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日本の営業組織でも、AIが業務で使えるように整備が進んできました。私のクライアント企業でも、業務に使ってよいAIサービスが指定され、使い方のルールが発信され、またさらに進んだ企業では自社内に閉じた独自AIシステムが構築されて安心して使えるようになっています。
AIによる事務作業の効率化に伴って、特に海外では営業担当者の「その人らしさ」や「人間力」に焦点を当てた書籍やポッドキャスト番組が増えています。生成AIが出てくるまではSalesTechと言われるデジタルツール活用最盛期だったのが、まるで遠い昔のよう。いかにAIには出せない「その人らしさ」を活かして売るかが重要視されています。
日本でも一時期、「これからはデジタルマーケティングだ」「泥臭い従来型の営業は非効率」なんて風潮がありましたが、特にB2Bの営業においてはそれは全くの間違いで、ハイタッチな営業研修に取り組む企業が増えてきています。
そこで今回は、営業担当者としての「人間力」の根幹である、マインドについて改めて考えてみましょう。「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」という名言があります。私たちの日々の行動や習慣、その人となりの土台となるのが心(マインド)だとすると、営業担当者として成功するために持つべきマインドがどのようなものなのか、一緒に見ていきましょう。
営業の第一人者が考える優れたセールスパーソンの定義とは
今回ご紹介するのが2020年に発売された、「A Mind for Sales」という営業本。著者のマーク・ハンター氏は他にも複数の営業のベストセラーを持っており、営業系のカンファレンスではまず間違いなく登壇する営業の第一人者。そして、Sales LogicおよびThe Sales Hunterという営業系ポッドキャスト番組のホストとして、定期的に情報発信もしています。
そんなハンター氏が考える優れたセールスパーソンの定義はこちら。
優れたセールスパーソンの定義は優れたリーダーの定義と同じです。つまり、不可能だと思っていたことを他者が実現できるように支援することです。
リーダーとセールスパーソンの共通点は、「自分がやったこと」ではなく「相手にやってもらえたこと」によって成果が測られるということ。リーダーの場合はメンバーが成長し目標達成することのみが成果になりますし、セールスパーソンの場合は顧客が課題に向き合って解決策を選び、購買プロセスを完遂することによって成果を得ます。このように相手が実現できなかったことを、実現できるように手助けすることが優れたセールスパーソンだというのです。
優れたセールスパーソンになるための「基本的な心がまえ」
そして、優れたセールスパーソンになるために大事な心がまえ、マインドについてハンター氏は著書の最後に18か条を挙げています。まず最初の5か条から見ていきましょう。
1. 優れたセールスパーソンは目標を設定します。彼らの目標についての考え方はシンプルです:目標が成功の限界を突破しないなら、その目標は持つ価値がありません。あなたにとっての限界を突破する高い目標は何ですか。そして、その目標を達成するための計画は何ですか。
2. 優れたセールスパーソンは、自分と周りの人たちの時間を大切にします。彼らはより多くの時間があるからではなく、持っている時間をより有効に活用しているからこそ、より多くの成果を上げているのです。また、自分の時間を大事にするだけでなく、周りの人たちの時間も尊重し、無駄にすることがありません。
3. 優れたセールスパーソンは平均に満足しません。平均は他人が毎日目指すものです。優れた営業担当者は平均に満足しません。彼らにとって平均は敗北です。
4. 優れたセールスパーソンは、すべての時間を顧客に影響を与えて変革をもたらすために活用し、出会うすべての人々が成功するように支援することを目指しています。彼らは毎日を、「顧客のために違いを生み出す」という使命を持ってスタートします。
5. 優れたセールスパーソンは、自分の役割を奉仕型のリーダーだと認識しています。奉仕型のリーダーとは、相手を最優先し、彼らが功績を達成するまで支援し続ける人です。
セールスパーソンとして持つべき基本的な心がまえ、マインドセットについての5項目です。このセールスパーソンと相対する顧客の立場に立って、またこのセールスパーソンの同僚や上司の立場に立ってみると、このようなマインドの持ち主であれば確かに頼もしいと思える内容になっていると思います。もちろん、すべてが正しく、すべてを取り入れなければならないというわけではありません。皆さんにとって「確かにそうだ」と思えるものを見つける、というスタンスで続きもお読みください。
優れたセールスパーソンになるための「営業活動に対する姿勢」
6. 優れたセールスパーソンは見込客発掘活動(プロスペクティング)の重要性を理解し、毎日のルーティンに組み込んでいます。彼らは、顧客や商談が欲しいなら、まず見込客を探さなければならないことを知っています。
7. 優れたセールスパーソンは、次の日の予定を決めずに一日を終えることはありません。
