてしまうようなタイトルの古い映画があります。蓄音機などの当時としては最先端のテクノロジーや、アラスカやアフリカといった当時は手つかずの新市場に飛び込む機会がありながらも、チャレンジせずに昔ながらの営業活動を続けてしまった主人公が、仕事や家庭そして人生からも居場所を失ってしまう、というとても暗いストーリーで、1951年の作品です。 

そこから半世紀以上経過した2013年に「米国人の仕事の約半分がAIやロボットに代替可能」という論文が出て、2015~2017年ごろには初期のAIツールやSalesTechと呼ばれるテクノロジーが雨後の筍のように広まったことで、この「セールスマンの死」が現実のものになるのではないか、という論文やブログ記事が出てきました。トライツブログでも2018年に「『セールスマンの死』は杞憂?営業が生き残るために必要なこと」という記事を書いています。 

この記事から7年が経過し、ChatGPTなどの生成AIが登場し日本企業にも普及し始めています。そこで今回は、AIが当たり前のものになってきた今だからこそ、「AI時代のB2B営業」について改めて考えてみたいと思います。「セールスマンの死」が本当のものになってしまうのか。営業担当者とAIが共存共栄できるのか。B2B営業の近未来を覗いてみましょう 

2025年上半期が過ぎて見えてきた「AI時代のB2B営業」の近未来像 

今回最初にご紹介するのは、New Sales Expert社の記事「B2B Sales in the Age of AI(AI時代のB2B営業)。この記事が予見するB2B営業の近未来は以下のようなものです。 

AIに関するよくある誤解は、AIが単に人間に取って代わるというものです。これは真実ではありません。そうではなく、AIができる業務の価値が下がり、AIではできない業務の重要性が高まるのです。(中略) 

B2B営業においては、データ入力、リスト作成、見込客獲得のためのメール送付、メールでのフォローアップなど、自動化しやすい業務はAIが担当するでしょう。しかし、これによって営業の役割がなくなるわけではなく、その焦点がより明確になるのです。営業担当者は、毎日何百人もの見込客に電話をかける代わりに、アカウント計画の策定や顧客との関係構築、そしてAIが生み出すコンテンツを活用した商談の質の向上に専念できるようになります。

この記事が予見するB2B営業の世界はいたってシンプル。AIが得意な反復的・機械的な作業はAIに任せ、生身の営業担当者はもっと顧客との関係性や商談の質の向上のための人間らしい業務に専念するというもの。一見すると単純作業から解放されるバラ色の世界のように見えますが、実は若手や経験の浅い担当者には厳しい世界になるかもしれません。記事の続きはこちら。 

エントリーレベルの仕事がAIに代替される時代に若手メンバーをどう育成するか 

AIはトップパフォーマーの能力をさらに高める一方で、入門レベルのスキルしか持たない営業担当者の存在を消し去ってしまうでしょう。ターゲットリストの構築・維持や見込客向けの大量のコンタクトに特化したインサイドセールスなど、エントリーレベルの役割は、存続の脅威にさらされているのです。また、AI を導入する組織は生身の営業アシスタントの数を減らし、そのために割いていた人件費が直接顧客と接する営業担当者やカスタマーサクセスの担当者を増やすために使われるようになるでしょう。 

これに関して営業マネージャーとして受け取るべきメッセージは明確です。今すぐ若手社員のスキルアップを図りましょう。AIと戦うのではなく、AIをうまく活用できるようにすることに重点を置いてください。

これまでのB2B営業はブログ記事やホワイトペーパーに動画などのデジタルコンテンツの作成や、ザ・モデル型の分業組織の導入によって、多くのエントリーレベルの営業メンバーや営業アシスタントを必要としていました。ちなみに、角川が2019年に著した「営業デジタル改革」(日本経済新聞出版社)の一節でも、デジタル時代に合わせて営業を企画デザインする人員構成として、「あくまでも1つの目安なのですが、今後はウェブサイトの運営も含めると、6対4あるいは5対5で、営業担当者の数と支援するスタッフの数が同じくらいになっていく必要があると思います」と記していました。 

これらに対し、生成AIの登場・普及によって、営業支援組織のうち反復的で機械的な作業が半ば自動化され、営業支援組織は少人数で様々な業務を効率的にこなす筋肉質な部隊へと変わっていくだろう、という記事の主張は、近年の生成AIのB2B営業での活用状況をウォッチしていて納得できるものです。 

ただ、そうなった場合に、若手や経験の浅い担当者が入門レベルの仕事で経験を積む機会を失われてしまう、という問題が発生してしまいます。AIを活用した促成栽培のしくみを整えるのか、必要なスキルを既に有している人に絞って採用するのか、特に若手営業人材の育成の方針をどうするかは改めて考えるべき課題になってくると思います。 