8. 優れたセールスパーソンは、仕事中だけでなくあらゆる場面で楽観的です。楽観主義は、困難な状況でも明確に考えることです。楽観主義は最大の成果を生み出す心の燃料です。
9. 優れたセールスパーソンは常に学び続けています。平均的な人と優れた人の違いは、知識に対する見方にあります。彼らは、学びは決して終わらないことを知っています。なぜなら、学ぶべきことは常に存在するからです。そして、学ぶほど他者を助けられることを知っています。
10. 優れたセールスパーソンは、営業プロセスを継続的に進化させています。顧客の変化に合わせて、営業プロセスも変化します。彼らは自分の仕事を継続的に評価し、改善する方法を探し続けます。
11. 優れたセールスパーソンは営業プロセスを前進させるのは自分の責任だと自覚しています。一部の人は責任を顧客などの相手に転嫁してしまいますが、優れたセールスパーソンはそれを自分の責任だと自負しています。
12. 優れたセールスパーソンは、終業時間で仕事を止めてしまいません。営業とは、24時間365日続くライフスタイルそのものです。彼らは、自分がやっていることに心血を注いでおり、他人を助ける情熱が自身のミッションを推進するエネルギー源になっています。
6番から12番は営業活動に対する姿勢について。常に学んで自分の仕事を改善し続けるなど、どんな職業においても大事なことが書かれていると思います。私がこの中で一番好きなのが、6番の「見込客発掘活動」について、目の前の商談で忙しかったり業績が好調だったりすると、ついサボってしまいがちなのが商談の種まきとなる地道な営業活動。調子が良いときも悪いときも、日々継続して取り組まなければならないというのは、当たり前ですが極めて大事なポイントだと思います。
優れたセールスパーソンになるための「人生哲学」
それでは最後のセクション、13番から18番までを一気に見ていきましょう。
13. 優れたセールスパーソンは、高い倫理観を持っています。信頼はビジネスの通貨であり、信頼は倫理観の基盤の上に築かれます。誠実さは、必要に応じてオンオフできるものではありません。誠実さは毎日築き上げるものなのです。
14. 優れたセールスパーソンは、自分の仕事に誇りを持っています。誇りを持つとは、自分に自信があり、自分の仕事が関わる相手に違いを生みだすとを知っていることです。
15. 優れたセールスパーソンは、深い質問を投げかけます。彼らは顧客に質問することに熱狂しています。なぜなら、それによって顧客とエキサイティングな会話が生まれるからです。
16. 優れたセールスパーソンは、過去ではなく、今日やることを大事にしています。多くの営業担当者は、過去の数字に囚われています。一方で優れたセールスパーソンは、毎日の行動の積み重ねが成果につながると信じて働いています。
17. 優れたセールスパーソンは、自身を成長させられるつながりを構築しています。彼らは互いに学び合い、学びによってより高いレベルの成功を達成できると信じています。
18. 優れたセールスパーソンは毎日を最大限に活用し、あらゆる課題をチャンスと捉えて生きています。毎日が最大限に生きるための神から与えられた最高の贈り物なのです。
15番を除いて、これまでよりも一気に抽象度が高くなり、営業としての心構えというよりも、人生哲学とでもいうべき内容になっています。また、18番などはキリスト教的思想がベースになっていますので、宗教的思想を持つことがあまりない私たちには、ちょっと違和感があるかもしれません。ただ、これらのマインドを持っていることで、日々の大変な業務に耐えられる頑健な心が育つ、ということはあるのだろうとも感じます。
自分自身の羅針盤となる心がまえについて考え、それから活力を手に入れよう
今回長々とハンター氏が考える「優れたセールスパーソンになるための心がまえ」を紹介しましたが、大事なのはこれらをそっくりそのまま受け入れることではありません。私たちならではの心がまえ、マインドセットがどのようなものかを考え、それに定期的に立ち戻り、そこから活力を得て日々の営業活動にまた戻っていくことだと思うのです。
皆さんが営業活動をする上で大事にしていることや、信条はどんなことでしょうか。ハンター氏のような18か条、いやもっと短い10か条、5か条を作るとしたらどんな文章になるでしょうか。そして皆さんの顧客の立場から見て、そのような信条、マインドを持っている営業担当者と一緒に仕事をしたいと思えるものになっているでしょうか。
AIの活用が広まったことによって、調べものや資料作成に割く時間が大幅に減少しようとしています。そして、その浮いた時間でやるべきは、できるだけ多くの時間を見込客や顧客と一緒に過ごすことでしょう。その際ににじみ出てしまう人間性の元となるのが、私たちが普段は意識することがあまりないマインドなのです。ぜひ今回ご紹介した18か条を参考にして、皆さんが日々意識したいマインドや信条、大事にしたいことを考えるきっかけにしてみてください。
参考:「A Mind for Sales: Daily Habits and Practical Strategies for Sales」(Mark Hunter, HarperCollins Leadership of HarperCollins Focus LLC., 2020)