AI時代で活躍するB2B営業に求められる能力とは 

記事の後半では、これまで見てきたようなAI時代で活躍するために必要なB2B営業の能力について、以下のように記しています。 

AIがコンテンツを生成できる世界では、単に記事や提案書をまとめるだけでは不十分です。何がオリジナルの意見であり、どのように顧客に伝えるかを考えなければなりません。 
これからの優れた営業担当者が行うこと: 
・顧客よりも上手に顧客のストーリーを話す 
・自社製品が課題解決に必要不可欠だとなるように、問題・解決策を再定義する 
・最大限の説得力を持つために、最適な言葉遣い/構成/表現を選択する

この文章を読んで最初に感じたのは、「言わんとすることはよくわかるものの、ブログ記事にするにはもっとシンプルで分かりやすいキーワードが欲しい」ということ。このことが頭の片隅にあったときに、上手く言語化してくれたのがSelling from the Heartという営業系ポッドキャスト番組の6月14日の回でした。 

AI時代の営業担当者に求められる「センスメイキングとコネクション」 

そこでは、上記の能力を「センスメイキングとコネクション」、つまり顧客の状況に合わせて問題や課題を意味やストーリーを再定義・再構成する力と、顧客と関係構築し信頼を得る力こそが、AI時代の営業担当者に求められる能力だというのです。 

AIに私の業務内容をすべて伝えた上で、AIが私という存在を置き換えられるかを質問したところ、AIは「それは出来ない」と言うのです。そこで、その理由をたずねたところ、生身の営業担当者をAIに「置き換えられない主な理由はセンスメイキングとコネクションだ」というのです。 

AIは単なる情報の集まりであり、オリジナルのストーリーを持っていません。一方で、全ての営業担当者には、自分が顧客に伝えているストーリーを明らかにすることが求められます。顧客のストーリーを深く理解しそれにあった事例を具体的に紹介するというセンスメイキングの力によって、顧客はあなたを理解し、共感し、あなたから買いたいと思うようになるのです。

AIは様々な情報を集められますし、それらを組み合わせて1つの文章や資料にまとめるのも得意です。ただ、そこには「独自の意見や観点」はありません。顧客と一緒に課題を分析したり、解決策のアイデアを出すのはAIが優れているものの、最終的に「これだ!」というストーリーを組み立てるのは人間である営業担当者に委ねられています。また、これらの会話を通じて顧客との信頼関係を構築するということも、AIには到底できるものではありません。 

簡単に言ってしまうと、生成AIの力も借りながら顧客のために考えてストーリーを組み立て、顧客のために動いて信頼を勝ち取る、というとても人間臭い役割こそがAI時代のB2B営業に求められるということなのだと思うのです。 

AIを使いこなすだけでなく、AIにはできない価値を提供できる存在になろう 

生成AIが登場した当初は、AIを使いこなせる営業の重要性が説かれていました。しかし、AIのアウトプットがこなれてきたため、楽をしようと思えば生成AIに何でも質問し、それをメール本文や提案書に貼り付けるだけでもそれっぽいものが作れるようにもなっています。ただ、そのような作業をしているだけならAIで十分。顧客にとって真に価値のある存在になるための「センスメイキングとコネクション」が、これからの時代に成功するための不可欠な要素だというのは間違いないでしょう。 

2018年の記事「『セールスマンの死』は杞憂?営業が生き残るために必要なこと」の結論は、「顧客の購買活動の変化や、AIの活用といった大きな変化に対応できないB2B営業担当者はその役割を失ってしまう(=死)ので、顧客に求められる課題解決の専門家としてのスキルを高めよう」というものでした。 

今回お読みいただいた記事では、この2018年の記事にある「変化に対応してAIを活用しよう」という主張の確からしさを確認することができたように思います。さらにそれだけでなく、「AIでは代替できない人間ならではの価値を提供できるようになろう」という、AIが実現できる機能やAIが得意なことが具体的に見えてきた2025年だからこその新しい知見も得られたのではないでしょうか。 

トライツブログではこれからも生成AIなどのテクノロジーや顧客の購買活動の変化といったトレンドと、それに対応して勝ち残っていくための考え方について調査していきますので、ぜひ継続してお読みください。 

参考: 
B2B Sales in the Age of AI: Why Top Salespeople Will Thrive While the Repetitive Roles Disappear」(New Sales Expert LLC., 2025 
Practical AI Tips for Sales Professionals」(Morgan J Ingram, Larry Levine and Darrell Amy, Selling from the Heart Podcast, June 14, 2025